第9話 聳え立つ者達の中でも

休んでいた勇者の四方を取り囲むように守る木々が、




空から降ってくるかのような暴風に晒され




激しく揺さぶられていた。



勇者は温かみのある樹木の皮を撫でつつ、




傍に置いてあった剣を取り、身をかがめながら




天に顔を向けた。





鉄のように固そうな両翼を泳がせて舞う黒い鳥が見えた。





腹部は虹のような羽に包まれている。




猛禽類を思わせる鋭い眼光が



揺れる緑達の隙間から飛び込んできた。



だが飛ぶ姿はとても華麗で、美しく、




何よりその巨大さに勇者は己の小ささを思い知らされた。




嘴は丸く穏やかそうだが、それでもこの世の何もかもを




貫く事が出来そうに感じられた。





翼から放たれる風は沢山の葉を撒き散らし、



それは周囲の動物達に畏怖の感情を抱かせた。



勇者は唾を飲み込み、息を殺して、




黒きものが過ぎ去るのをじっと待ち続けた。



見つかったら命はない



たった一つの事実のみを受け入れて、




勇者はこの場を切り抜ける事だけを考えた。



聳え立つ者たちの中で、勇者は何よりも




冷静でいる事を心がけた












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る