第5話 推薦状をもらえたよ

 7歳になったある日のこと――


「わっ!? すごいわ! マセルくん!」


「マセル! お前、そんなことができたのか!?」


 校舎裏で、メルナちゃんとクリスくんに、『火球ファイヤーボールお手玉』を披露する私。


 クリスくんとは、今ではすっかり仲良くなっています。

 メルナちゃんは、相変わらずお人形さんのように可愛いし、クリス君は更にイケメンに磨きが掛かっていて、これでシスコンでなかったら、絶対にモテモテだろうに…… もったいない。


「こんなことで驚いてたら、もっとびっくりするよ! それ!」


 私は、更に火球ファイヤーボールを2つ追加して、4つの火の玉でお手玉をして見せました。


 私、前世ではお手玉が大の得意だったんだよ!


 いい気になって、はしゃいでいると、


「あなた達! そんなところで何をしてるんですか!?」


 あっ!? フレイヤ先生に見つかっちゃった。


「そんなことをして、火事になったらどうするの? マセルくんは、罰として、今日は放課後に居残りですよ!」


 フレイヤ先生の怒った顔、初めて見ました。全然怖くなかったけどね。


   ・・・・・・


 翌朝、私はフレイヤ先生に職員室に呼び出されました。


 昨日のことを怒られるのかな? って、ちょっとドキドキしながら職員室に入ると、大勢の先生方が待ち構えていました。


「本当にこの子が?」


 先生方は、興味津々で私を見ています。


「そんなに、彼の能力はすごいのですか? フレイヤ先生?」


 校長先生までいらっしゃるよ!


「ええ! きっと皆さん、驚かれますよ!

 さあ、マセルくん! 先生方にあなたの実力を見せてくださいな」


 話がよく見えないけど、私は先生方の前で『能力』を披露することになったのでした。


   ・・・・・・


「信じられない……」


「ここまで凄いなんて…… 正に神童だ」


「間違いなく、この学び舎始まって以来の天才だ」


「この目で見ても、まだ信じられませんわ…… これ程の能力は、聞いたこともありません」


 私に対する先生方の称賛の声。


 いえいえ、全然大したことありませんよ。この程度は朝飯前です。

 何せ私――


 前世で『暗算2段』ですから!


「こんな4桁の掛け算を、筆算を使わずに一瞬で解くなんて!」


「いやいや、こちらのずらっと並んだ数字の加減算を、あっという間に解いたのも凄すぎる!」


「これだけの計算問題を解くには、大人が筆算で計算しても、1時間は掛かるというのに、わずか3分程で全問解いてしまうなんて!」


 昨日、居残りでさせられたのは計算問題でした。

 最初フレイヤ先生は、2桁の加減算とか、1桁の掛け算を出題していたんだけど、私があっという間に解くもんだから、最後には4桁の掛け算を出題してきたんだ。

 でも、その問題も私がすぐに解いたことで、フレイヤ先生は驚いたみたい。


 前世の暗算チート能力で称賛されるの、気持ちいい!

 って、何か間違ってないですか?


 ここは、私の『魔法の才能』が褒め称えられる場面じゃなかったの?


「あの、フレイヤ先生…… 僕の魔法を見せるんじゃあ……」


「魔法? マセルくん? そんな物を見せて何になるというの?」


 フレイヤ先生は、心底不思議そうに私を見ています。


「だって僕、戦闘魔法を使う魔道士になりたいんです!」


 私がそう言うと、


「戦闘魔法なんて、戦時中以外は需要がありませんよ」


「覚えても、使う機会はほとんどないですからね」


 先生方から否定の答えが返ってきました。


「でも、戦争以外でも、魔物退治とかで魔法を使いますよね?」


「魔物退治に魔法? そんな効率の悪いことは、普通はしません」


「そうですとも! 私は若気の至りで火炎魔法を覚えましたが、火耐性の高い魔物にはほとんど効きませんよ。魔物退治には武器を使用するに限ります。武器なら、どんな魔物にも有効ですからね」


 確かに魔法耐性のある魔物に、魔法は効きにくいかもしれないけど、武器にも欠点はありますよね。


「でも、武器での接近戦は危険ですよね?」


 魔法なら遠距離から攻撃すれば安全だし!


