第18話 お嬢とゲームセンター 後編

 それからアンジェと共にぐるっと店内を回ると、和太鼓を叩くいろはとほら貝型コントローラーを持った響風の姿があった。


「あれはどういうゲームなんですの?」

「あれは音ゲーって言って、リズムに合わせて太鼓を叩いたりほら貝を吹いたりする。ほら画面に丸っこい玉みたいなのが左から右に向かって流れてきてるだろ? 一番右に来たタイミングで叩くと高得点」


 いろはは流れて来るリズム玉に四苦八苦しながら、和太鼓をポコペンポコペンと叩いていく。

 対するほら貝を持った響風は


「ブオ~~♪ ブオオ~~♪ ブオオオオオ~♪」

「な、なんて荒々しくも繊細なほら貝の音……」

「あいつほら貝で第九クラシック吹けるからな」


 なんとかゲームオーバーにならず演奏を終えたいろは達。


「どうだった?」

「楽しかったけど、なぜ数ある楽器の中で和太鼓がチョイスされたのかしら?」

「それは俺にもわからん。昔マラカスとかタンバリンとかあったんだけどな」

「太鼓が生き残ったってことは、これが一番とっつきやすくて楽しかったってことかしら?」

「かもしれん」

「イインチョ、UFOキャッチャーやろうぜ。さっき面白い景品の奴見つけたんだ」


 響風がいろはのジャケットの袖を引く。


「そう? 行こうかしら」

「お待ちなさい。UFOキャッチャーならわたくしにお任せあれ。さっきこのパンダリュックをとってきたところですわ!」

「どうせ最後は桧山君に泣きついてとったんでしょ……」

「ち、違いますわ! 自分の手でとりましたわ!」


 委員長がどうなの? と視線で聞いてくるので、祐一はご想像にお任せると濁した。


「じゃあキャッチャーやろう」


 女子三人でUFOキャッチャーコーナーへと戻っていく。


「人見知りの響風が仲良くなれるって凄いな」


 いろはもアンジェも響風に優しく、とても仲良くしてくれている。

 兄としてとても喜ばしいことだった。


 しかし彼は気づいていない。いろはとアンジェが外堀から固めて祐一を篭絡しようとしていることに。


(まず仲良くなるには妹さんからですわ――)

(まずは彼女から仲良くなって――)

((お姉さん的ポジションを手に入れる!!))


 女同士の戦いは既に水面下で始まっている。



「さてそれじゃあ俺は生徒会長の様子でも見に行くか」


 店内を探してみると、古いガンシューティングの筐体前で腕を組んでいるレオを見つける。


「会長はゲームやらないのか?」

「これだけ多いとどれにしていいかわからないな」

「好きなのやればいいんだよ」

「そうか……では……」


 レオは目の前のガンシューティングの前に立つと、硬貨投入口に黒い強そうなカードを入れようとした。


「入らん」

「姉妹で同じボケをするんじゃない」


 祐一は100円を2枚入れると2P用のガンコントローラーを握る。


「一緒にやるか」

「いいだろう。足を引っ張るなよ」

「前々から気になってたんだけど、その歴戦の猛者的な自信はどこから来るの?」

「それで、これはどうすればいい?」

「簡単だ。出てきた敵を撃てばいい」


 祐一がトリガーを引くとゲームがスタートし、荒廃した街が映し出される。

 地面からゴゴゴと音を立ててゾンビが這い出してきた。


「お、おい、まさかこれはFPSという奴じゃないか!? FPSは無理だぞ!」

「大丈夫、FPSだけどゲーセンのはただ撃つだけでいいようになってますから」


 祐一がゾンビを撃ち倒していくのを見て、レオも同じようにやってみる。


「おっ、上手いヘッドショット」

「弾が出なくなったぞ。故障か?」

「下を撃つとリロードされますよ」

「なぜ下を撃つとリロードされるんだ?」

「システムに突っ込むの禁止!」


 二人でゲームを進めていくと、あることに気づく。


(この人めっちゃ反射神経が良い……)


 レオは祐一が気づく前に次から次に敵をヘッドショットで倒していく。


「会長うまいな。初心者とは思えない」

「撃つだけで良いなら簡単だ」


 簡単と言ってのけるが、大量に迫って来るゾンビ。

 初心者ならすぐさばききれなくなってゲームオーバーになるのだが、凄まじい安定感で敵を処理していく。

 なんなら祐一の方がライフが減っているほどだ。


(敵の処理順が的確だ。良い判断能力をしてる)


