第13話 ご褒美


「楽しみだな〜〜早く会いたいっっ!!」


「もう少しで千崎の番だろ」


俺と千崎はサイン会に来ていた。周りにはアニメグッズや漫画やラノベ、ゲームが沢山あり、アニソンが店内に鳴り響く。いわゆるここは秋葉原のアニメショップだ。長蛇の列を作り、今か今かと心を躍らせている雨宮ファンたちがいる。


「何話そう〜。悩むな〜。昨日色々考えてきたのに私の番が近くなると緊張してきて、上手く話せるか心配...」


千崎に昨晩ずっと何を話すか作戦会議をやらされ、少し寝不足気味だ。


「大丈夫だろ。千崎の情熱をそのまま伝えれば良いと思うぞ」


「そうなんですけど、やっぱり実際に会うとか、、、わぁぁぁぁっっっつ。緊張がやばい...」


千崎は顔を赤らめ、手で顔を隠す。


「落ち着け、昨日やったギャルゲで真白が言ったセリフだが」


俺は昨日やったギャルゲのワンシーンを思い出す。


「ヲタクはヲタクらしく」

「ヲタクはヲタクらしく!」


俺と千崎が同時に言葉を発した。


「そうですよね?私もそのゲーム昔やってました。面白いですよね。ヒロインの真白ちゃんの言葉には説得力があって何故か元気付けられたのを覚えています」


「そうだよな!真白名言集なんかもあってネットでも人気なんだよなー」


「私、それ見たことないです!後で先輩見せてくださいね??」


「あぁ」


「先輩...。ありがとうございます。緊張が和らぎました。先輩のおかげです。これはご褒美あげないといけないです...」


「ご褒美...」


「先輩が喜ぶことをやってあげます」


「それは、、、」


「『それは先輩の部屋に戻ってからのお楽しみです』」


「うっっ、、、。わ、わかったよ」


俺は思いを膨らませ、早く聞きたいが我慢する。


「えへへっ」


俺の反応を見てか、千崎が先程までの強張った顔とは変わって笑顔を振りまいた。


「次の方お願いしますーーー」


係員の指示が聞こえ、千崎から視線を外すと、あっという間に順番が回ってきていた。


「千崎頑張れ」

「はい」


俺は後ろから声をかける。千崎も小さな声で返事をする。


「こんにちは〜。サイン会に来てくれてありがとうございます」


その声はどこか聞き覚えのある声だった。それに名前は女っぽかったが正直男だと思っていたので雨宮瑠衣先生が女だったことに驚いた。


「お、お願いしますっ!」


千崎はギャルゲを差し出す。声が上ずっていて、まだ少し緊張しているようだ。

ギャルゲを受け取り雨宮先生はパッケージにサインを書いていく。


「名前は何と書きますか?」


「ち、千崎でお願いしますっ!」


その時、雨宮先生が少し動揺したのがわかった。


「ち、千崎...」


雨宮先生が小さく呟く。マスクをしてサングラスをしているので顔まではわからないが、茶髪で髪は後ろに束ねている。年齢はとても若そうだ。

すると、千崎と雨宮先生が初めてその時目が合わさった。


「千崎!!」


「どうしましたか?先生??」


「い、いえ。何でもありません。サインはこれでよろしいでしょうか?」


「だ、大丈夫です!完璧です!ありがとうございます!雨宮先生応援しています!頑張ってください!」


「はい!これからも応援の程よろしくお願いします」


「次回作楽しみにしてます!それで、あ、あのー」


「次の方が控えていますので、これ以上のお話はお控えください」


千崎が話を切り出さないでいると、係員が腕時計を確認して注意を促す。


「え、、、。あ、あの大好きです!」


千崎が去り際にそう伝えた。


「ありがとうございます!嬉しいです!」


千崎の言葉を受け取った先生はとても嬉しそうだった。


その後、俺もサインをしてもらい。店内を出ると、千崎が待っていた。


「はぁー。緊張しました。考えてきたことの1%も言えませんでした...」


「そうだな。でも気持ちは伝わっただろ」


「そうだといいですね...」


それから秋葉原のアニメショップを千崎と探索して、俺の部屋に帰宅した。



「先輩今日は楽しかったです」


靴を脱ぎならが千崎は言う。


「俺も楽しかった」


「それで、ご褒美は、、、」


「先輩??」


上目遣いで千崎はこちらを見てくる。少し顔が赤くなっていて色っぽい。


「ん?」


「大好きです」


「え?」


俺は千崎の突然の言葉に驚きを隠せない。

今告白されたのか??急すぎて心の準備が。


「先輩の部屋が一番好きです!」


「だから紛らわしいんだよーーーーーーーーーーーーーー!!!」


やっぱり千崎は俺をからかうだけだった。期待して損した。


「それでご褒美は...」


千崎は玄関を上がり、俺の部屋へと廊下を歩き出す。そのすれ違いざま、千崎が呟いた。


「もうしましたからっ」


「えーーーーーーーーーー」


千崎は上機嫌で階段を上がって行った。

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