旦那は下等生物につき

shiroko

第1話#私の解放

初めてだった。

ふたりの子供手前。

娘の運動会の締めくくりに、旦那が欠かさず発売日に買ってくる単行本を、意図して、誰も居ない方向に満身の力を込めて打ち付けた。


旦那は、車内で眠り込んだ7歳の息子をリビングに運び、オムツを履かせているところだった。


4歳の娘は、ダイニングテーブルで喉を潤し、疲れた目で母の私をぼんやり見ていた。


自分でも驚いた。

あいつの背中を鷲掴みして、30半ば体格が良くなった図体を必死にゆすり蹴りつけた。


精神が三分したのだ。旦那の非のフラッシュバックを反芻する私。激情を抑えた先の大人な自分。荒ぶる心を露わにして、旦那に全てを理解させるべく爆発する自分だ。


私は、体良く言えば“彼を信じた”。


ボルテージがマックスなのに、必殺技を繰り出さないでいられるか??

もう、長い間蓄積された人畜生にんちくしょうへの言葉どもが、狭い器から溢れてしまった瞬間だったのだ。


私は、その畜生どもを解き放った。


そうすれば、簡単に旦那が真摯に現状と向き合ってくれると過信していた。


彼はナイフのごとく鋭い一瞥で私を刺した。

それで更に起爆した。

「本当に最低だった。本当に恥ずかしかった。」声を荒げらもので、娘は下唇を真一文字にしてあっ泣き叫んだ。

自分が悪いことをしてしまったと思ったのだろうか。


リプライは「お前の方が恥ずかしいだろ。」だ。


今の猛獣を荒立たせるのには十二分な鞭。


まだまだ繰り出せる技はあった。

しかし、幸い、娘の涙と、長男の緩い虚ろな目が歯止めになり、憤りをぶつける事を避け、私は10月の鉛色に溶けることを選んだんだ。














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