第4話

 無関係な人を巻き込む事は躊躇してしまいます。

 ですがこのままでは、領民が圧政に苦しむのが眼に見えています。

 今迄は見てみぬ振りをしてきましたが、王国直轄領やティッチフィールド公爵領の民のように、我が民が苦しむ事になるのです。


 でもダファリン公爵家の実権を取り戻すために助力してくださいとは言えません。

 国政を誤る奸臣を一緒に斃してしてくれとも言えません。

 たった六人では、私と一緒に犬死するだけでしょう。

 命の恩人に何の御礼もできない身で、更に命懸けの助力を願うなど、忸怩たる思いではありますが、今はこの方々に頼る他ありません。


「厚顔無恥な御願いなのは重々承知しております。

 ですが、もう貴男方以外に信じられる人がいません。

 御言葉に甘えて厚かましい事を御願い致します。

 私をこの国から逃がして頂けませんか」


「いいよ」


「いけません!」


 私の身勝手な願いに、主人であろうオッドアイの方が即答してくださいました。

 しかし当然ながら、御供の方が直ぐに制止されます。

 御忍びの御主人様を護る家臣なら当然の反応です。

 彼らの心中を思えば、私の願いは身勝手極まりないモノでしょう。


「なぁ、グレアム。

 私たちの旅は何の旅だよ?

 物見遊山の旅ではないよ。

 武者修行の旅なんだ。

 これはいい機会でだよ」


「何を仰られるのですか。

 これは国家の浮沈にかかわる陰謀劇なのですよ!

 ここに倒れている人攫い共を捕らえるとか、山賊や盗賊を退治するのとはわけが違うのです」


 矢張りそうでしたか。

 由緒ある貴族家の御曹司が、身分を隠して武者修行しているのですね。

 ですが、全然身分が隠せていません。

 それにしても、この年頃の御曹司がおられる貴族家で、社交界にデビューされていない家があったでしょうか?


 部屋住みの次男三男と言う可能性もありますが、それにしては護衛が強すぎます。

 これだけの戦闘力がある戦士なら、当主や跡継ぎにつけられるのが普通です。

 それとも、余程武に優れた家柄なのでしょうか?

 ですがそのような家に心当たりがありません。


「まあそう言うな。

 どのような苦境であろうと、切り抜けて生き延びるのも修行の一環だよ。

 何もこの国を乗っ取れと言っている訳ではない。

 この方を隣国まで逃がしてやろうと言っているだけではないか。

 まあ、可能ならば、実家くらいは取り戻させてやりたいがな」


「矢張りそうなるのです。

 単に助けるだけではすまないのです。

 御家騒動に巻き込まれてしまうのです」


 本気で一国の政権争いに首を突っ込む気なのでしょうか?

 

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