第二王子とボワギルベール侯爵

「久しいな、ボワギルベール侯爵」


 エスタライヒ王国王都レーメルのボワギルベール侯爵邸、その一室にて、この国の第二王子アルバン・フォン・エスタライヒがマクシミリアン・アリスティド・ボワギルベール侯爵と密会していた。


「お久しぶりです、第二王子殿下」


お互いに腹の探り合いをするかのような緊張感が、薄暗い室内に漂う。


「アルバンでよい。それより、わざわざ回りくどい形で使いの者を寄越してまで呼び出すとは、一体何事か」


 第二王子アルバンは調度品が殆どない室内を一瞥し、侯爵に視点を合わせた。侯爵はゆっくりと息を吸い、声のトーンを落とす。


「此度の呼び出し、大変失礼いたしました。アルバン殿下が聡明な方で良かった。隣国、シャルリー公国に動きがあり、ピリネウス山脈を越えるための準備を進めているという話が、我が家の諜報部より上がりましてな。それを一国も早くアルバン殿下に伝えようと、」


「ボワギルベール侯爵、それはまず父上に伝えることではないのか?」


 アルバンはボワギルベール侯爵をまっすぐと見据え、ごく当たり前の問で侯爵の話を遮った。侯爵は一口、紅茶を口に含みながら話を再開する。


「ふむ、本来であれば、誠にその通りなのですが...別の情報網より、アルバン殿下の暗殺の話も上がってきたのです。それを紐解くと、なんと公国に通ずる話でした。それだけであれば、国王殿下にお伝えする所ですが、どうも公国は何かしらの”交渉”を望んでいると見ております」


 アルバンはなおも視線を外さずに、ボワギルベール侯爵へ声をかける。


「ボワギルベール侯爵、謀反は死罪だぞ」


「アルバン殿下、殿下がなぜ此度の呼び出しに応じていただけたか、私は理解しております。どうか、ご内密に、お願い致します。私と、私どもの一派は殿下の味方でございます。本当に、大きくなられた。齢14を数えながら、大変聡明でいらっしゃる」


 アルバンは紅茶を飲み干すと、静かに席を立ち上がり、裏廊下への出口へと向かった。


「ふん、言いたいことは分かっている。それに余計な媚売は不要だ。話が進展したらまた声をかけてくれ。それにしても、マクシミリアン殿の子飼いは優秀だな。ヴァステマンも欲しがると思うぞ」


「引き続き、よろしくお願い申し上げます、殿下」


敬々しく頭を下げたボワギルベール侯爵に振り返りもせず、アルバンは部屋を出ていった。


しばらくして――


「やはり第二王子と言えど、まだまだ子どもだな。まぁいい、幼少期からの噂通りの方だ。第二王子派という体で私は動かせていただこう。おい、後を片付けておけ」


 そうボワギルベール侯爵は第二王子が出ていったドアとは反対側の、表廊下へのドアを開き、使用人へ部屋の片付けを命じてから、足早に部屋を去っていった。

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