異世界の殺人事件を裁き損ねたことについての覚書

飛騨牛・牛・牛太郎

第1話から9話まで

1

あれは僕が大学生で、一人暮らしをしていた時の話です。

時期は春先だったか。我が家に異世界からの来訪者がやってきました。


2

 今と変わらない夜型の生活をしていましたが、さぁ寝ようか、って時に部屋が光につつまれたんです。

 そして光が収まった時、僕の目の前には4人のみすぼらしい男と1人の立派な身なりをした男がいました。

 立派な身なりの男はこういいました。

「いきなり驚かせてすまない。我々は※※※※から来たものだ。君の言語で言うところの異世界だな」

 そうしてみすぼらしい服と縄で拘束されている4人をみてつづけたんです。

「君には陪審員になってほしいんだ。謝礼はないので断ってもらってもいいんだが」


3

 話はこうでした。

 彼らの世界の司法制度において特殊な事情、司法側の人間が殺された場合とか迷宮入りしかけてるとか、がある場合公平を期すため異世界の人間に判断を仰ぐ文化ががあると。

 それは陪審員ではないと思いましたが、まぁ言葉の定義は異世界では違うのでしょう。


 そのため容疑者を連れて身なりがいい男の魔法で異世界に飛び、そこで話を聞き、また異世界に帰るという流れ。

 この異世界に飛ぶ魔法は彼の一族だけが独占しているそうです。だから身なりがいいんでしょうね。魔法を独占しているってことはこの仕事も一族が独占してるわけですから。


 まぁ、それで今回なぜか選ばれたのが私だったというわけです。

 私は断ろうかとも思いましたが、かよい断り文句が思いつくわけでもなかったので

「話だけは伺いましょう。ただ素人ですから結果が出なくても怒らなくてください」

と言ってしまったのです。

 ですからここで書く話はそこで聞いた話と承知してください。


4

「被害者は私の一族、といっても遠縁なのだが、の一人で私と同じように魔法を使い異世界に事件の判断を仰ぎに行くことを仕事としていた。彼がカギがかかった部屋の中で刺されていたのが今回の事件の基本だ。後ろから刺されていたので事故や自殺ではないと思われる。人が出入りできるような場所はほかにはなかった。また鍵は被害者が持っていた」

 要は密室殺人ですね。ただ事情は違います。

 彼らの世界にはDNAといったハイカラなものはありませんが、剣と魔法の世界ではあるようです。

 ですから鍵がかかっているといっても我々の感覚とは扱いが違うわけです。


5

 そういった説明を受けたのち、4人の容疑者について説明を受けました。

「まず一人目、彼は被害者と長年の間いがみ合いをしていた」

 被害者と長年いがみ合いをし、訴訟沙汰なども起こしている。

 事件当日は近所の結婚式に出席していた。なのでアリバイがあるといえばあるのだが、大人数で行われたので抜け出せる余裕はあった。

 動機がありアリバイは怪しいのですが

「鍵は持っていますか?」

「合鍵などは持っていない。そもそも家の場所は知っているが、中に入ったことはない。これは調査で分かっている」

「魔法などは使えますか?」

「彼は生まれつき使えない」

 密室を作り出すことができません。


6

「二人目はこいつだ。その地域でも有名な窃盗犯。鍵を開ける魔法を持っている」

 鍵を痕跡なく開けることができる魔法を持っていると言う前科者。

 手段あり、動機は泥棒を行った際に偶然鉢合わせたとかでしょう。確かに怪しいように感じますが

「部屋の鍵は閉めてあったんですよね?」

「あぁ、そうだ」

「彼は合鍵でも持ってましたか?それか魔法で閉められる?」

 鍵を閉める魔法など知らないとのこと。そうなると密室を作り出すことができない。

 確かに物を盗むだけなら鍵を閉める必要はないわけで、そんな魔法を覚える必要はないわけですね

 そういうわけで次。


7

「三人目は従者だ。合鍵を持っているし元軍人だ。当日屋敷にいた」

 手段と技術はあるわけですが

「主人との関係はどうだったんでしょうか」

「特にトラブルなどは報告されていない」

 動機がありません。


8

「最後の人間は」

 あえて説明する必要性がないので省略します。

 ただ単に事件当日家の近くにいたというだけの人。階級が低いというだけで疑われただけです。

 アリバイはないが、根拠も動機も特になし。

 差別ですね。


9

 このような話を聞いて、私が出した結論は

「証拠不十分、捜査不十分だからみんな無罪としか言えない。追加で捜査をしてもっと根拠や証拠を見つけなければ誰も答えは出せないと思う」

というものでした。

 よく意味を知らない推定無罪の精神に基づいた答えとしては悪くないと思います。 実際身なりが高そうな男も納得し、ちょっとしたメモを書いたあと、ちょっとしたお礼を述べました。

 そして呪文、また部屋が光に包まれて彼らは異世界に帰っていきました。

 帰りの挨拶の際に聞けばどこの異世界に行けるかは決められないが、帰りの場所は選べるので仕事場に直接行けるとか。便利ですね。渋滞知らずです。

 そこで相談しあうのか、また別の異世界にいくかは知りません。これでこの話は終わりです。

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