5:三大より抜粋・六月二十一日 後

 こうして読者の皆さまもご存知通り、K自動車道の『封じ込め作戦』は、翌六月二十二日、午前一時二十五分、ゾンビがバリケードを突破したことにより失敗、終了する。


 某大学助教授、γ氏。以下『γ』

「『封じ込め作戦』が殆どの場所で失敗したのは、以下の要因が考えられます。

 第一に、ゾンビの数が想定より多かったこと。

 第二に、幹線道路に放置された車両が、かなりの数だったこと。

 第三に、ゾンビが音等に敏感だったことです」


(解説をお願いいたします)

 γ

「まず一番目ですね。これは今では明らかですが、当時はゾンビの全国での総数が最悪の場合でも400万と見積もられていました。

 これにより各幹線道路に誘導されたゾンビの数は想定の最低でも2倍。酷い所では8倍になってしまいました。

 すると第二の問題が重要になってきます。

 鍵はかかっているが、渋滞の状態の放置車両は移動する事ができない。何しろ幹線道路の入り口、出口、その周囲にも車はあるわけです。

 そうしますと、単純に車の面積分、幹線道路に収容できるゾンビの総数が減ってくるわけです」


 K自動車道を例にとって考えてみよう。


 K自動車道は幅が約三十メートルある。

 成人男性の肩幅が約四十センチ、爪先から踵までを二十五センチとして計算すると、幅30メートルの道路に誘導予定の180万のゾンビは、横並びで75人、24000列で収納できる。

 すると必要な距離は、24000×0.25=6000メートル。

 つまりは六キロあれば良かったのだ。

 だが実際には約250万のゾンビが誘導されてしまった。

 その場合は、33333列、つまりは83333メートル、収納想定区域の8キロが、実はギリギリだったのだ。

 ところでこれは、『車両等が道路にない場合』を想定したアバウトな計算である。


 γ

「そういった状態で、ゾンビは夜半過ぎに騒ぎ始めたデモ隊の音に釣られました。その際の映像を検証いたしますと、かなりの大音量で曲を流し、スピーカー等で抗議の声をあげていることが判ります。

 また状況を把握する為に、新たに点けられた照明各種もゾンビの暴走を助長させたように思われます。

 ゾンビ達は音と光に群がったのです」


 K自動車道は、防音、防風壁が計48か所破壊された。


 現場近くの住民、H氏。以下『H』

「まあ、大変だったよ。わー、とか、ぐえーっとか言いながらゾンビが道路で動いてるのがマンションから見えたしね。臭いよりも怖かったな、あの時は」

(壁が壊れた瞬間を見たそうですが?)

 H

「……まあね。見たよ。『壊された瞬間』を」

(……は?)

 H

「……これ、私の喋ってる語尾とか全部変えてくださいよ。家の場所とかも」

(そこはご安心ください)

 H

「……デモ隊の一部がね、壁をね……」

(……壊してたんですか?)

 H

「自衛隊の人に組み付いたりしてさ、パイプとかで壁を叩いて、わーっと声を上げてさ、私は、まずいだろ、それ絶対まずいぞって思って、そ、それから――」

(それから?)

 H

「玄関と窓のカギを確認したんだ。それから窓に戻ろうとしたら、なんか――爆発音みたいな音がして――」

(爆発?)

 H

「窓に戻ったら、ちょっと白い煙みたいなのが漂ってて……自衛隊の人とか、デモの連中が尻餅ついてて、で、壁がぐーっとこっち側に膨らんで……」

(壁が壊れたんですね?)

 H

「……あの瞬間はよく判らないんです」

(判らない、とは?)

「私も焦ってたんでしょうね……壁が膨らんで、尻餅ついてる人達に目が行って、デモ隊と自衛隊がさっと後ろに引いて、バキッって凄い音がして、誰かが何かを叫んで、それで、尻餅をついてる人達が立ち上がって逃げ出そうとして、転んで、警官が走り寄って助け起こしたら車が突っ込んできて、それで……それで、気がついたらそこら中にゾンビが……」

(ありがとうございました)


 γ

「また、壁や車両等によるバリケード等の高低差も時間経過で、意味が無くなってしまいました。

 段差が無くなってしまったのです」

(段差が?)

「はい。

 ゾンビに思考能力や感情は現時点では確認されておりません。ですので、例えば前のゾンビが転倒しても、全く躊躇なく動き続けるのです。

 転倒、もしくは圧迫されたゾンビは――適当な表現が無いので、あえて言いますが、圧力によって『肉塊』になります。

 この『肉塊』が段差を埋める『盛り土』のような役割を果たしたわけです。

 またゾンビにとって、高所からの落下、河川への転落の可能性は、行動への抑制という点で意味を成さないのです」

(つまり――『封じ込め作戦』は最初から失敗する要素しかなかった?)

 γ

「結果から言えばそうです。

 仮に発砲命令が出たとしても、銃弾が足りません。

 重火器、火、化学薬品の類は幹線道路等で使った場合、甚大な二次被害を引き起こす可能性があります。

 勿論、『封じ込め作戦』も全くの失敗ではありませんでした。

 例えば、ゾンビを『大きな群れに纏めた』。

 これは後々の事を考えると大変意味があります。これによりゾンビの行動を追跡するネットの『ゾンビ予報』等が動き易くなり、避難や迎撃がやりやすくなりました。

 また、『五大都市におけるゾンビの数が激減』しました。

 これは五大都市の住民の生存率を大幅に上げる結果になりましたし、後の『突入作戦』での成功率も上げたと思われます」

(ありがとうございました)


 D

「あ、そうそう! もう一つ失敗要素があったな! 

 あれだよ、議員の○○○○! あいつがなあ、煩かったんだとさ。で、上の方が動けなくなっちまった。まあ、当人はゾンビになっちまったらしいけどね。

 願わくば、どっかでバットとかで頭を吹っ飛ばされててほしいよなあ!」

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