第3話 俺への距離感が近い陽キャ美少女の裏アカを偶然知ってしまう③

「このアカウントで『いつもの男子と話すのが楽しい!』とか色々呟いてるな。恋バナ用裏アカってやつか……? それなら、なおのこと見ちゃいけないヤツだ」


 まだ高校入学から一ヶ月くらいしか経っていないとはいえ、二宮さんほどのスペックの持ち主なら、いつもの男子なる相手と既にかなり仲良くなっていることだろう。 そもそも校内の人間ではなく読者モデルの仕事で出会ったイケメンだったりするかもしれない。


 俺は偶然目にしてしまった呟き以外は見ないようにアプリを終了して、そのままWebブラウザのアイコンをタップ。なろうのサイトにアクセスする。


「なろう、か。二宮さんのアカウント名『なろう男子と裏アカ女子』って風変わりだな。裏アカ女子は二宮さん自身だろうけど、なろう男子ってのは誰を意味してるんだ?」


 俺は休み時間にスマホでなろう作品を読みあさっている。

 リア充とは程遠い、目立たず騒がずのクラスカースト下位。それが俺の立場だ。


「つまり俺ではない訳だ。俺と二宮さんのスペック差でそれは無い……。どこの誰かは知らないが、なろうにハマっている男子がいて、その男子が好きなのだろう」


 当然と言うか妥当な結論に至った俺は、二宮さんほどの陽キャ美少女であれば、恋路は間違いなく上手くいくであろうと思いながら、ありがたくなろう作品を読み進めた。




 昼休み終了間近。教室へと戻ると、二宮さんがリア充特権『他人の机と椅子の占領』を俺の机と椅子で行使していた。

 これなら地味な俺でも二宮さんに話しかけやすい。


「二宮さん、これ忘れてない?」


 クラスカーストの差を理解している俺は、クラスメイトたちに「二宮さんからスマホを借りていた」と気付かれないようにと考えて、それとなく二宮さんにスマホを返却した。

 すると素知らぬフリでスマホを返した俺に、二宮さんはニヤリと笑みを零す。


「おやおや、ヨッシーも何か忘れてないかな?」


 コミュ障の俺でも分かる「お礼は?」という二宮さんの問いに、俺は苦笑する。


「ありがとう、本当に助かったよ。恩に着る」

「その言葉を待ってたよ~。また何かあれば私を頼りたまえ~」


 俺と違ってクラスカーストなど微塵も関係なさそうに、二宮さんは返事した。


 最後に二宮さんは俺の椅子からぴょこんと立ち上がり、俺の左胸に握り拳をトンと軽くぶつけてきた。この陽キャ美少女は息をするようにスキンシップしてくる。


「鞄に入れっぱなしだったヨッシーのスマホ……。友達から借りたモバイルバッテリーで充電しといたから!」

「おおー、至れり尽くせりだ。本当にありがたい。二宮さんの友人にも感謝だな」

「ふっふっふ、礼なら伝えておくよ~。じゃあまたね!」


 二宮さんが自分の席に戻るとチャイムが鳴り、次の授業の先生が教室に来た。


「……うん、これなら家に帰るまで充分持ちそうだ」


 半分ほど充電が回復していたスマホを見た俺は心の中で再度二宮さんに感謝。

 裏アカで呟かれていたなろう男子は幸せ者だな等と思いつつ教科書を開く。


 現代学園モノのラノベ主人公みたいなラブコメ適性が有れば、裏アカを知ったのが引き金となって二宮さんと交流が深まったりするのだろうが……まあ、俺では力不足だ。

 教科書をめくりながら、今日も俺は冴えない男子Aとして授業を受けた。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 今日もいつもの男子に突撃したよ!

 これからも毎日攻めて攻めて攻めまくるぞ~!

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 二宮姫子は自宅で、とある同級生を想いながら、裏アカで呟きを投稿した。

「明日もヨッシーに絡むぞ~。毎日話しかければ私の好意にも絶対気付くはず!」

 そして吉屋衛司も自室で今日の出来事を思い出しつつ、独り言を漏らした。

「二宮さんと話すの面白いよなあ。俺なんかに話しかけてくれる間は楽しまねば」

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