第40話


 デビルゴーレムの口が開き、吸えば中毒になるほどの濃度の魔素をユウマに向かって放つ。


「仮称、デビルブレスってところか。”収納、デビルブレス”」

 ユウマはそのブレスを収納していく。

していくが、巨体から放たれるブレスは長時間噴射され続けるため、その間は無防備になってしまう。


「ふっ!」

 その隙をついて、リーダーがナイフを投げつける。


「むっ」

 なんとか後方に飛びのいてそれを回避するが、ブレスは未だ続いており、ユウマを追いかけていく。

 再び収納しようとすれば、リーダーから更なる攻撃が繰り出されることは容易に想像ができる。


「だったら、こうか」

 ユウマは腰の武器に手を当てると、居合のような動きでそれを振るい、デビルブレスを真っ二つにする。

 その太刀筋はつたないものだったが、武器からは衝撃波のようなものが勢いよく撃ちだされ、そのままデビルゴーレムの口のあたりをすっぱりと切り裂いた。


「GAUUU」

 意志があるのか、デビルゴーレムは動揺したような反応を見せる。


「な、なんだと!?」

 それ以上に動揺しているのはリーダーだった。


「おー、やっぱこれはすごいな」

 そんな反応に構わず、ユウマは手にした一振りの刀を見て感心していた。


 闇を切り裂き、魔力によって守られている強固なゴーレムにすら傷をつけた。


「神刀村正宗――俺ですら聞いたことのある有名な刀二つが融合したとなると、ゴーレムくらいは倒せるな……それじゃあ、悪いが攻撃に転じさせてもらおうか」

 ふっと不敵な笑みを浮かべたユウマはそう言うと一つ跳躍する。


「”展開、岩”」

 そして、デビルゴーレムには通用しなかった岩を展開する。

 それも自分の後方に。


「いけえええ!」

 岩はユウマの靴の裏に出現すると、そのまま足場として推進力を生み出し、ユウマを一瞬のうちにデビルゴーレムの元まで届ける。


「”収納、岩”」

 寸前まで来たところでユウマは岩を収納する。


「一刀、両断!」

 ユウマは言葉にイメージを乗せて、デビルゴーレムに向かって神刀村正宗を振るう。


 その言葉のとおり、イメージのとおり――いや言葉以上に、イメージ以上の結果を残す。


「あらま、思った以上に振れたなあ」

 目の前に広がる光景にやりすぎてしまったかと乾いた笑いを浮かべるユウマ。

 横にひと振りするだけのつもりだったが、想像以上に刀が手にしっくりときたため十字に三度振るっていた。


 剣筋そのままに、バラバラに切り刻まれるデビルゴーレム。


「……はっ?」

 顎が外れてしまうのではないかというほどリーダーは呆然としながら、なんとかそれだけ口にした。


 ユウマはデビルゴーレムの欠片を蹴って、その勢いでリーダーのすぐそばに着地する。

 そして、刀をリーダーの首元へと突きつけた。


「動くな」

 気の抜けた表情をしているが、言葉はドスが効いていた。


「ぐっ、まだ……」

「させんよ」

 次の手をうとうとするリーダーだったが、いつの間にか後ろに回り込んでいたタイグルがリーダーの手を強く握り、動きを封じる。


「”展開、縄"。ほら、これを使ってくれ」

「うむ、助かる」

 ユウマから縄を受け取ったタイグルは、手早くリーダーを縛り上げる。


「さて、他のやつらも縛って連れて行くか。”展開、縄縄縄”」

 ユウマは縄を展開すると、リリアーナと協力してソード、スピア、カーズの三人を縛りあげていく。


「無事ですか!」

 そのタイミングでマリアスが登場する。しかも、数人の冒険者を引き連れてきている。


 このゴーレムの巨体は目立ち、戦闘音は周囲に響き渡り、多くの住民が様子を見に来ており騒動になっていた。

 騒ぎを通報した住民によってマリアスが駆け付けた。


「おぉ、マリアスか。うむ、よく来たのう。こやつらを連行しとくれ」

「あぁ、それは助かる。俺たちは戦闘で疲れたから後処理よろしく。あぁ、その前に……おい、カーズ。おい、目を覚ませ」

 ユウマはカーズのもとへと近づくと顔を何度かはたき、意識を取り戻させる。


「……はっ! な、何が!? 顔が痛い!」

「おい、こっちを向くんだ」

 ユウマは怒りのこもった目でカーズを睨みつける。


「ひっ! な、なんだ、リーダー! スピア! ソード!」

 状況を飲み込めないカーズは必死に仲間に呼びかける。


「うるっさい! いいから少し黙れ。お前の仲間は全員捕縛した。お前には聞きたいことがあったから、起こしたんだ。俺の質問に答えろ」

「……わ、わかった」

 怯えたように身を竦めたカーズは今のやりとりのうちに視線を動かして、ユウマの説明のとおり仲間が捕らえられているのを確認したため、ごくりと唾をのんで覚悟を決める。

 ユウマが何を聞くのかわかっていたマリアスたちは状況を見守っていた。


「お前たち、この周辺の家々に呪いを撒いただろ? その中に俺の知り合いがいる。どうやれば呪いが解除できるか今すぐ吐け」

「……あれは俺が作り出した呪い薬を飲んだ結果だ。身体の中から呪いを生み出すようにする薬だ」

 そこまでの話を聞いて、ミズの症状と一致していると判断する。


「理由はわかった。さっさと解呪方法を教えろ」

「……俺の胸元のポケットに解呪の薬が入っている。それを飲めば呪いが消える」

「なるほど、嘘じゃないだろうな? ”収納、解呪の薬”」

 ユウマはカーズの胸ポケットから薬を取り出すと、収納してその説明を確認する。


『解呪の薬:呪いの薬による効力を中和し、呪いを解除する』


「どうやら本物のようだ。これは俺がもらっていく。連行された先で、この薬の作り方を話すんだ――絶対にだ」

「わ、わかった……」

「それじゃ、マリアス、タイグル。あとのことは頼んだ」

 呆然とするカーズをよそに、ぱっと彼から離れたユウマはこれで用済みだと立ち上がると、リリアーナを伴ってミズの家へと向かって行った。


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