第二十六話 座敷わらしの幸せを祈る場所。

 十二月二十八日。


 一月三日に初詣に行こうと、姫乃ひめのに誘われた。彼女は明日から親戚の家に行って、一月二日に帰るようだ。


 最初、人が多い場所は嫌だって断ったんだけど、そこは人があまりいない場所だと聞いたので、まあ、冬休みの宿題は終わらせたし、家にいてもヒマだし、ツバキたちは暗いしと思い、行くことになった。


 あたしが高校に行くまでにあるから、知ってる駅にあるんだけど、駅からバスで二時間らしい。バス代も教えてくれた。 


 SNSで知ったらしくて、姫乃も行ったことがないらしいので、スマホで調べようと思って、よく聞いてみたら、神社じゃなくて、ほこらだった。


 座敷わらし関係の。


 たぶん、これは初詣じゃない。そう思った。だけど、調べていたらとても気になったので、行くことにした。


♢♢


 一月三日。


 早起きをして、無人駅から電車に乗り、目的の駅に行くと、肩にハリネズミのトゲッシュハリーを乗せた姫乃がいた。


 温かそうな服装。帽子やマフラー、手袋なんかもして、完全防御って感じだ。

 あたしは帽子をかぶってないし、手袋は苦手なのでしない。


「あけましておめでとう!」

 と、姫乃が元気に挨拶をしてきたので、あたしも、「明けましておめでとう」と返した。


 息が白い。


 駅のコンビニで、おにぎりとお茶とお菓子を買ってバスに乗った。外は寒いけど、バスの中は暖かい。


 窓側に座る姫乃のおしゃべりを聞きながら、おにぎりやお菓子を食べたり、お茶を飲んだりしていたら、バスが着いた。


 目的の村に。


 あたしたち以外、その場所で降りる人はいなかった。今は雪が降ってないのに、外を歩いている人もいない。きょとんとこっちを見ている雪ん子はいるけど。


 姫乃が、雪ん子に祠の場所を尋ねると、「おしえてあげるっ!」と言って、案内してくれた。


 トゲッシュハリーは雪ん子に威嚇いかくをしない。

 姫乃がこの冬、よく雪ん子と遊んでいたせいなのかもしれない。


 みんな顔がそっくりだし、わら頭巾をかぶっているので、違いがわからないし。


「あれ? おねえちゃん、いいにおいがするね」

 あたしに近づいた時に雪ん子が言ったけど、「そうかな?」って、首を傾げておいた。


 初めて会ったあやかしや、ひさしぶりに会ったあやかしが、あたしの匂いについて、いろいろ言うことがあるけど、自分の匂いなんてわからない。


 ザクザクと音を立てながら、雪道を進むと、すぐに祠が見えた。近かったようだ。


「あれだよっ!」


 嬉しそうに教えてくれる雪ん子に、あたしと姫乃はお礼を言ったあと、祠に近づいた。


「これが……」

 そう言って、しゃがみ、静かに手を合わせて、目を閉じる姫乃。


 あたしもしゃがんで、手を合わせてから、ゆっくりと目を閉じた。

 寒い。だけど、ここまできたんだから、祈ろう。


 この世界にいる座敷わらしたちの幸せを。


 そう、ここは、座敷わらしの幸せを祈る場所。


 昔、この村に、モモという名前の娘がいたのだそうだ。


 彼女が生まれ育った屋敷には、昔から、幼い女の子の姿をした座敷わらしが住んでいると伝えられていた。だが、あまり、人間の前には姿を現さなかったという。


 姿を見せても、しゃべらない。とても、おとなしい感じの座敷わらしだったようだ。


 昔から、いるだけで家に福を呼ぶと伝えられ、とても大切にされてきた座敷わらし。


 その屋敷は、村の中では裕福だったが、入り婿むこの男――モモの父親は、たいそう不満だったようだ。自分がもっと立派な家にしてやるみたいなことを、周りに言っていたらしい。


 その家は、女しか生まれない家だった。男は、それをバカにしているようなことをよく口にしていたという。


 もっとお金がほしいと思っていた男は、ある日、座敷わらしが現れた瞬間に、持っていたお金を見せた。


 そして、『これと同じ物をたくさん出してみろっ!』と、大きな声で言ったのだそうだ。


 座敷わらしは、悲しそうな顔で、首を横にふったという。


『このっ、役立たずがっ!』


 そう、男が怒鳴ると、座敷わらしは泣きながら、家の外へと逃げていったのだそうだ。


 夜になり、男は、とても怖い夢を見たのだそうだ。巨人に怒鳴られ、追いかけられる夢を。


 そして、その翌朝から、男にとって悪いことが続き、怖い夢を毎晩見て、ここにいるのが嫌になった男は、何も持たずに家を飛び出し、村を出て、行方知れずになったという。


 それから数年が経ち、村に、旅の僧が訪れた。


 村の者たちに、あの家に婿に行くと呪われるとウワサされ、年頃になっても結婚できずにいたモモを心配した母親が、僧に相談すると、庭に、座敷わらしの幸せを祈るための祠を建てるように言われたのだそうだ。


 その場所がここだ。


 祠を建てたあと、モモは、たまたま村にきていた別の土地の裕福な家の息子に見初められた。相手が長男だったので、婿をもらうことはできなかったが、母親はあきらめたという。


 そして、モモは別の土地で幸せに暮らし、息子や娘をたくさん産み、育てたと伝わっている。

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