第38話


「もしかして……」

 ユウマの予想はすぐに現実のものになる。

リーダーが手をあてた場所を中心に、大地に大きな魔法陣が出現した。


「リリアーナ!」

「はい!」

 ユウマの呼びかけに素早く反応したリリアーナが思い切り拳を地面に突き立てようとする。


「ふふっ、遅いです」

 拳が振り下ろされる前に魔法陣は発動される。


『GUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

 赤い光を放った地面から一瞬のうちに巨大なゴーレムが姿を現した。


 十メートルを超える巨体。

 ぬらりと動き出した周囲にある家よりもはるかに高く、大きく、強力な魔力を内包し、その声は街中に響き渡る。


「さて、これが私の手ですが……あなたはどうされますか?」

 リーダーが不適な笑みでゴーレムの足に手を触れる。


「どうされますか? って答えは一つ。リリアーナ、タイグル! やるぞ!」

「了解です!」

「承知!」

 二人は返事をすると、すぐに動き出す。

 リリアーナはゴーレムの右足に向かい、タイグルは左足へと向かう。


「やりなさい」

 リーダーはシンプルな命令を下し、後方に下がって距離をとる。


 巨体にも関わらずゴーレムの動きは素早く、その速度を持ってリリアーナに拳が振り下ろされる。


「くっ!」

 リリアーナはなんとかそれを避けるが、勢いを止められてしまう。


「ならば!」

 拳を振り下ろしている間はタイグルへの注意は疎かになっている。

 その隙にタイグルが距離を詰めようとする。


『GAAAAAA!』

 しかし、ゴーレムの右手がタイグルへと襲いかかる。


「なんと!?」

 それは、リリアーナを攻撃したゴーレムではなく、新たに呼び出された二体目のゴーレムだった。


「すげえな。これだけ巨大なゴーレムを二体も呼び出すのか」

 ユウマは単純にリーダーの能力に感心している。


「ふう、なかなか厳しい状況にあるあなた方に朗報をお伝えしましょう。さすがに私でもこのサイズのゴーレムを二体も呼び出すのはひと苦労です。つまり、これ以上の戦力の追加はありませんよ」

 リーダーは自分が優位にたったと感じたため、そんなことをユウマたちに告げる。


「なるほどな。まあ、うちの二人もなかなか強いぜ」

 ユウマも余裕の笑みを浮かべて、口撃する。


「ならば、力を見せてもらおうか」

 その反応に苛立ちを覚えたリーダーの顔からは表情がなくなり、そう冷たく告げた。


「二人とも、やれるか?」

 二体に増えた巨大ゴーレム。 

 それに対して、リリアーナとタイグルが戦えるか? それを確認する。


「もちろんです!」

「無論!」

 問題なしと返事をする二人はそれぞれ拳を構えると一体ずつゴーレムへと向かって行く。


 リリアーナは元気よく返事をしたものの、攻撃を避けるので精一杯になっている。

 一方でタイグルは最小限の足さばきでゴーレムの攻撃を避けて、距離をじわじわと詰めていく。

 

「なるほど」

 その動きをリリアーナは横目で確認していた。

 現在の自分の力で対抗するのが難しいのであれば、成長するしかない。


 そして、お手本がすぐ近くにいるのであればそれを使わない手はない。


「ふっ! もっと! こう!」

 大きく避けていたリリアーナは徐々に徐々に回避幅を小さくしていく。

 ゴーレムの動きを確認し、タイグルの動きをイメージして避ける。


 リリアーナには十分なポテンシャルがある。

 しかし、これまで格闘を避けていた彼女はまだ自分の能力を使いこなせていない。


「まだ! まだです!」

 それを今まさに、自分の成長に繋げて、加速度的に彼女の能力が上がっていく。


「さて、俺はあいつを直接狙って行くか。”展開、石石石石石石石”」

 ユウマは石を無数に生み出していく。

 リーダーを囲むように展開されたそれは、ほぼ同時に襲いかかっていく。


「これは、召喚魔法?」

 それを見たリーダーは一瞬だけ驚いた表情を見せるが、素早い動きで回避していきそのうちの一つを手で受け止める。


「石程度じゃダメということか。あいつらを統べているやつだけのことはある」

 魔導師系の優男に見得ていたが、動きに関してはタイグルに匹敵するものがあり、勢いのある石を受け止める目と力を持っている。


「まあ、集中を乱すだけでもあいつらの加勢になるか。”展開、石石剣槍岩”」

 ユウマは石だけでなく、他の武器なども攻撃用に展開していく。


「くっ! さすがに、これだけ種類があると、なかなか、避けるのも大変ですね」

 攻撃の種類が変化することで、避けるタイミングも変わる。

 そのため、先ほど石だけの時に比べてリーダーも回避に集中せざるを得ない。


「”展開、ナイフ剣石槍”」

 続けざまにユウマは攻撃を展開していく。彼の詠唱に合わせて武器が乱舞する。


 タイミングをずらしてはいるものの、リーダーはその動きに徐々に慣れていく。


「なかなか面白い、見たことのない攻撃方法ですね。ですが……ワンパターンなら避けるのは簡単ですよ」

 その言葉どおり、リーダーは全ての攻撃を避けて槍の柄を掴む。


「お返しです!」

 リーダーはユウマに向かって槍を投擲する。勢いはユウマが魔法で射出した時と同レベル。


「おぉ、同じような攻撃を受けるとはな……”収納、槍”」

 しかし、ユウマはこうなることを想定しており、自分と同種の攻撃を受けても即座に収納できるように練習していた。


「ほう、やりますね」

「お前こそな」

 リーダーとユウマはにらみ合いながら、ニヤリと笑いあう。


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