 そう思っていると油断した祐一はゾンビの攻撃でやられてしまった。


「すまん会長やられた」

「私の勝ちだな。この程度一人でやって見せる」


 言葉通り一人でも軽快にゾンビを倒していくレオ。


「これはもしかしたら……」


 祐一が硬貨を投入すると、トゥルンと音をたてて2P側が復活する。


「会長、はい」


 祐一は2P側のガンコンをレオに手渡す。


「なぜ私に渡す?」

「会長なら一人で2P出来そうなんで。それともやっぱり無理か?」

「貸せ。私に出来ないことはない」


 やはり前々から思っていたが生徒会長はかなり負けん気が強い。直情型のアンジェと冷静なレオと姉妹で分かれていると思っていたが、根っこのところは同じらしい。

 祐一は後ろでゲーム画面を見ていると、レオはすさまじい安定感でゲームを進めていく。


「……俺より全然上手くて笑うわ」


 拳銃2丁を巧みに扱う会長に舌を巻く。


「しかしこのようなゲームが100円でできるとは、ゲームセンターとは凄いものだな」

「ここは古いゲームばっかりなんで100円が多いですけど、最新のとこ行くと1プレイ500円とか、スタートで1000円とられるのばっかりですよ」

「随分と値上がりした……な」

「ええ、古いゲーム筐体でも800万とか1000万とかしますから、それを100円でプレイさせるのは限界だったんでしょう」

「それはそうだな。回転率で考えると1筐体当たりの1日の収入は10時間稼働させたとしても2万円にもならないだろう」

「筐体も3カ月から半年で入れ替わりますから、半年稼働しても筐体代には遠く及ばないです。まぁ今はどれもリースですけどね」

「メンテ代や電気料金を入れればランニングコストだけでも苦しいだろう。ゲームセンターは年々規模縮小が続くと聞いている。やはりそれは時代について行き辛くなっているということか」

「残念ですけどそうですね。人が入らないと新台を追加できないですし、新台がないところに客は入りませんから。それにゲームセンターは対人戦を目当てにした客が多かったですけど、今は家にいてもインターネットで全国対戦できますから」

「なるほど、便利になるにつれて失うものもあるということだな」

「俺はこのゲームばっかりのワクワク感が好きなんで、なくなってほしくないですけどね」

「同感だ。様々なゲームを集めたアミューズメントエリアというのは、もはや文化の域に達している」


 祐一とレオが話をしていると、なぜかバニーガールに着替えたいろはとアンジェがUFOキャッチャーコーナーから帰って来た。


「なんで僅か数分でそんな面白い格好になっている」

「景品がバニースーツのキャッチャーやってたんだけど、アンジェがとれなかったら着替えてもいいって」

「とれなかったんだな。委員長は?」

「簡単そうねって言ったから、じゃあ10回でとれなかったらアンジェと同じバニーの刑ねって言ったらOKした」

「とれなかったんだな」


 なぜ彼女達は自らを追い込んでいくスタイルなのか。


「つかよくバニーとかあったな。キャッチャーの景品って原価800円までだろ」

「多分コスチュームショップから売れ残りを安くで仕入れてるんでしょ? 最近コスチュームとか結構あるよ」

「あぁ100均の仕入れみたいな」

「ってことで生徒会長にもバニーの格好させたいんだけど」


 響風は未開封のバニーコスを見せる。


「してくれるわけないだろ。殺されるぞ」


 するとガンシューティングの筐体からゲームオーバーと音声が鳴る。

 どうやらラスボスまでいったみたいだが、さすがにやられてしまったようだ。


「すげぇなこの人。自分の分はノーコンだぞ」

「くっ……」


 レオはすさまじく悔しそうに歯噛みしている。


「惜しかったな会長。でも二人プレイ用でやったからボスの体力も多くなってるし、十分健闘したと思う。コンティニューするなら100円――」

「HEYお嬢さん! コンティニューするならこのバニースーツを着てもらわないとダメだよ」


 悪徳商人響風が現れた。


「なに? それを着たらまだやらせてくれるのか?」

「ああ気のすむまでやってくれていい。おかわりもあるぞ」


 勝手なことを言う響風。


「おい、怒られるぞ」

「大丈夫だやろう」

「やるの!?」

「ブルーローズ家に撤退の二文字はない」

「何そのカッコ良すぎる覚悟……」

「じゃあ早速着替えてもらいましょう」

「会長無理しなくていいぞ。こいつが適当なこと言ってるだけだからな」

「邪魔するな兄者。兄者も会長のバニー見たいだろ?」

「正直見たい」


 己の欲望に素直な兄妹だった。

 その後トイレでバニーに着替えてきたレオは、気を取り直してゲームを再開する。


「す、凄い、バニーなのに全く気にしていない」

「会長凄い集中力ね」

「お姉様はのめり込むと凄い力を発揮しますから。というか人集まって来てません?」


 バニー姿の女の子が三人並んでガンシューティングしてたら、そら人も集まってくるだろう。


「これで……クリアだ」


 会長はラスボスにラストシューティングを決めると、ゲームクリアのエンドロールが流れていく。


「俺ゲーセンのガンシューで初めてエンドテロップ見たかもしれん」


 その後バニーを引きつれた祐一たちは、プリント写真筐体で初めてのシールプリントを撮ってゲームセンターを後にしたのだった。

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