6.意外。確かに覚醒した異能が使えそうにないんだけど

 孝太朗は不敵な笑いを顔に浮かべると、テーブルの上にあるスマートフォンをタップした。

 急に背後から機械音がして、慌てて振り返ると天井からモニターが下がってくるところだった。待って、これってどうなっているの?


 ここって学校の旧校舎で、保存何ちゃら機関が保存を担っていて、不必要な設備改変とか禁止されていたはずなんだけど。どうなっているの?

 部室の中だって、昔の木造の壁がそのままだし、使っている机も古いままなのに、そこに現代機器がいきなり現れたから、もの凄い違和感を感じるよ。


「ね、ねえ結城さんこれって……」

「どうしたの葛城さん? もしかして、部室に来たのって初めて?」

「う……うん。私美術部も幽霊部員だし、顔を出したのって初日だけだったから……」

「これはね、旧校舎保存の一環で、全ての部室がネットワークで繋がっていて、新校舎の職員室で一括管理されているんだよ。

 旧校舎って朝とお昼、それから放課後以外はほとんど人がいないから、無人でも管理ができるシステムは必須だったんだ」

 私がポカーンとしていると、孝太朗はさらに話をしていく。


「それで、どうせなら外観そのままで、耐震耐火だけでなくセキュリティー対策と現場で使う僕たち生徒の利便性も考慮して、見えない場所に改良を施したってわけさ」

「そ……そう、なんだ……」

 聞きながらふと横を見ると、女の子の部員が壁にある古めかしい戸棚を横に開けていた。中には流し台に蛇口が二口あって、それぞれ青と赤に取っ手が色分けされていて、水とお湯が出るようになっているようだった。

 女の子は水切りに伏せてあったコップをお盆に乗せると、みんなに配り始めた。うん、あえて見えないように隠してあるんだね。ここは想定内だよ。


 さらに別の男の子の部員が、部屋の隅にあった古めかしい棚の引き戸を開けていた。開けた中は壁が真っ白で、明かりが灯っていた。ペットボトルが何本か入っているのが見える。どう見ても冷蔵庫だよね、あれ。

 当然というか、中から二リットルのペットボトルを取りだして、配られたコップに注ぎ始めた。

 もう驚かないって思っていたのに、思わず二度見しちゃった。


 何なのこれ。

 外観もそうだけれど、内装も古めかしい木造校舎なのに、中には見えないように最新の設備が隠されているみたい。

 冷蔵庫があれば電子レンジとかもあるのかな――と思って見回したら、壁に不自然なガラス張りの棚があった。あれ絶対に電子レンジだよね。


 てことは、壁とかも全部見た目と違って、全部材質が変更されているのかな。

 他にも便利な機械設備とかが組み込まれていそうな気がする。

 もうここまで来ると、何を保存しているのか分からないんだけど。


「――らぎさん、葛城さん? 大丈夫?」

「あ……ごご、ごめんなさい。ちょっと考え事していた」

 孝太朗がまだ色々と説明をしていてくれたんだと思う。物思いにふけっていた私は、横から孝太朗に覗き込まれて、一気に現実に戻された。

 当然というか、顔がすっごく熱くなる。


「そっか、朝から大変だったからな。疲れているよね。

 まあ、旧校舎の設備はおいおい見ていけばいいと思うよ」

 すっごくキラキラした笑顔で頷きかけてくれるんだけど、やめて。惚れちゃうじゃん。


 孝太朗って誰彼構わず面倒見がいいから、クラスの女子だけじゃ無くてお隣のクラスとか先輩後輩からも人気が高いんだよね。

 この間だって、一個上の先輩が教室まで来て、手紙を渡していたし。かなり綺麗な顔した、いいところのお嬢様らしいんだけど、数日してからお断りしたって話を聞いたかな。

 

 そんな孝太朗が、今日はえらく気にかけてくれている。何でかな、私ってクラスじゃ目立つ方じゃないし、どちらかって言うと窓際で風景に溶け込んでいるのが似合っている。普通にモブキャラなんだよね。

 たぶん、異能に目覚めて気づいたのが早かったから、それだけよね?

