第43話 賭けてみたいだけだ

 俺は、怒っていた。


 当たり前だ。


 学校も、仲間も傷つけたこの男を、絶対に許さないし、一発やり返してやらない

と気が済まない。


 しかし。


 「ほらほらほら! どうしたよ? そんなノロマな攻撃じゃ当たらねえよ!」


 こいつのスピードが、そうさせてくれない。


 俺が壇上へ駆け上がり奇襲を行っても、かなり警戒していたので、あいつをつかみ

取ることが出来ずに、あっさりと避けられてしまった。前のようには油断してくれ

ないだろう。


 「クソッ」


 思わず、腰に掛けた銃を引き抜く。


 「へえ…、お前も持ってたんだな」


 ノロマを煽るだけの、ただの馬鹿ではないらしい。これが光線銃であることを瞬

時に見抜かれた。


 「当たると思ってんのか?」


 「…当てるんだよ」


 俺は、怪獣の太い指でも打ちやすくなった引き金を、引いた。


 ギュイン、という発砲音を合図に照射される光線。


 今まで自分が反応できずに浴びせられてきた光線は、外れた。


 「ほら見ろっ! ひゃはははは!」


 「チッ」


 悔しがる俺を露骨に笑うヒーロー。


 「もう一回…」


 そう思い、引き金を引いた俺に、悲劇が待ち受ける。


 出ない。


 光線が。発砲音すら聞こえないまま、俺は訳が分からないといった具合で引いた

引き金を元に戻す。


 その様子を見たヒーローは再びからかう。


 「お前、知らねえのかよ! ぎゃはははは」


 俺は、その意味がすぐに分かった。


 光線銃は、すぐには再照射できない。


 長くとも、一週に一度の間隔が必要となる。


 時刻は十五時。


 生身の人間に戻る十八時までの三時間。こいつが親切にも俺たちに危害を加えな

いわけがない。三田村と間中を、あれだけボコって、黒音をあんな目に遭わせてし

まったこの男が、悠長にこの三時間を過ごすわけがない。


 「じゃあ、次は俺の番だ。…おらあ!!」


 「ごふっ…!?」


 腹に一発。


 「てめえ、相変わらず硬えんだよぉ!」


 頭部に一発。


 怪獣化して頑丈になってはいるものの、さすがに痛みはある。腹のみぞおちと顔面

の鼻の部分を殴られては、生身状態ほどではないが、やはり痛い。


 ヒーローは、さらにスピードを上げて、次は身体中に連撃を加えた。


 周りの声は、絶望をはらんでいた。


 自分たちを助けに来た怪獣に戸惑いを覚えながらも、日ごろ嘲笑と不愉快で軽蔑

してきた怪獣をこの時ばかりは救世主だと思っていただろう。


 しかし、相変わらずの、この惨状。


 気付いた人間もいるだろう。


 怪獣は、ヒーローから逃げ切ることはあっても、戦闘で勝ったことはないこと

に。怪獣対ヒーローにおいて、怪獣は勝率が未だ0%であることに。


 「おらあ! くたばれえぇ!!」


 連撃の最後の一発を頬に浴びせられた俺は、真後ろに身体が傾いた。


 しかし。


 「っ…!!」


 俺は、倒れなかった。


 絶対に、倒れたくなかった。


 俺が負けたら、次に狙われるのはこの学校の生徒や教師になるから、それは避け

たい。


 そう思っていた、…わけではなく。


 「こんなもんかよ」


 「何っ…!?」


 「お前、避けたりパンチしたり、そういう瞬発的な動きは速くても、威力はヘボ

のままなんだな」


 「はぁ…、はぁ…、なんだと!?」


 連撃を打ち終えたヒーローは、目に見えて疲れていた。


 「おまけにスタミナもない。てかお前、喧嘩したことないだろ? だって、お前

のパンチの仕方とか、ヘロヘロで気持ち悪いし」


 「何が言いたいんだよ!?」


 再び俺の顔を一発殴る。痛かったが、さっきよりも痛くない。そして、もちろん

俺は倒れない。


 「悔しかったら早く撃っちまえよ、お前の銃」


 「ああ、そうしてやるよ!」


 ヒーローは、腰に手を掛ける。


 「へえ、いいんだ。そんな形で勝って」


 「うるさい黙れ! ああそうか、俺に銃を使わせない作戦なんだな!」


 「まあ、半分はそうなるわな」


 「ああっ!?」


 俺は、ふんっと、鼻から弱い息を漏らしながら、言った。


 「賭けてみたいだけだ。俺の思念に」


 「意味わかんねえ…。分かったよ! お望み通り、浴びせてやるよ! このノロ

マぁ!」


 銃を手に持ってから照射までを弾丸のスピードで行い、いとも簡単に俺の腹部に

光線を命中させた。


 痺れる身体。消えかかる意識。


 俺は、その場に、倒れこんだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る