第26話 集う生徒会役員

 レオパパの電話は『もうちょっとでママの誕生日だから、なんかプレゼントでも送ってあげてね』というものだった。

 親バカが入ったシャルルは、娘たちに投げキッスを寄越してテレビ電話を切る。


「ランスロット、長期で下宿する。準備をしておけ」

「かしこまりました」

「なんかとんとん拍子で凄いことが決まっていくんだが」


 祐一が頭を抱えていると、いろはが暗い顔をしているのが見えた。


「どうかしたのか委員長?」

「いえ、良いお父様をお持ちだと思って」

「せやろか、どう見てもおフランスマフィ――」

「おっとそれ以上はいけない」


 祐一はさっと響風の口を塞ぐ。



 その日の授業が終わり、いろはを除く四人で学校から帰ると、祐一は目の前の光景にポカンと口を開く。


 今朝は軽い気持ちでした。レオたちが突然住み込むと言い出したので、お泊りの延長線くらいのものだと思っていました。

 彼は目の前を忙しなく走り回る工事業者を見て白目を剥く。


「あら、まだ終わってないのですね?」

「配管が古いらしく、水道工事から始まったようだ」

「なるほど。確かにボロ……趣のあるお家ですものね」

「いや、ボロいって言ってくれていいぞ。普通に隙間風拭いてるし、ガラス割れてるとこある――」


 ふと割れたガラスの位置を確認すると、新品のガラスになっていることに気づく。

 どうやら明らかなボロは修理してくれているらしい。


「兄者、大変だウチの家の前にwifiスポットが立ってる」

「…………」

「なんかわからんがゲームでいるんだろ?」


 事も無げに言うレオ。


「なんかわからんでwifiのデータポストたてられるあんたが凄いよ……」


 金持ちの所業マジで半端ないと思う祐一だった。


「工事完了しました」

「ありがとう。戻って良いですわ」


 工事業者はあざざしたーと残して去って行った。


「取り急ぎバスルームの改修をした。さすがにあの箱は人の入るものではない」

「なんかすげー広くなってんな……」

「隣が空き部屋でしたので、とりあえずそこの壁をぶち抜いてバスルームとトイレにさせていただきましたわ」


 桧山兄妹が洗面所に入ると、洗濯機かと言われていた箱型の風呂が取り払われ、金持ちが使ってそうな真ん丸いプール型の風呂が設置されている。

 操作パネルの設置された最新型のモノで、アクアジェットバスとナイアガラオーバーヘッドシャワーという強そうな機能があるとか。

 更にはVRデジタルハイビジョンシアター付きで、豊かな浴室がうんたらかんたらと――

 祐一は渡されたパンフレットを見て眉を寄せる。


「風呂場だけえらく近代化したなオイ……」

「文化的な生活をするにはこれくらいの浴室は必要だと思いますわ」

「そりゃ金持ちからしたらね」

「嫌ならば私たちが去るときに元通りに戻してやる。どうせ親は帰ってこんのだろう?」

「いや、うん帰ってこないんだが」

「兄者このままでいいぞ! これ風呂の中でもゲーム出来る奴だ!」

「風呂の中でゲームすんな」

「フフフそうでしょう。これでも妥協したほうですが。それよりトイレを見て下さい。わたくしが完全監修したアンジェスペシャルトイレですわ!」


 アンジェは風呂場の隣の扉を開けると、そこには鏡のようにツルツルな床に水瓶を持った金色の女神像と金に輝く便器があった。

 壁には一面バラの絵。天井にはラッパを持った天使の像が3体、クルクルと周りながら白鳥の湖クラシックのBGMを奏でている。


「「うわぁ……趣味悪ぅ……」」


 成金趣味とかそういう類ではなく、ただただ単純にデザインした人間の感性が終わっている。


「浮いてるってレベルじゃないね」

「悪いがここだけはチェンジで」

「そんな!?」


 結局金色の女神トイレは、後日最新のシステムトイレに変更される予定になった。


「会長、こんな勝手に改造されてもウチは工事費なんて払えんぞ」

「これは私が快適にここで暮らす為の投資だ」

「ええ、祐一さんはお気になさらず」

「なんかそのうち家の中全部魔改造されそうだな……」


