第47話 BOSS

「アッハッハッハ、楽しーーーー! 虐☆殺です!」


 第2セクターを抜けた祐一達一行は、都市内部を走る蒸気機関車に乗って第3セクターへと移動していた。

 列車に向かって全力疾走してくる強化ゾンビに、鉛玉を撃ち込んでいく王女。

 彼女の持つ蒸気アサルトライフルからは絶え間なく薬莢が排出され、彼女の頬には大量の返り血エフェクトが付着している。

 ゾンビを滅多打ちにしながら猟奇的な笑い声を上げる王女。


「虐殺、虐殺です!」

「お、王女様。もう大丈夫だぞ。見ろ、もう追いついてこれない」

「虐殺なんです!」


 無視して撃ち続けるトリガーハッピー状態のセルフィ。祐一は彼女の持つアサルトライフルを取り上げる。


「もう大丈夫だからな!」

「返して、返してください! 虐殺、虐殺しないと。世界平和のためにゴミ共を抹殺しないと!」

「大丈夫かこの王女。やべぇ令呪とか受けてるんじゃないだろうな」

「なんにでも夢中になってしまう、姫様の可愛いところが出ていますね」


 ウフフと笑うメイドのユーリ。


「サイコの間違いだろ、こいつが独裁者になったら国が滅びるぞ。つか、もうじきボス戦だから弾薬は温存しろ」

「マイロード、ボス戦なのですか?」

「ああ、第3セクターにはGギガントモンスターっていう、ボスが待ち構えてるからな」

「今度こそわたくしの力をお見せいたしますわ」


 自信満々に言うアンジェポンコツ


「ボス戦の前に響風たちと合流したかったんだがな。あいつらどこいったんだ?」


 祐一はホロウインドウを開いて、都市内のマップを確認すると彼女たちのマーカーが消えているのだ。

 それどころかゲームからログアウトしたとシステムメッセージが流れている。


「エラーでクライアント落ちたか?」


 ネットワークエラーなどで、強制的に電脳VR世界から現実世界へと追い出されることはあるが、それならば同一回線を使っている祐一達全員が落とされるはずだった。


「となると、宅配でも来たか?」


 祐一も一旦落ちようかと考えたが、まぁ響風がなんとかするだろうとそのままゲームを続行することにする。

 蒸気機関車が街中心部の駅へと到着し、祐一達は列車を降りた。

 その先にあったのは巨大な時計塔で、薄暗い街の中オレンジの光でライトアップされた塔は不気味さを感じる。


「ロンドンにある時計塔に似てますね」

「多分それがモチーフなんだろうな。映画とかでもよく出てくるし有名だ」

「マイロード、確かこの先にある異界門を爆弾で吹き飛ばせばいいのですね?」

「ああ、その前にボスが出て――」


 祐一が言い切る前に、時計塔から巨大な物体が落下してきた。

 レンガ造りの床を踏み砕いたそれは、身長8メートルを超える巨大な1つ目の怪物。

 青い肌に筋骨隆々の体、特徴的な頭部には鼻も口もなく、ただ巨大な目玉が一つあるだけ。人型の右手には数多の初心者ルーキープレイヤーを屠ってきた巨大な石棍棒【骨砕き】が握られている。


「おっきぃ……」

「わたくしたちが小人になったようですわね」

「Gモンスター【サイクロプス】だ。見た目通りパワー系で攻撃力が高い。多分スピード系のユーリや神官の王女は1,2発で死ぬから気をつけろ」

「それ強すぎじゃないですか?」

「大丈夫です姫様、どれだけ強力な攻撃であろうと当たらなければ意味がないのです」

「アタシにはユーリが一撃で殺される未来が見えるわ」

「サイクロプスのどこかに弱点があるから、そこを見つけるといいぞ」

「マイロード助言感謝します。しかし、その程度の問題このユーリには簡単にわかってしまいます。奴の弱点は目です!」

「おぉ」

「どうやら当たりのようですね。そうとわかればあんな奴、わたし一人で片付けてみせましょう!」

「待ってユーリ、桧山さん正解って言ってない!」


 鋭いセルフィの言葉を聞かず、ユーリは腕に装備されたワイヤーアンカーを発射する。蒸気ダクトに突き刺さったワイヤーを素早く巻き上げると、彼女はサイクロプスの頭上まで舞い上がった。

