私じゃない自分。

 私は誰なんだろう。

 そう思い始めたのは、いつだっただろうか。

 学校で偽りの仮面を被り生活している私、長谷川真彩はふと考える。

 みんなにいい顔をして、みんなに話を合わせて、みんなに合わせて笑う毎日。

 こんな毎日を繰り返して、一体なんの意味があるのだろう。

 結局は自分を守るため。

 自分が、そのみんなの中から外れないようにするために、私は私を捨てた。

 みんなの中から外れた人は、いずれ何もかもを失う。

 学校とはそういう場所だというのを、私は知っている。

 身をもって知っている。

 そんな私にも、唯一本当の自分をさらけ出せる人がいる。

 唯一と言っても、両親や妹は本当の私を知っているわけで、友達という枠として唯一私

が本性を見せる人。

 その人は、天谷翔という男であり、私の幼馴染である。

 まあ、特にあいつにだけ本性を見せていることに特別理由があるわけじゃない。

 あいつは小学生の頃の私を知っている。

 あの時の、ちゃんと私が私だった時を知っている。

 そう、私が私じゃなくなったのは高校生から。

 絶望と失望しかなかった中学校時代を経て、私は私でない誰かを演じている。 


 

 

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