 工事業者に次いで、今度は引っ越し業者がアンジェとレオの私物を運び込んでいく。


「あれ、こっちは意外と少ないんだな」

「一応大きいものはドレッサーと衣装ケースくらいですわね」

「空き部屋を使わせてもらうぞ」

「ああ、二階にある部屋なら好きに使ってくれていいが……って、さっきから引っ越し屋クマの縫いぐるみしか運んでなくないか?」

「アンジェはテディベアに囲まれていないと寝られない」

「可愛い奴だなオイ……」

「兄者、なんか昔人でいっぱいだった時の事思い出すね」

「ここまで好き勝手する奴いなかったけどな」


 祐一が呻るとアンジェが尋ねる


「お聞きしたかったのですが、なぜこの家はこんなにも部屋が多いのでしょう?」

「私も気になっていた。両親を含めても部屋数が多すぎる」

「ウチは昔セーフハウスやってたからな」

「セーフハウス?」

「家庭で問題のあった子供を引き取る児童施設だよ。家出して行き場がないとか、親と修復不可能な喧嘩をしてしまったとか理由は様々で、もっと重い事情を持った奴もいた。そういう行き場のない子供の世話したり養親を探したりするのがウチの父親の仕事だった」

「なるほどそれで」

「昔は荒れた奴らばっかりだったよな」

「うむ、喧嘩の絶えない家だった。まぁ兄者が一番強かったけど」

「あいつらうまくやってるといいけどな」

「舞姉とか絶対すぐ帰ってくると思ってたけど、意外と皆うまく猫被ってるんだろうね」



 その日の晩――


「で、なんであれだけ私物持ち込んできてベッドは持ち込まなかったんだ?」


 ボディラインがよくわかるノースリーブのニットワンピースを着たレオは、祐一のベッドを我が物顔で占拠しながらマンガを読み漁っていた。


「私は読書が好きだ」

「ほう」

「ここにはわたしの読んだことのない書物がたくさんある」

「そうだな。主にマンガとかラノベだが」

「経験のないジャンルはどのような物でも面白い」

「それは結構」

「よってここでしばらく書物を読むことにした」

「ふむ」

「そうしているうちに、どうやら私はこの庶民ベッドの狭さを気に入ってしまったようだ」

「ならご自分で庶民ベッドをお買いになられては?」

「わかってないなお前は。庶民が使っているベッドだから庶民ベッドなのだ。なのでこのベッドを私に明け渡せ」

「無茶苦茶言いやがりますね」

「気づいてないかもしれんが、私はかなりワガママだ」

「知ってるよ!」

「兄者声でかい」


 振り返るとゲームハードを持った響風と、ナイトガウンに着替えたアンジェの姿があった。


「よーし兄者のベッドを賭けてチキチキスーパースぺブラパーティーやるぞー。兄者はあたしたちにベッドをとられないように防衛するんだぞ」

「待って、俺にデメリットしかないんだけど」

「この庶民ベッドは私がいただく」

「お姉様、それはわたくしのセリフですわ」

「この姉妹なんでゲーム下手なのに毎回自信だけは満々なの?」


 わけわかんねぇもん賭けてゲームしてんなと思っていると。

 キンコーンと玄関のインターホンが鳴る。


「なんだこんな時間に?」


 祐一が玄関の扉を開けると、そこにはボストンバッグを持ったいろはが立っていた。

 猛烈に嫌な予感がする。


「…………」

「入れてもらえるかしら?」

「あ、あぁ」

「家に帰ったら突然不審火が発生して、台所周辺が焼けてしまったの。家の修理が終わるまで住む場所がなくて困っているのよ」

「…………」

「困っているのよ(威圧)」

「そうか、じゃあ上がれよ」

「……ありがとう。優しいのね」

「完全に優しさを強要されたけどな。親には一応言ってるんだろうな?」

「ええ、寮のような場所があって生徒会長たちと一緒にそこで厄介になると」

「寮か、まぁ寮みたいなもんか」

「ところでトイレを借りてもいいかしら?」

「構わんが、今ウチのトイレ心臓が弱いと腰抜かす仕様になってるから気をつけろ」

「何を言ってるのかよくわからないわ」


 その数秒後、トイレでいろはの悲鳴が響き渡った。






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