 勘違いしないように、気を付けなきゃ。


 そんな私の思いに気が付いていない孝太朗は、スマートフォンを操作しながらモニターを見上げていた。集まっている異世界研究クラブの部員のみんなも、真剣な面持ちでモニターを見上げている。

 私は入れてくれたお茶を飲んで、お茶請けに出されていたクッキーを口に運んだ。

 あ、これすっごく美味しい。


「さて、本題に入ろうか。みんなモニターを見て欲しい。

 うちのクラスは男子十八人、女子二十三人の合わせて四十人なんだけど、さっきも言ったように全員の異能を確認しているんだけど……」

 そう言って、モニターに二年B組のクラスメイトの名前と、それぞれ異能の名前を映し出した。後ろには覚醒の有無と、それを自分で知覚できているかも全てチェックされていた。

 私は……あった。ちゃんと時間停止と無限収納って書かれていて、覚醒と知覚の項目にちゃんとチェックが入っているよ。


 それにしても、すごい。

 全員に声をかけながら、全員の異能をチェックしていたんだよね。電波は届いていなかったけれど、アプリとかスマートフォンの機能は使えていたから、声かけをしながら全員の能力を記録していたみたい。

 さすがクラス委員長をしているだけのことはあるよね。


「さっきも言ったけれど、七人だけが異能に覚醒していたよ。

 残りの二十三人は、異能がまだアクティベートされていなかった。覚醒する切っ掛けは分からないけれど、近いうちに全員が覚醒して自覚する流れになると予想している」

「今分かっている七人はどんな感じなんだ?」

「魔方陣を破壊してた『小鳥遊依吹』以外は、現状まともに使える異能を持っていない、もしくは条件が厳しくて使いづらい状態になっているかな。

 例えば僕の『異能察知』は、異能が使われた時にそれを察知できるのと、個人の頭の上に浮かんでいる異能の名前と、簡単な説明しか分からない」

「それはさっき聞いたわ。でも何か操作したりできるのでしょう?」

「いや、ぜんぜん。本当に察知して、鑑定できるだけだ。

 例えば浩介なんて、使いどころが分からない『不可視の三角形』って異能だな。効果は指で三角形に囲った内側を筒状に見えなくする、だけか」

「ああ、俺な。こんな感じだぞ」

 全員が注視する中、浩介が自分の前にあったコップを、両手の親指と人差し指を使って三角形に囲んだ。


「あっ……消えた?」

「これは凄い、凄いけれど何かが違う……?」

 隣にいた女の子がちょっとびっくりしかけて、すぐに眉間に眉を寄せた。反対側にいた男の子も首を捻った。

 何だろう、ここからだとよく見えないけれど、何か凄い違和感があるみたいだよ。コップが消えたりは見えたけれど、何だか気になる。


 全員が立ち上がって、代わる代わるに側に行って見るも、誰もが漏れずに首を傾げたり、苦笑いを浮かべたりしていた。

 私も気になったから見に行ったんだけど、前で見ていた男の子が上を見上げて首を傾げたのを見て、つられて私も天井を見上げた。


「あ、あれっ? 何で天井に三角形の穴が開いているの?」

 その穴の先に、三階の天井が見えていた。

 穴が開いているのかな。


 私の番になったから、浩介のすぐ横に行って覗いてみると、コップが消えていただけじゃなくって、まっすぐ下に三角形に全てが消えていた。床の断面がよく見えるし、その先の運動部の部室が見えていたしそのままずっと先まで消えていて、ずっと奥はさすがに遠すぎて見えなかった。

 たぶん、地球の反対側まで消えているんだと思う。


 上も見上げてみたんだけど、色々な断面の先には、普通に青空が見えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る