第2話

 姫以外にユウマを見た者はおらず、無事に城を抜け出すことに成功した。



 暗いうちに城から離れて、森へと到着する。



「ふう、ここまでくれば大丈夫だろ。”収納、カーテン”」


 そう言いながらユウマはかぶっていた黒い布を収納する。


暗がりを移動するため、少しでも見つかりにくくするための措置だった。



「”展開、ランタン”」


 そして、暗い森を進むために灯りを取り出す。


 今回の逃亡にあたって、ユウマは城のあちらこちらで備品を拝借していた。



 全て被害を受けたことに対する慰謝料と心の中で銘打っているため、罪悪感はなかった。



 しばらく森を進んでいくと、少し開けた場所に到着する。


 そこには誰かが過去に焚火を行った形跡があり、それは一定の安全があることを意味している。



「”展開、焚火”」


 これは城の中を散策した際にあった残り火を収納しておいたものであり、周囲の木をくべることで立派な焚火が現れる。



「”展開、クッション”」


 自室から持ってきた、ややぼろくなっているクッションを取り出して腰掛ける。



「さて、城での戦利品の確認をしておこう。”一覧”」


 ユウマにしか見ることのできないプレートが目の前に出現する。


そこには彼が城で手に入れたお宝が一覧となって表示されていた。



「結構剣とかの武器も多いな。エアナイフ、サンダーナイフ、フレイムソード……このへんはいわゆる魔剣とかいうやつか……」


 わざわざ宝物庫においてあっただけあって、特別な武器や防具が表示されている。


 そして、それらの装備には簡単な説明が注釈としてついていた。



 『エアナイフ:風の属性を持つナイフ』



 このように表記されている。



「この一言メモが意外と便利だな」


 ユウマがそう思った最大の理由は、装備品ではなく魔道具類についてだった。



 『聖域のテント:魔物を寄せ付けない効力を持つ。見た目以上の広さを持っている。』



 魔道具に関しては名称だけでは効力が分かりづらいものもあり、収納するだけで把握できるのは地球人のユウマにとってありがたいものであった。



「さて、念のためナイフを一つ、剣を一本出して装備して置いて……と、いよいよ例の小部屋で手に入れたものを確認するか」


 宝物庫の奥にあった、たまたまユウマが発見した謎の小部屋に置かれていた箱三つ。


 急いで収納していたが、意味ありげな様子だったため彼もずっと気になっていた。



「”展開、箱”」


 それらは箱のまま目の前に現れる。



「それじゃあ、これから……むっ、硬い」


 三つのうち一番サイズの小さいものの蓋を開けようとする――小さいといってもそれなりのサイズなわけだが、ガチガチに固定されているようで自力で開けることができない。



「これって、開けられないように封印してあるのか……」


 収納魔法を使う様になって、いくらかではあるが魔力を感じることができるようになったユウマは箱自体に何か魔力的な細工がしてあるのを感じ取っていた。



「だったら……”収納、蓋”! ぐぐぐっ、もういっちょ! ”収納、蓋”」


 最初の収納ではガタガタと動いたものの外れなかった。


 それではと、強い意志を持って、強い魔力を込めて、再度箱の蓋を収納する。



 今度もしばらくは拮抗していたが、ユウマの魔法が封印に勝ち、見事蓋だけが収納される。



「これは……剣?」


 サイズは一番小さかったが、それでも一般的な剣が入るだけの大きさであり、中にはひと振りの剣が収納されていた。



「こ、これは、なんかすごいな……”収納、剣”」


 手に取っただけで特別な力を持つものだとわかり、収納することでその名前を確認しようとする。



『聖剣ダインカリバー:勇者が持つ伝説の聖剣』



「…………」


 シンプルな説明だったが、それだけにこの剣がとんでもないものであることがわかる。



「ということは、もしかして……」


 ユウマは残りの二つの箱の蓋も同じように強引にこじ開けて、中にあったものを収納する。



 『魔槍オルタナ:魔王の槍、形を変えることができる』


 『神刀村正宗:異国より伝わった二振りの刀が一つになったもの』



「…………」


 これらの結果を見て、ユウマは絶句していた。



 聖剣に魔槍に神刀。


 宝物庫に置いてあった他の武器たちと比較しても明らかに異質な、強力な、数ランク上どころか桁違いの力を持つ武器が自らの手元にあることに驚きを隠せない。



「……でも、まあ、いっか」


 しかし、それも数十秒程度で落ち着く。



「あの場所は長年誰にも知られていなかったみたいだし、壁も元に戻しておいたからばれないだろ。なんの力も持たない俺があそこに忍び込めたなんて結論に至るやつもいないだろうからな……とりあえず、そろそろ、眠い……”展開、聖域のテント”」


 ユウマは先ほど確認したばかりの聖域のテントを焚火から少し離れた場所に取り出して、この日はそのまま就寝することにした。






 一方で、ユウマがいなくなった城は平穏そのものである。



 毎食、メイドがユウマの部屋に声をかけにいくが、返事がなかったとしてもわざわざ中を確認しないため、逃亡が発覚するまで数日ほどかかる。



 普段使う分の金は以前の予定日に出庫してあり、宝物庫に入れるのは決まった日に決まった人物のみであるため、三日後まで発覚することはなかった。



 ユウマの逃亡はクラスメイトには隠され、公にはされない。


 宝物庫の中身がごっそりと持っていかれたことも公にはできない。



 そして、ユウマと宝の盗難が結びつくことも能力から考えてありえない。


 それでも宝を盗んだ犯人は必ず捜さねばならない。



 そのため、ユウマに対して追っ手がかかることはなく、それよりも宝を盗んだ犯人探しに躍起になって兵士たちは城内の捜索から行っていた。



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