第23話 明治時代に始まった新聞とその公平性

伊東巳代治「新聞かぁ。みんなよく買収していたよねぇ」

金子堅太郎「いきなり爆弾発言から始めないで!?」

巳代治「僕は情報官僚だからね。そのあたりは専門だよ」


巳代治「創刊した頃の『朝日新聞』には毎月500円ずつ政府からお金を出していたんだよね」

堅太郎「蕎麦が1銭の時代で1円=100銭で。かけ蕎麦が2020年の値段で400円としたら、500円を今の価値に換算すると……」

巳代治「毎月2000万円くらいだね」


巳代治「『東京日日新聞』(今の毎日新聞の前身の一つ)も政府からお金もらっていたしね」

堅太郎「巳代治が社長なんだから、そりゃそうでしょう」

巳代治「僕が社長なのは一応あの頃は内緒だったんだよ。表に出ていたのは朝比奈知泉だったしね。まぁバレてたけど」


巳代治「新聞で情報操作しようとしたのは政府側だけじゃない。今の『スポーツ報知』の元である『郵便報知新聞』は自由民権側で、後に立憲改進党の御用新聞になってる」

堅太郎「『時事新報』も福澤諭吉さんが創刊したものだから、慶応義塾閥の色が濃かったよね。『横浜毎日新聞』は沼間守一さんが買って立憲改進党を擁護する論陣を張ったし」


巳代治「『日経新聞』は三井の益田孝さんが創刊した『中外物価新報』が元か。益田さんだと井上馨侯に繋がるな」

堅太郎「『読売新聞』の初代社長は子安峻だよね。『横浜毎日新聞』の記者だったし、民権派寄り?」


巳代治「子安なら僕のところに読売新聞の株の話をしに来たよ」

堅太郎「巳代治がそういう話を全部暴露すると、すごいことになりそうだよ……」


巳代治「地方新聞もどこかの勢力の新聞だったりするしね。例えば『高知新聞』は板垣退助さんの政治結社『立志社』の機関紙から来ている」

堅太郎「『熊本日日新聞』は熊本の政治団体・紫溟会の紫溟雑誌が最初だしね」


巳代治「後は主筆がどこと繋がっているとか見るのも面白いよね。『上毛新聞』の山崎林太郎は星亨とか尾崎行雄と繋がっていたから、その辺りの縁もあるかもしれない」


堅太郎「『主筆』というのは明治の新聞社の顔でした。特に政治論説の総責任者ともいえる人です」

巳代治「顔となる人間だから会社はいい人持ってくるよね。僕は東京日日の社長になる時、朝比奈知泉を口説き落として主筆にした」


巳代治「知泉の話をしたから、明治時代の新聞人の話をしようか。『日本』の陸羯南、『国民新聞』の徳富蘇峰、うちの朝比奈知泉が政治系記者としては有名だったね」

堅太郎「陸羯南は正岡子規を見出した人として有名だよね」


巳代治「そうそう。『国民』は反政府論調だったけど、でも、陸は原敬の友達なんだよ。司法省学校の同級生だったから」

堅太郎「『国民新聞』は今の『東京新聞』の前身の一つだけど、徳富蘇峰は山縣有朋公寄りの人間だったから、長州軍部系御用新聞でもあったね」


巳代治「誰が始めたとか、今の新聞の前身の一つはこの新聞って話はしたけど、でも、今もそういう考え方であるというわけでもないんだ。新聞同士が合併して、だいぶ変わっているしね」

堅太郎「考え方が反対な新聞同士でも同じ地域だからと手を結んで一つになった地方新聞とか、複数の新聞が歴史と共に合併して中が一掃された新聞も多いしね」


巳代治「買収や繋がりの話をしたのは表題の『新聞の公平性』に繋がる。新聞の公平性は信じすぎないほうがいい。いくらだって買収できるし、動かせる」

堅太郎「買収したことのある側だから説得力があるなぁ……」


巳代治「特に経営危機にある新聞は、自らお金を求めてくることもある。今の新聞が何かに加担しているとは言わないし、お金を渡しても思うとおりに書いてくれないこともあるから、操作する側の思い通りになってないことも多い。でも、意外とこういうものだと頭の隅に入れておいてくれると見方が増えるかもしれない」


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〇おまけ


堅太郎「ああいう言い方をしてるけど、巳代治、日清戦争時に条約を有利にするために海外の新聞を買収するとか、国のための買収はいくらでもするのに、自分個人の評判の為に新聞を買収するのは一度もしたことがないんだよ。買収までしなくても、新聞記者に愛想よくすればいいのに『僕の知っていることは国の機密事項だ。だから君たちの質問には答えられない』って門前払いする」


堅太郎「それで記者は怒って悪く書く。悪く書かれるのに『僕が裏で糸を引いているから、伊藤さんがああいうことをするんだとなるなら、それでいいよ』と自分に悪評が集まるのを厭わない。人心掌握や情報の重要性をわかってるのに、極少数の親しい人だけ自分のことをわかってくれていればいいみたいなところがあるからもう……」

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