第12話


「――コホン、それでは説明させていただきます」


 気を取り直したように姿勢を正したリリアーナはわざとらしく咳ばらいをすると、収納魔法に対する認識について語り始める。



「そもそも収納魔法というのは、既に世界に使い手はいないと言われている『ロストマジック』なのです」


「ロストマジック……」


 呆然とユウマは言葉を繰り返す。言われている意味は理解している――失われた魔法。



「と、言われても、普通の収納魔法だよ? 単にものを収納することができる魔法。戦いに使うことのできない無能みたいな扱いされたよ?」


 困ったような表情のユウマは城での自分に対する扱いを思い出しながら疑問を投げかける。



「まず、収納魔法が廃れた理由からお話しします。大量の物資を収納することができるマジックバッグが流通し始めてからは収納魔法に注目する人はどんどん減っていって、マジックバッグと同程度のものを身に着ける意味はない。その結果、使い手がいなくなっていきました……今では文献で見かける程度でしょう」


 リリアーナは落ち着いた声音でそう語る。


 この説明でも、収納魔法は大したことがないという印象しか持てない。



「待って下さい。続きがあるんです」


 肩を落としたユウマを見たリリアーナは、声をかけ話を続ける。



「それは一般的に言われている収納魔法のことです」


「一般的に? 俺のは違うってことか?」


 顔を上げたユウマの質問に、真剣な表情のリリアーナはゆっくりと頷いた。



「普通の収納魔法は先ほど話したように、マジックバッグと同程度の力で、カバンの入り口より大きいものを収納することはできません」


「……でも、俺は家を収納してる」


「そのとおりです! ですが、恐らくユウマさんの収納魔法はそれ以外にもきっと普通のソレとは違う力を持っているはずです!」


 それまでの静けさとは打って変わったリリアーナの熱弁を聞いたユウマは自分の右手を見ている。



 なんの気なしに色々なものを収納してきた。それこそ、こういう能力なのだろうと思っていた。


 そして、意外と便利なのは使い方の問題なのだろうと……。



「えっと、例えばだけどこんなのとか”展開、槍”」


 物は試しにとユウマは離れた上空に槍を出現させる。



「……」


 そしてそのまま落ちてくる槍をリリアーナは無言で見ていた。



「あとは、こんなのとか”収納、木”」


 ユウマが近くの木に手を当てると一瞬でそれが収納される。



「”展開、木”」


 そして、収納された木がすぐに元の場所に現れる。まるで、消えたことなどなかったかのように。



「……いや、ええええっ! ど、どういう、えええええっ!?」


 リリアーナはユウマがパパっとやっていることに対して、最大級に驚いていた。



 クリムゾンベアとの戦いで家が現れた時も当然のごとく驚いたが、改めて目の前の収納魔法がおこした結果に対して素直に驚いていた。



「いや、だから今のが収納魔法だよ」


「えええっ? いや、だから収納魔法っていうものはですね、マジックバッグにものを入れる時のような感じで、それ以上のことはできないんですよ!? 離れた場所に槍を出現させることなんてできません! あと、あんなに大きな木を収納することもできないし、ピッタリずれないように同じ場所に出すなんてありえません! はあはあはあはあ……」


 一気にまくしたてたため、リリアーナは息をきらしてしまう。



「お、おう。そ、そうだったのか……俺にはこれが普通だからこういうものだと思っていたよ」


 リリアーナの気迫に気圧されながらユウマは自分の能力の真実を教えてもらったが、それでも実感がわかないまま驚いていた。



「もう一つ」


「まだあるのか、いいから話してくれ」


 これ以上どんなことを言われても驚かないと、気合を入れたユウマは続きを促す。



「このことを知っているのは、この世界でも極一部の人だけです。私は耳を見てもらえればわかるようにエルフで、こう見えても百五十歳を超えています。長い年月をかけて様々な魔法について学んだ私だからこそ知っていることなのです!」


 どうだ、とリリアーナは胸を張っている。



「意外と……歳いってるんだな」


「そこですか! えぇ、そうですよ! 私はあなた方、人族から見たらおばあちゃんかもしれません! でも、エルフは数百年生きるから私なんてまだまだ子どもなんですからね!」


 年齢のことを真顔で突っ込まれたリリアーナは、帽子をギュッと抱き、思わず涙目になりながらユウマに反論していく。



「い、いや、俺が悪かった。確かに見た目は俺よりも年下に見えるし、言葉づかいとかも若々しいし、知識は俺よりたくさんあるよ」


 なんとか機嫌を良くしてもらおうと、ユウマは慌ててフォローをする。



「え、えへへ、そうですか? 確かにちょっと勉強は人より多くしてますけどね。うん、でも真の収納魔法の使い手にあえて嬉しいですっ」


「……真の?」


 機嫌を取り戻したリリアーナは再びユウマが気になるワードを口にした。



「そうです、ユウマさんの収納魔法は通常の収納魔法よりもはるかに強力で特別な力を持っています。それこそが、『真の収納魔法』なんですよ!」


「はあ、なるほど。つまり俺の収納魔法は普通とは違うということか」


 ユウマは興奮しているリリアーナに対して、淡白な反応を返している。テンションの差によって、素直に驚けずにいたためである。



「それにしても、あのクリムゾンベアを倒した槍はなんですか? あれは収納魔法の力ではないですよね?」


「あぁ、あれね。あれは魔王の槍でオルタナっていうんだよ。すげえ強いよな」


「……はっ?」


 何気なく魔王の槍という言葉が出てきたことで再びリリアーナはひどく驚き、口をポカンと開けることとなる。




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