第7話 もう一人の勇者

 俺たちは昼食を終えて店を出る。

 店員たちのヒソヒソ話が耳に残っていたが何も聞こえないふりをする。

 魔王がお子様ランチの旗を掲げ、レスカに見て見て〜とかまってちゃんのように話しかけている。

 ほのぼのとした風景に心を癒されながらも、俺はそろそろこの町を出て行こうと考えていた。

 真剣な表情でレスカの方を向いて打ち解ける。


「レスカ、今の俺ははっきり言って弱い、スライムをあの時間で10匹程度しか狩れないくらいに...、それでもまだ、俺のことを好きでいてくれるのか?」


 レスカはその言葉に疑問を抱いていた。


「ユウリが何を考えているかはわかりませんけど、この気持ちに変わりはありません...」


 レスカの言葉を聞いた魔王が二人を茶化し始める。


「ヒューヒュー、お熱い!」


「言ってろ!」


 不機嫌になりながら俺は前を見て歩き始める。

 しばらく歩くと見慣れたやつに出くわす。

 黒い髪に男の時の俺と同じ身長。

 青い服に剣を携えている、そいつの名前はユウト。

 ユウトは俺と同じ勇者の一人なのだが、俺とは馬が合わずいつも喧嘩していた。


「ユウト...」


 俺は思わず声が漏れてしまいユウトに気づかれた。


「誰だ?お前は...」


 不審な目を向けられて黙ってしまう。

 嫌な沈黙を破るように魔王があっけらかんに「勇者よ!、この旗を見よ!」と何度も言ってきたのでユウトの疑惑の濃度が高くなっていく。


「勇者?、女の勇者など聞いたこともないぞ...、それに金髪?」


 俺は密かにユウトのステータスを調べる。

 レベルは56だった。

 レベルMAXの時の俺ならば何も恐れるに足りない相手だが、今のままではやばい。

 嫌な汗が額から流れ落ちていくのを感じる。

 もしも俺がユウリだとバレたらスッゲーバカにされると思うと腹ただしい。

 この場は穏便に済ませようとそそくさと逃げるそぶりをみせるが。


「ユウリ!、マオちゃんがこんなに構って欲しそうにしているのに無視をするのはいけないと思いますよ!」


 実名をしっかりと言われむず痒い気持ちになる。


(流石にバレるよね〜...、何してくれとんじゃレスカァ〜!!)


「ユウリ?、お前まさか....!」


(ほらきた!、ヤバイぞ〜ヤバイぞ〜、どうする、どうすりゃこの場を回避できる...)


 頭をフル回転させて考えるが特に打てる手は思い浮かばない。

 だが、意外にもユウトは笑っていた。


「ははは、お前ユウリのファンか何かか?、やめとけ、あいつは思っている以上にひどい奴だぞ」


(バレてない!?、意外に鈍感で助かった〜!)


 なんかイラつく言い方だが黙る。


「あいつは酷い効率厨でな、それに耐えられないからみんな離れていく、結局あいつは一人で魔王を倒したみたいだし、よくやるよな、一人ぼっちで魔王まで倒しちまうなんて...ぷっ」


 今にも吹き出しそうなユウトの顔を殴りたいが、気になる言葉を聞いたので質問する。


「俺が魔王を倒したって、どこから聞いた?」


「ああ、今町どころか世界中に広まっている、なんでも一人で魔王を倒したユウリはそのまま行方をくらませたらしい、全く、一度くらい姿を表せればいいのに...」


「余は負けてないぞ!、あれは引き分けだ!」


 魔王が無理に話に入ってきたので話がこじれる。


「なんだこのチビは?それにお前さっきからなんかユウリに似てるぞ、あいつ特有のウザさを感じる」


(初対面のやつにウザいとかいうか普通よ〜)


 だがもうそんな噂が流れているのは意外だった。

 案外早く世に出回ったなと思いながら俺はユウトの顔をまじまじと見つめる。

 ユウトは顔を見つめられると異様に嫌な顔をしてくる。


「あんまりジロジロ見ないでくれ、なんかあんた見てるとユウリを思い出す」


 ユウトは俺が煩わしかったのかさっさと行ってしまった。


「あ〜!!逃げた〜!!、余は負けてないからな!絶対に負けてはないからな〜!!」


 魔王は息を荒げながらユウトの方を睨んでいる。

 グルルと唸り声を上た魔王だがもうユウトはいない。

 子供がなんか騒いでる程度にしか思われていない。

 まさかこの幼女が世界を滅ぼしかけた魔王だとは夢にも思っていないのだろう。


(魔王はもう弱体化しているのでもう世界を脅かす存在はいないと思っていたが、なんか嫌な雰囲気)


 勇者の感というやつだろうか?。

 それともこの魔王が思ったより弱かったので拍子抜けしただけなかはわからないが、何かまだ大事なことを忘れている気がす...。


「そうだ!、家の鍵閉め忘れたんだ!」

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