第23話

あれから2週間――。

ホームルーム終了の鐘と同時に校舎を出ると、昇降口前に人だかりができていた。

早めにホームルームが終わったクラスがあったんだろうが、どうも様子が変だ。

何やら嫌な予感を覚え、俺は人垣の向こうの掲示板に目を向ける。

するといつか見たのと似たようなビラが目に飛び込んできた。


求:泉隼人

出:部長の処女

    文芸部


(月形か……!)


俺がこの2週間、文芸部に顔を出さずにいるのにしびれを切らしたんだろう。

あいつも妙な手に出たものだ。


前回のビラで『部長の処女』はあいつの処女作のことだったけれど、それはもう俺は持っているわけで。

今回、あいつは本気で処女を差し出そうとしているのかもしれなかった。


……いや、そんなわけはないか。

あれは単に「四の五の言わずに部活に来い」というメッセージにすぎないだろう。

俺があいつの尻を狙っていないことくらい、あいつはもう知っている。

その前に、俺なんかがあいつに触れていいはずがないんだが……。


倉庫に閉じ込められたあの日。

通用口の前で俺の手に唇を押し当ててきた、あいつの顔を思い出す。


(そんな目で見るな、バカ……!)


俺はあの時、あいつの手を振り払って逃げ帰ったんだ。


――キミはそこから抜け出せない人じゃないよね?


そう言われ、期待をかけられても困ると思った。

どうでもいいやつらからの期待すら重すぎるのに、あいつに期待されたら……。

もがく手足が何もつかめないまま、気ばかり焦ってしまう。

そんな自分が心底情けない。


そんな時、掲示板に群がっていたやつらが騒ぎだした。


「なあ、泉ってあいつだよな?」

「おおっ、本人の登場か!」

「おい泉、月形とはどうなってるんだよ!? まさか、付き合ってるのか?」

「そんなわけないだろ!」


こいつらはこれを痴話げんかか何かだと思っているんだろうか。

俺は騒ぎ立てるやつらの中に突っ込んでいって、掲示板からビラを剥ぎ取る。

そしてそのまま足を止めずに、校門を目指した。

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