第16話 幼馴染の花火

ドン!ドン! と、まるで事故でも起きたのではないかと思うような大きな音が連続して聞こえる。

もう夏休みもあと少しとなったある夜。

俺たちは縁側で空を見上げていた。


「花火だな」

「花火だね」


「「まぁ、見えないけど」」

家から離れた所で花火が上がっていて、音は聞こえるけれど、ここからではその綺麗な姿を拝むことはできない。

「見たかったなぁ、花火」

今日行われている花火大会の りんご飴や綿菓子の屋台もそれに含まれているだろうことは分かる。

花火大会が行われている所はここからかなり遠い。

親が酒飲んでるから車でも行けないし、自転車で行こうと思ったら……

「大体なぁ、そんな格好してるからだろ?」

流季が、今年に限って浴衣を着ていたのだ。

「えぇー、これ着るの案外大変だったんだよ。褒めてー」

「褒めただろ?」

「もいっかい」

「はいはい、似合ってるよ」

「その仕方なさそーなのは私の心をふかーく傷つけました」

「えぇ……」

なんか……めんどくさいぞ?

「女の子がおしゃれしてたら、ちゃんと褒めなきゃ。愛想尽かされるよ?」

「生憎、女の子のおしゃれを見る機会が無いものですから」

「私がします」

「残念ですが、おしゃれの定義をもう一度見直してきてください」

「えー?」

そんなにダメかなー?と、くるくる回る流季。

はぁ……。

しょうがない。

「……あぁ、その、なんだ。ホントに、似合ってると思うぞ、俺は」

「へ……?」

一瞬ぽかーんとした流季。

それから、にまー と口角を上げる。

あぁ、くそ。

「………へへへ、そっかー。似合ってるって思ってるんだー」

「そーだよ、悪いか」

「別にー」

「はぁ……」

今日は特にめんどくさいな。

これの全て夏の暑さのせいだろう。

だからきっと。

俺の顔も流季の顔も真っ赤なのは、この暑さのせいだろう。

「あ、花火」

「おぉ……ここからでも見える時は見えるんだな」

最後の一発だったが、大きな花火が少しだけ見えた。

「たーまやー」

「それ、どんな意味だ?」

「わかんない」

だろうな。


もう夏も終わる。

今年は花火大会には行けなかったけれど、これはこれでいいかもしれない。

だって屋台巡りに付き合わされないから。

まぁ、もう慣れたけれど。

「たーまやー」

「そういえば、るぅ。夏休みの宿題終わったのか?」

「……あ」

たーまやー。

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