真実を述べる者(パート2)

事件の起きた神社の周辺の住宅をドールと共に

一軒ずつ巡ったが、犯人の目撃情報どころか、有力な手掛かりは出てこなかった。

コンビニの駐車場に車を止めて、一度考え直す事にした。


「てっきり、車を使って逃げたと思ったんですけどね」


ちょうどおやつの時間、エクレアを片手に持った運転席のドールが言った。


「車じゃないとすると...、どうやって犯人はあの神社から人目につかず逃走したのかしら」


私は腕を組んで、辺りの景色を眺めた。


「....」


私はバックからスマートフォンを取り出し、

地図アプリを起動させた。

自分の現在地と周辺の航空写真が写し出されている。


(これって...)

「ドール、これ見て」


スマホの画面を見せつけた。

エクレアを口に突っ込んでた彼女は


「はふ?」


「あの神社の裏手には大きな池がある。

その上にあるのは自然公園...」


彼女はごくりと、口の中のモノを飲み込んだ。


「ま、まさか...」


「Let's go、ドール」



かばんは副課長のサーバルと共に、情報収集を始めた。


「どこ行くの?」


「新聞社かな...」


「やっぱり、あのダイイングメッセージ?

カラカルの直感を信じるの?」


「...今回の事件はかなり限定的だと思うからね。オオアルマジロさんの秘密も気になるし。

それがオオセンザンコウさんを殺害する動機が浮かんでくれば、良いんだけどね」


小一時間程で新聞社に辿り着いた。


応接室に招かれ、待機していると。


「お待たせしました、私京州新聞社社会部の編集長、ケープキリンと申します」


此方も自己紹介し、かばんは早速質問を投げ掛けた。


「お伺いしますが、オオアルマジロさんはどのような人物ですか?」


「...彼女が何かしたんですか?」


「いえいえ!別に犯罪をしたワケじゃなくって、一応重要参考人みたいな...」


サーバルが右手を振りながら言った。


「...仕事熱心ですよ。彼女は。いつも真実を追い求めてる。彼女の書く原稿はちゃんと裏も取れていて嘘が全く無い。それが記者のあるべき姿なんでしょうけど、こっちも商売ですからね」


「オオアルマジロさんと、フリーアナウンサーのオオセンザンコウさんの関係はご存知ですか?」


「いいえ、アナウンサーと友達とは寝耳に水です。というか、彼女あまり他人と関わっている所見たことがありません...。でも、強いて言えば...。同じデスクのヤマバクとは仲良いみたいでしたね」


「ヤマバクさん...、彼女は今何処にいますか?」


「今日はそもそも休日なんで...、来ていません」


そう聞いた瞬間、

サーバルはこちらをチラ見した。



ドールとハクトウワシは自然公園へ来ていた。

今日は休日でピクニックに訪れる人も多い。


「ハクトウさん、犯人の逃走経路って...」


「ええ、この池」


右側にある広大な池を指さす。

何台かのボートが浮いている。どうやら遊覧が出来るようだ。


「人目の多い住宅地方面に逃げるより、神社の裏手にあるこの池からボートを使って逃げた方が安全ですね」


「ザッツライト、その通り。

他にもここを逃走経路にするメリットがある。

例えば、凶器を持ち出して池に捨てて証拠隠滅することも可能だわ」


「...でも、今こんなに人いますよ?

閑散した平日なら私だってこっから逃げようって考えるかもしれませんけど...」


ドールがそう指摘すると、ハクトウワシは指を縦に振った。


「あそこ、島みたいなのがあるでしょ?」


池の中には小さな小島みたいなのがあり、松の木が生えている。


「アレを死角にしたんでしょうね。

とりあえず、殺された時間に利用した人がいないか聞いてみましょう」


「はい」


***


新聞社で新たにオオアルマジロと知り合いだった“ヤマバク”という人物についての情報を手に入れた。


「あれ、かばんちゃん、ヤマバクの方に行かないの?」


「どうしても、オオアルマジロさんの“警察は信頼していない”って言葉が引っ掛かってるんだよね」


「そんなのどーでもいいんじゃないの?彼女は犯人じゃないんでしょ?」


「いや、今回の殺人の引き金を引いたのは、間違いなく彼女なんだ。

だからこそ、今回の殺人まで至るプロセスを解明する必要がある。このパズルを完成させ、そして、何も罪のなかった人が前科者となる。この一連のストーリーが完成した時が最高に気持ちいいじゃない。サーバルちゃんには理解は難しいかもしれないけどね」


サーバルは咳払いした。


「....やっぱ、普通じゃないね。私からしてみても、怖いよ」


「....ああ、気分を悪くしたならごめんね」


「ううん、自業自得だもん、全部ね...」



一度署に戻り、状況をまとめた。


「まず、あたしからだけど、あっちで言った通り死因は撲殺、

死亡推定時刻は、12時から14時の間ね。」


「犯人の目撃情報は?」


「聞いてください!驚くべきことがわかったんです!」


ドールは興奮した声で言った。


「犯人は神社の裏手にある公園の池から逃走したんです!つまりですよ、

犯人は北側にある公園からボート乗り場に行って、ボートを借りて、向こう側まで行って、神社に向かった。そして、被害者を殺して戻って来たんです!」


「実際にソレは出来るの?」


かばんが尋ねた。


「もちろんよ、私とドールで実際に犯行が可能かどうか検証したわ。

それで推定犯行時刻にボートを借りた人物と公園の監視カメラの映像をチェックしたわ」


「するとですねっ!犯人の写真、見つけちゃいました!」


ドールは嬉しそうに写真を机に置いた。


「やるじゃないドール!」


カラカルが称賛すると、


「いえ、見つけられたのはハクトウさんのおかげです。

このルートを使うなんて、盲点でしたから」


「顔を隠してるからよくわからないけど、ある程度の尻尾は掴めたね、かばんちゃん」


サーバルがそう言ったが、彼女はどこか“腑に落ちない”顔をしていた。


「あの人なら...、動機がいるよね...」


かばんは意味ありげに、そんな独り言を小声で呟いた。

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