■第七信②
ああ、また一つ過去の情景が蘇ってきました。僕ら——僕と海と哉は——一人が誰かに反感を
僕がさっきから考えているのは、単独行動についてです。初の試みなので、上手く行くかどうか。でも、今回は海や哉の手を借りたくないのです。
*****
おっと、失礼。便箋が汚れてしまいました。
第一発見者は瀧でした。デザイン画を描いて澪に服をオーダーしようと、彼女を探して撞球室の扉を開けたら血まみれの遺体がぶら下がっていた、腹に刺さった
澪はビリヤードテーブルを裁縫台にしていたらしく、型紙などが広げてありました。少し遅れてやって来た荘は、
「おいおい、キューだのボールだのはどこへやったんだ」
驚きも怯えもしませんでした。人が死んでいるのに、けしからん反応です。彼は面倒臭そうに、
「俺様が管理している間は、おとなしくしとけって言ったろうが」
——などとブツブツ文句を言いました。リアクションが薄いのです。殺人事件そのものより、結果として監督責任を問われる方が、ダメージが大きいのでしょう。つまり、彼は正義漢でも何でもないってことですね。ああ、つまらない。取り乱したり恐れおののいたりする姿を見てみたかったのに。
嚴と哉が瀧の両脇を支えて出ていきました。哉は意識的に僕と目を合わすのを避けていました。荘は陸海兄弟に指図し、吊り下げられた澪の遺骸を床に下ろしました。凪は三人の動きを眺めていましたが、これまた微塵も動揺の色を浮かべていませんでした。瞳は透徹し、眼前の対象を素通りして、ずっと遠くを凝視するかのようでした。それは過去ではなく未来かもしれない……と、僕は思いました。出口のない
僕は一件以来、手を洗い始めると、なかなかやめられなくなってしまいました。平常心を保っているつもりでも、ダメですね。いえ、汚れが完全に落ちないように思えて——証拠が消えない気がするから不安なのではありません。あなたが一向に返事をくれないので、身元引受人になってもらうことは、ほとんど諦めました。他に頼るべき人がいなくて出獄の見込みが持てないのに、試験を受けたってしょうがありません。だけど、凪が荘の熱意にほだされて受験し、彼と共に出て行くなら、ここに留まる甲斐もない。だから、僕はせめて別の施設へ移監してもらいたいと考えるようになったんです。更なる重犯罪者用の監獄へ。そうすれば、規定によって、移送の途中、短時日ではありますが、手続きのための拘置監に収容され、そこで希望する相手と面会が可能になります。でも、拒否されたら、どうすればいいんでしょう。こんなに大それた真似を仕出かしてまで。え、とっくに人殺しに成り下がっているクセに今更何を言う——って。心外だな。そりゃあ、事実ですけどね。元はと言えば、あなたが僕に泣きついてきたのが始まりじゃないですか。従兄の
ほんの僅かな時間でいいから、顔を見て、話したい。ただ、それだけです。
詠より
敬具
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