第32話


「さて、それじゃあ本題に戻ろうか」

 オーラの件で話が横道にそれてしまったため、ユウマがもとに戻す。


「そ、そうでした。妹を助けて下さい!」

 ボブスもオーラに集中していたため、話が戻ったことで二人に懇願する。


「話はわかった。妹が病気で、治療するには洞窟にある特別な水が必要だと。そして、その水にはなんでも治療する力があると……」

「そのとおりなんです!」

 ユウマがボブスの話を改めてシンプルにすると、ボブスは理解してくれたことに喜び、笑顔になった。


「うーん、別に洞窟に行くのは問題ないけど、他のところが気になるなあ」

「私もです……」

 これまでボブスから聞いた説明に二人はいくつか疑問を持っていた。


「ど、どういったところにでしょうか……?」

 ボブスは必死であるため、慌てた様子でどこに疑問があるのかを尋ねる。


「気になることその一、洞窟の水の情報は誰にいつ頃聞いたんだ?」

「え? 洞窟の水についてですか?」

 予想外の質問にボブスは虚を突かれる。


「えっと、あれはいつだったかな? 確か一か月くらい前に、医者と治癒師に見放された頃に、辛さから逃げるため酒場に立ち寄ったんです。そこでその噂を耳にしました」

 戸惑いながらもそう話すボブスの回答にユウマは腕を組んで考えている。


「あの、妹さんが体調不良になったのはいつ頃ですか?」

「三か月前の、すごく晴れた日だったと思います。妹は一人で遊びに出かけて、帰ってしばらくしたら熱を出してそのまま寝込んでしまいました……」

 大きな体を小さくしたボブスのこの答えに今度はリリアーナが考え込む。


「次の質問、他に妹さんのように病気になったやつはいるか? 老若男女問わずで」

「……確かに、言われてみたらうちの周囲に何件か病人が出たという話を聞いた、かもしれないです」

 妹のことでいっぱいいっぱいになりながら仕事をしていたボブスは、周囲にまで目を向ける余裕がなかった。


 しかし、情報としては耳に入っていたため、改めて考えてみるとそんな話を聞いた気がしていた。


「これは……」

「えぇ……」

 ユウマとリリアーナは同じ結論に至っている――これは、仕組まれたのかもしれない、と。


「最終的には洞窟に行くかもしれない。しれないが、まずは妹さんを見させてもらっていいか?」

「え? は、はい! それじゃあ、早速でいいですか?」

「もちろんだ」

 見るとなれば、即行動しようと考えユウマは即答する。


 店では結局何も頼まなかったため、ボブスがお礼にと場所代をいくばくか支払って出ていく。


 街をしばらく歩いてボブスの家に向かう。

 道中で、ユウマとリリアーナは無言でいる。今回の一件、明らかに不穏なことであると感じているためだった。


 家に到着すると、ボブスは抑えめの声で妹の名を呼び、静かに部屋に入っていく。


「お兄ちゃん……お客さん?」

「あぁ、ミズの身体を見てくれるんだぞ」

「お医者さん? そうは、見えないけど、でもお兄ちゃんが連れてきてくれたのなら安心だね……」

 弱弱しくそう言ったボブスの妹ミズはゆっくりと身体を起こす。


 大柄なボブスとは正反対で、小柄で茶色のロングヘア―、美しい少女であるが、顔色は芳しくない。

 気丈に振る舞ってはいるものの、明らかに体調が良くないことが見てとれる。


「起きているのが辛いと思うが、少し背中に触るぞ」

「は、はい」

「私も失礼します」

 ユウマはミズの背中の左側に右手をあてる。リリアーナはミズの背中の右側に左手をあてる。


「それじゃあやるぞ」

「はい!」

 ユウマの言葉にリリアーナが頷き、彼女は目を閉じて集中している。


「”収納、呪い”」

 ミズの体調不良の理由。

 それが呪い、恨み、魔法によるもの、どれかわからないが、そのいずれかだと二人は推測していた。


 その正体がどれであったとしても、ユウマがどの言葉を選んでも、イメージによるものであるため、関係はない。

 自身のオーラを収納できるなら呪いすらも飲み込めるだろうとユウマは思っていた。


「……えっ? えっ? えええっ?」

 最初は何をしているのかわからなかったミズは、気づくとゆっくりと身体から何かが抜けていくのを感じ取っていた。


「いけるか?」

 何かが収納できている感覚をつかんだユウマは魔力を込め続ける。


 収納魔法で、ミズの呪いを全て取り除けないかと考えていた。

 驚き戸惑いながらもミズは少しずつ身体が軽くなるのを感じていた。


「……これで、終わりだ」

 これで全て収納し終えたと判断したユウマが魔法を止めた。

 そして、どうだ? とリリアーナの顔を確認した。


 数秒ののち、悲しげな表情のリリアーナが首を横に振った。


「――あぐっ!」

 そして、苦しそうにうめくミズは胸を押さえてうずくまってしまう。


「ダメか……原因わかるか?」

「わかりました。恐らく、心臓ですね」

「そうか」

 二人の短いやりとりを聞いて、ボブスは首を傾げている。


「あ、あのどういうことですか? ミズの顔色が良くなったと思ったら、またもとに戻ってしまいましたが……」

 ボブスはミズの背中を軽く撫でながら二人に質問を投げかけた。


「あー、恐らくミズの具合が悪い理由は彼女の心臓にある。心臓に呪いがかけられていてそこから呪いの力が生み出されて身体を侵食しているようだ――というのが俺の予想」

 先ほどもユウマが口にした呪いという言葉。今もそのことを口にしていた。


 そのことによって、ことの深刻さをボブスが更に噛みしめることとなる。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る