終末の週末—THE WEEKEND OF THE END―

ヒラメキカガヤ

終末の週末―THE WEEKEND OF THE END―

第1話 終わりの始まり

君の心を救うのは君自身だ。

 

いつか、神を名乗る男から言われた言葉。

 

俺は、彼に与えられた力で、『怪獣』と言われる存在を退治する。


俺は、『ヒーロー』としての役目を全うする。






 

「ぎいやああああああ!」

 

無理、無理。


無理無理無理むr。

 

無理だって!

 

ビルが建ち並ぶ大都会で、俺は、追われていた。

 

ヒーローに。

 

昔のようなパツパツとしたタイツみたいなものではなく、赤を基調としたブレザー

のようなジャケットに、紺色のボトムスを纏った、いわば現代的なヒーロー。


 片や、俺と言えば、Tシャツにジーンズパンツと、一般人にかなり近い服装だが、服からはみ出ている部分は、まるで竜の鱗のようにささくれだった肌が黒光りしている。


 終末だ。


 いや、週末か。


 そう、俺は、日曜日の九時から十八時の範囲で、つまり週末だけ『怪獣』にな

る。そういう力を、神を名乗る男から与えられてしまったのだ。


 「今日も俺がお前を倒す!」


 「なんでだよ!」


 そう、なんでだよ、だ。


 俺は、『怪獣』なったからと言って、別に何か建物を破壊したり人を傷つけた

り、刑法に逆らうような真似は一切していないのだ。


 ただし、この姿になると、周囲の嫌悪感は強くなるらしく、今もこうして『ヒー

ロー』に追いかけられるところを、ギャラリーたちが清々したような顔で見つめ

る。若い人間たちからはスマホを向けられた。


 五年前に与えられた力が、時間差でやって来るとは。


 俺の記憶によれば、週末だけ変身してしまう期間は一年。それまでの辛抱だ、と

いうことだ。


 「さあ、覚悟しろ」


 俺を壁に追い詰めたヒーロー(こいつ)も、きっと同じく、日曜日の九時から十八時

だけこの体質になる。


 そして、俺と同じく、この九時間が終わると同時に、神を名乗る男から力を授か

った場所に戻される。


 これは、もはやゲームだ。


 標的を探して狩るか、標的から逃げて時間切れを狙うか。


 そして、これは無理ゲーだ。


 戦闘能力は、『ヒーロー』の方が、何倍も恩恵を受けている。


 「くらえっ!」


 「いだぁっ!」


 顔面に正拳突き。


 主に、反射神経と素早さは、いささか常人を超えるほどの恩恵を受けているに違

いない。


 対する俺は、少々頑丈、と言ったところか。しかし、痛覚はあるので、今の正拳

突きもそこそこ痛い。


 思わず、尻もちをついた。


 そこに、『ヒーロー』のもう一つのアドバンテージ。


 「これで終わりだ」


 ピストルの姿をした赤い銃身から照射される細く黄色い光線。


 それが、俺の腹のあたりを触れると、身体中が痺れた。


 「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 俺は、すっかり倒れてしまった。


 「さっすがだな! ヒーロー」


 「ヘルメット取ったらカッコいいんじゃない!?」


 「仕事帰りに生のヒーロー見れてよかったよ」


 消えかかったロウソクのような意識で、周囲の声を拾った。


 「何あいつ。まじ弱いんだけど」


 「雑魚過ぎて草」


 「見た目もキモいし、弱いし、なんの取柄があるんだよって感じ」


 「ホントかわいそう」


 シャッター音も、ハッキリと聞こえた。


 視界は完全に消えているが、きっと動画も撮っているのだろう。


 ああ、また負けた。


 これをあと十一ヵ月続けるのか。


 無理ゲーだ。


 不幸の極みだ。


 『怪獣』以上に、何が不幸かって。


 有名私立校のスクールカースト最上位兼生徒会長で、日本人なら誰もが知る大企

業の社長の長男で、自然に振る舞っているだけで他人が寄ってくる存在の俺が、こん

な仕打ちを受けてプライドをズタボロにされたことだ。


 『ヒーロー』以上に、何が恐怖かって。


 『怪獣』の正体が俺だと、世間にバレでもしたら、親父のメンツはもちろん、学

校での立場は…


 考えたくもなかった。


 終わった、と思った。


 


 これは、窮地に立たされたエリートの、『週末(終末)怪獣』の物語である。




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