言葉を用いた、怪奇と幻想と純愛のレシピ

色んな解釈ができる話って好きなんです。想像の余地のある終わり方とか、好物です。

この話は、それを冒頭からやってきます。
彼女が海苔の佃煮になってしまうのです。
布団をめくれば糸を引く納豆の泡立ちと、シーフードグラタン風の香り。私はこれを最初◯◯の喩えだと思っていました。しかし、読み終わって暫く経った今では、本当に海苔の佃煮だったのかもしれないと思っています。

その答えは出ません。
謎が謎を呼び、謎のまま完成する。
感覚を刺激する小説。
解釈自由の物語。

原案が奥様とのことで、おそらくこの物語には現実から抽出されたエッセンスもあるのではないかと推測します。そして作者の筆力とセンス。それらが、この小説を実のある幻想に昇華させている。

もし彼女が◯◯として書かれていたら、物語の色は全く違っていたことだろう。

海苔の佃煮。
この絶妙な言葉のチョイス。

これが「彼女が【スパゲッティ・ミートソース】になった」という風に書かれていたら、その味は大きく変わってしまうことでしょう。

言葉の味わいを堪能できる良作短編。
最後のシーンは刺さる人には刺さります(刺さった)。

そしてきっと、次に海苔の佃煮を食べるときには必ず思い出すだろうなぁ……(笑)

その他のおすすめレビュー

野良ガエルさんの他のおすすめレビュー93