第11話 狐憑(2)

「Ol Sonuf Vaorsagi Goho Iada Balata. …Lexarph, …Comanan,.. Tabitom. Zodakara, eka; zodakare oz zodamram. Odo kikleqaa, piape piaomoel od vaoan….」

詠唱が始まると同時にバーンの立つ地が光りに包まれ、魔法陣が現れた。

臣人も真言を唱え始め、辺りに結界を張っていく。

彼らの周囲にはピンと張りつめた緊張感が漂っていた。

「汝、…第三の炎よ、その翼は心痛をかきたてる…刺したる者よ。」

両眼を閉じたまま、走査スキャンしていく。

(やっぱりこの社に祀られているのは、2体の稲荷だ。2体同時に御するのは…難しいな。)

「7336の生ける灯を…汝のまえに持つ者よ。」

(こっちに、気づいた)

「…その神は荒れ狂う怒りなり。汝の腰布を締めよ、…そして聞け、そして汝自身を現せ。汝の創造の密議を…あかせ。」

バーンの肌にはナイフの先を突きつけられたような鋭い痛みがはしっていた。

(敵意の波動が伝わってくる。できることなら、『力』づくはやりたくない。俺の言葉を聞けるくらいの冷静さはあるだろうか?……)

魔法陣の周囲に青白い鬼火がどこからともなく出現していた。

そしてほこらを背にして座る2体の狐の姿が見え始めた。

前足を地に付け、飾りの置物のように2体の狐が魔法陣の中に座していた。

「我に友好たれ。…なぜなれば、我は汝と同じ神の僕なり。最高者の真の崇拝者…なり。」

ようやくバーンは眼を開けた。

2体の稲荷を視認した。

バーンは魔法陣の中心でひざをついた。

「俺の声に答えて、姿を現してくれて…ありがとう」

『………』

稲荷は黙り込んでいた。

「2体の稲荷よ、俺が導くから、新しい場所に祀らせてくれないか?」

右眼で見据えたままバーンは語りかけた。

『………』

「この場所に君たちが守るべきものは…もう無い。祀られないまま忘れ去られ、このままではいずれ神格が消え、野弧になってしまう…」

『………』

バーンも沈黙した。

重い沈黙がその場にあった。

「………」

『では問うが、人間』

バーンから見て左側にいた稲荷が口を開いた。

『それで我らの怒りはおさまるのかっ!?』

右側にいた稲荷も口を開いた。

雰囲気が殺気立っている。

全身の毛が逆立ってきた。

『都合のいい時だけ我らを頼り、時代の流れに流され我らを忘れてしまったお前ら人間にっ』

そう叫ぶと、左側の稲荷が閃光のように飛び出してバーンの身体に体当たりした。

バーンは吹き飛ばされて、倒れ込んだ。

『命令されるなどまっぴらだ!!』

同じように右側の稲荷も鋭くした尾で彼の頬を切り裂いた。

鮮血が魔法陣の中に飛んだ。

(やはりダメか!?)

稲荷のその様子に驚きながらも臣人は真言を唱え続けた。

一応、念のため2重に結界を張ってあった。

バーンの魔法陣と臣人の結界と。

術を解かなければ、外の者は中へは入れない。

同じように中にいる者も外へは出られないのである。

2体の稲荷は外へ出られなくなった腹いせにバーンを攻撃していた。

臣人が術を解かなければ、最悪バーンがなぶり殺しになる場合だってあるのだ。

「…臣人。結界を解くなよ」

バーンが魔法陣の中から、臣人にそう言った。

「そう言うだろうと思っとった。ま、好きにせい」

困ったように笑いながら、臣人もそれに同意した。

バーンは一度、言い出したことには退かない。

彼の頑固なところを臣人は知っていた。

説得に応じないのであれば力尽くにならざるを得ない。

そのためにバーンがオフェンスをしているのだ。

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