「魔物退治は集団で行うものです。遠距離・中距離・近距離と連携しながら戦えば、それほど危険ではありませんよ」


 た、確かに…… 否、そんな説明に屈するな、私!


「それでも、少しくらいは魔法を使うこともありますよね?」


「魔法を使うにはMPが必要ですし、MPが尽きればそれまでです。それなら、属性効果を付与した武器を使った方が、遥かに効率的です」


 戦闘魔法にだって、何か良い点がある筈……


「でも、戦闘魔法にだって、少しくらいは需要がありますよね?」


「ありません。魔法で需要があるのは、治癒系と強化系くらいです」


 戦闘魔法、全否定されたよ…… こうなったら、治癒系と強化系でいいですよ!


「でも、治癒魔法は自分の生命力を変換して使う能力だから、使いすぎると寿命を縮めることになるんですよね」


「ええ。治癒術士は高給取りですが、短命の方が多いですね」


 流石に、自分の寿命をお金と交換したくありません。そうすると、希望は強化系


「強化魔法は、自分の反射速度や筋力を無理矢理上げるものですから、無理しすぎると、軽くて筋肉痛で数日間の入院、最悪の場合は神経がズタズタになって、一生寝たきりになることもあります」


 強化系もダメなんですか? それでも、アレなら……


「超強力な戦略級魔法なら、きっと需要は有りますよね?」


「そんな強力な魔法は、それこそ迷惑千万です! 後始末が、どれだけ大変だと思いますか!?」


 校長先生、ちょっと怖いです。もしかして、気に障ること、言っちゃいましたか?


「魔法など、生活に必要な基礎魔法だけで十分だよ」


「その通りよ。あなたのその『計算能力』と比べたら、戦略級の超魔法なんて、ゴミ屑程度の価値も有りませんわ!」


 そんな…… この世界では『魔力』よりも『暗算』の方が価値が高いなんて……

 私の魔法幻想が崩れていく……


「兎に角、マセルくん。あなたが8歳になったら『王都の学校』への推薦状を用意します。あなたのその素晴らしい能力を、王都でも存分に発揮なさい!」


 校長先生は、私に推薦状を用意してくれるようです。


 私は希望が叶うというのに、素直に喜べませんでした……



   ◇ ◇ ◇



 とうとう王都へ出発する日がやって来ました。


「マセル、無理しなくていいぞ。駄目でも、帰ってくればいいだけだからな。落ち込まなくていいんだぞ」


 父よ! なぜ行く前から、ネガティブなことを言う?


「マセル、あなたなら大丈夫よ。自信を持って行ってらっしゃい」


 これが正しい見送りだよ。母はちゃんと分かってる!


「お兄ちゃん、がんばれ!」


 私の妹の【マリン(2歳)】も応援してくれたよ。

 うん! お兄ちゃん、絶対に頑張るからね!

 マリンは、すごく可愛いんだよ! 今では、クリスくんの気持ちがちょっと分かるようになったよ。


「マセルくん、ハムストンの学び舎代表として頑張ってきてください。期待していますよ!」


 先生方も見送りに来てくれました。


「マセルくん、頑張ってね……」


「マセル、応援してるぞ!」


 メルナちゃんとクリスくんも、見送りに来てくれました。

 でも、メルナちゃん、ちょっと悲しそう?


 まさか!? メルナちゃんは、私のことが好き……


「マセルくんが居なくなると、ちょっと寂しいな…… 妹が居なくなるみたいで……」


 へ? 妹?


「マセル! お前、女みたいな仕種するの直せよ! 向こう行って舐められるぞ!」


 まさか私―― まだ女性っぽい仕種が抜けてませんでしたか!?

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