 振り子のように体を振りながらワイヤーを切り離すと、空中で体をコマのように回転させ、蒸気ブレードでサイクロプスの目を斬り裂く。


「はああああああっ!!」


 ユーリの回転斬りがサイクロプスの瞳を斬り裂く。しかしサイクロプスは目を斬られても平然としており、飛びかかるユーリを石棍棒で叩き落とした。


「おごうぇぇ!」


 潰れたカエルのようなうめき声をあげるユーリ。


「あぁ! ユーリが即死した!」


 一撃でHPが0になり死体と化すユーリ。王女の予想通りとなってしまった。


「カウンターダメージ入ったから、防御力低いアサシンは即死だろうな。ちなみに奴の弱点は目玉じゃない」

「先に言ってあげてくださいよ! ユーリが完全にピエロじゃないですか!」


 セルフィが叫ぶと、サイクロプスは石棍棒を持って大暴れする。


「まずいな、逃げよう」

「これ完全に怒らせただけでは!?」

「そうだな。多分王女様も怒り状態の棍棒食らったら即死だぞ」

「冷静に言わないでください!」

「街中に逃げるぞ!」


 全員が建物が密集する居住区へと逃げ込むが、サイクロプスは暴走トラックの如く民家を棍棒でなぎ倒しながら突き進んでくる。

 崩れかけの民家の中で身を潜める祐一達。


「なんですかあれ! あんなの反則じゃないですか!?」

「ボスだからな。ちなみに俺はあいつの弱点と攻略法を知ってるから、あまり攻撃しないことにする。アンジェと協力してあいつを倒してくれ」

「無理です(即答)」

「セルフィ、わたくしを信じなさい。これでも貴女よりかゲーム歴はあるのですよ」

「まぁ腕の差は圧倒的に王女の方が上だけどな」

「わたくしが奴をおさえます。その間に貴女は弱点を攻撃なさい」

「ダメです姉上、姉上がプチっと踏み潰される未来しか見えません!」

「やってみなければわかりませんわ!」

「ダメです姉上、ユーリと同じ轍を踏んでる感が凄いです!」

「行きますわ!」


 話を聞かないアンジェは隠れていた民家から飛び出すと、突撃槍を突き出して突貫していく。


「はああああああっ!!」

「姉上ーー!」


 サイクロプスは突貫してくるアンジェを思いっきり蹴り上げる。


「おごうぇぇ!」


 アンジェは潰れたカエルボイスと共に軽々と吹っ飛び、ゴロゴロとレンガ床を転がった。


「姉上ーー!」

「止める時とやられた時のリアクションが一緒だな」


 祐一はアンジェの奴、多分いいとこ見せたいんだろうなと心中を察する。

 できればアンジェに活躍してほしいと思うが、あの脳筋プレイでは難しそうだった。

 サイクロプスはセルフィを発見すると、のっしのっしと足音を響かせながら接近してくる。


「こっち来ました! どうしたらいいんですか!?」

「あぁ、なんか足かゆいな」

「そんなこと言ってる場合ですか!?」


 セルフィは祐一のタンクトップを、引きちぎらんばかりの力で揺さぶる。


「このままじゃ全滅ですよ!」

「いや、大丈夫だ」

「何を根拠に!?」


 祐一がガクガクと揺さぶられていると、サイクロプスは骨砕きを大きく振りかぶり投擲モーションに入る。


「まさか、あれ投げる気じゃ……」

「あれは俺でも即死だな。ちなみにあの棍棒、ブーメランみたいに飛んで多段ヒットするから、このままだと俺も王女様もまとめて死ぬ」

「なんでそんな冷静なんですか!?」

「いや、だって――」


 サイクロプスが放り投げた骨砕きは、ヒュンヒュンと風切り音を響かせて飛来する。

 もう今さら回避も間に合わない、諦めの境地に達したセルフィは我が目を疑う。


「こんのおおおおぉぉぉぉ!! わたくしをなめないでくださる!!」


 大質量の骨砕きが半透明のブルーのバリアに弾かれ、空へと吹っ飛んでいったのだ。


