「虹色の壁」

…場所は戻ってショッピングモール。

苛立たしげにユウリはスマホを叩いてうめき声をあげた。


「…さっき、ルールを読んだのだけれど、

 登録されたスタンパーは対象のキャラクターを

 スタンプしない限り元の場所に帰れないんだって。」


ついで、あのウサギを恐れてか、

こわごわと人気のない駐車場を見渡す。


「ねえ、ここまであのウサギ来ないでしょうね?」


それにやっちんは手をひらひらとふる。


「大丈夫じゃねえの?

 ここに来るまでは確かにおかしいことだらけだったけどさ、

 場所もわかっているんだし、外に出る分には問題ねえよ。」


ユウリの言葉を信じないやっちんは、

タッタかと駐車場の出口付近へと走っていく。


「ほら、なんでも…」


だが、やっちんはそれ以上の言葉が続けられなかった。


突如、動きが止まったかと思うと、

外との境界線で必死にもがくような仕草をする。


「ちょっと!だから言ったのに…」


そうして、僕もユウリも駆けつけてみれば、

やっちんの体は虹色のシャボン膜のようなものに

引っかかってモガモガしていた。


それは、ちょうど駐車場と外との境目を覆っているらしく、

そこから出ようとやっちんは必死に手足をバタバタさせているが、

どうも自力では出られないようにも見えた。


「手がかかるんだから…もう!」


ユウリは呆れながらもやっちんの体をつかみ、

僕と一緒に引き戻そうと体を必死に引っ張る。


…その時だった。


誰もいない駐車場に、

エレベーターのポーンという音がした。


『三階に到着しました』


それは、エレベーターの機械の音声。

誰かが下の階から上がった音声。


誰が?そう、あれに決まっている。


「あ、そんな…エレベーター使えるの?」


後ろを振り向き、

真っ青な顔をするユウリ。


開いたドア、差し込む光。


そこにいたのは、

口からボトリと一足の靴を吐き出した、

人食いウサギの姿で間違いなかった。

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