「えっ?」


 そこにはさっきやられたはずのアンジェが、ドーム状のシールドを展開し、二人を守るように立っていたのだった。


「姉……上」

「わたくしに任せなさいと言いましたわ」

「アンジェの職業、騎士ナイトの能力シールドランパートだ。敵の強力な攻撃を弾き返す、バリアフィールドを展開できる」

「凄い姉上! 最高です!」

「ホーーッホッホッホッホ、もっと褒めなさい讃えなさい!」


 サイクロプスはアンジェのバリアを見ると、前かがみになりながら猛進してくる。


「わわわ、姉上走ってきました!」

「お任せなさい、このフィールドにいる限りあなた達には指一本触れさせませんわ」

「姉上……かっけぇ……です」


 目の前までやってきたサイクロプスは巨木のような脚を振り上げると、バリアフィールドをガシガシと踏みつける。


「ホーーッホッホッホ、その程度の攻撃痛くも痒くもありませんわ!」

「かっけぇっす姉上、そのまま倒しちゃって下さい!」

「フフ……」

「姉上?」

「セルフィ、この技を使うとね……わたくし動けないのですわ」

「…………」

「まぁ無敵バリア張りながら攻撃できたら最強だからな」


 祐一が冷静に解説する。


「た、確かに」

「あぁそれにしても足痒いな」

「さっきからそればっかりじゃないですか!? もしかして水虫なんです――か?」


 のんきな祐一に憤るセルフィだったが、ここは電脳世界、足が痒くなるわけがない。

 セルフィはガシガシとバリアドームを踏みつけてくる、サイクロプスの足を見やる。

 すると奴の足裏には、これみよがしな目玉弱点が見えた。


「サイクロプスって足にも目があるんですね」


 セルフィは蒸気アサルトライフルの安全装置セレクターをフルオートに変更し、コッキングレバーを引く。

 ボルトがスライドし、ガチャコンといい音が鳴ると弾丸が薬室へと送り込まれる。


「姉上、バリアを解除してください」

「セ、セルフィ、今スキルを解除するとわたくしが踏み潰されますわ!」

「大丈夫です。信じて下さい!」


 気づいたセルフィはアサルトライフルをサイクロプスの足裏に構える。

 二人は顔を見合わせると、息を合わせてうなずき合う。


「あなたを信じますわ! 行きますわよ。3!」

「2!」

「1!」

「「0!!」」


 二人の0カウントと共に、アンジェはバリアを解除する。その瞬間サイクロプスの巨大な足が落ちてくる。

 セルフィは足裏に照準をつけてトリガーを引くと、ダダダダダ!! と射撃音が響きライフルの弾丸が目玉弱点を射抜く。

 ライフル弾は足の甲を貫通し、激しい血しぶきエフェクトを撒き散らすと、サイクロプスは後ろにひっくり返って悶絶する。


「やったやったやった! やっぱりあれが弱点だったんだ!」

「さすがわたくしたちですわ! ホーッホッホッホ!」


 大喜びするセルフィ&アンジェ、しかしサイクロプスはよろめきながらもう一度立ち上がる。


「弱点潰したのになんで!?」

「あー、まだ足が痒いわ。左足も痒くなってきたわ」


 祐一のこれ見よがしのヒントで、もう片方の足裏にも弱点があることを察するセルフィ。


「セルフィ、やっぱりわたくし頭の目が弱点じゃないかと思いますわ」

「嘘でしょ姉上!? 桧山さんがこれだけわかりやすいヒントくれてるのに!?」

「?」

「鳩みたいに首をかしげないで下さい! もう攻略方法わかったので、姉上はもう一度バリアを展開して下さい!」

「フフッ、このスキル1回使うと3分は使えませんの」

「なにわろてるんですか姉上!」


 ――その後三人はめっちゃ踏み潰された。


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