第3話

 夏休み初日。今日は土曜日。

 いつも通りの時間に目が覚めてしまった。

 現在時刻は午前六時。

 やることもないので、いつも通り、朝ごはんの用意に取り掛かる。

 ベーコンを焼いているフライパンの上に、卵を落とす。もちろん2個だ。

 心地の良い音とともに、おいしそうなにおいがする。

 気持ちの良い朝日が小窓から差し込まれる。

 ドリップコーヒーを淹れて、トーストを焼き、ベーコンエッグをトーストの上に乗せる。

 完成。とても満足な出来。

 ダイニングテーブルに皿を置くと、ちょうどドアから、金髪美少女が現れた。

 去年から同棲している、彼女の、エミリーだ。

「はぁー……。おはよー、ゆきや」

 髪の毛ぼさぼさで、パジャマよれよれのエミリーは、冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。

 今起きたばかりのようで、いつも結んでいる髪は降ろしていた。

「おはよ、エミリー。昨日は遅かったのか?」

「うん、まぁね」

 そう言いながら、エミリーは牛乳とコーヒーを4対1で混ぜ合わせた。

 俺も席について、エミリーと一緒に手を合わせる。

『いただきます』

 いつもの朝食が始まった。

「うまぁ……」

 おいしそうにベーコンエッグトーストをほおばるエミリーはかわいかった。




 朝食を終えるとエミリーは、「着替えてくるー」と、言って、自分の部屋へ戻っていった。

 その間に、俺は皿洗いを終わらせ、ソファーに座り、朝のニュースを見始めた。


 リビングに戻ってきたエミリーは、いつものツインテールに結んでいた。

 服装は、白いワンピースに、青のパジャマシャツ。

 俺が去年の夏に、エミリーにプレゼントしたやつだった。

 ラフな格好だが、とてもおしゃれで、似合っていた。

「エミリー、やっぱその服に合うな」

「そう? ありがと」

 そう言って、エミリーは俺の隣に座った。

 二人でニュース番組を見ながら、たわいもない会話をする。

 可愛い犬がいっぱい出てくるコーナーが終わったあたりで俺は立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ勉強するわ」

「えー、初日くらいいいじゃん」

 エミリーが引き留めてくる。

 正直、エミリーとずっと遊んでいたいが、宿題を早めに終わらせれば、もっと遊べる。

「4日目までに終わらせる。どこ行きたいか、考えておいて」

 そう言って、俺は自分の部屋に入って、宿題に取り掛かった。




 宿題が全部終わったのは、夏休み3日目の夕方だった。

「おわっ……たあ!」

 約束を無事守れたことに安心して、そんな声が出た。

 最後の宿題を机の上でまとめ、クリアファイルにしまう。

 背中を伸ばすとバキバキと音が鳴った。




 リビングのソファーに横になっている、エミリーに声をかけると、すぐに振り返った。

「お待たせ、エミリー。宿題終わったよ」

「やっとね! 幸也、今日から遊ぶわよ!」

 ソファーから飛び降りて、まるで子供の用にはしゃぐエミリー。

「明日からなー」

 冷蔵庫をあさりながら、俺は返事をした。

 冷蔵庫の中をあさったが、特に何もなかった。

「エミリー、やばい。食材がない」

 リビングではしゃいでいるエミリーは、動きを止めた。

「へぇ……。食材がないの……」

 何か企んでいるような顔で、エミリーは言った。

「あぁ。どうする? エミリー」

「久しぶりに、外食に行く?」

 なんだかエミリーは嬉しそうだ。

「あぁ、そうだな。外食にしようか」

「ほんとに⁉」

「あぁ。久しぶりだし、夏休みだからな」

 エミリーを3日も待たせてしまったし、その埋め合わせも込みで。

 本当の理由は、俺がエミリーとデートしたいからなんだけども。

「わかったわ! すぐ着替えてくる!」

 エミリーはそう言うと、半分スキップで自分の部屋へ戻っていった。




「お、おまたせ」

 そう言って現れたエミリーの格好は、とても可愛かった。

 いつものツインテールに、ベージュのトップス、黒のドットプリーツスカート、黒のキャップという、カジュアルコーデだった。

「ど、どう?」

「めっちゃ似合ってる。かわいい」

「ほんと? なら、よかった」

 安心したように、エミリーは、にへら、と笑う。


 今日のエミリーは、いつもより気合が入っているように感じる。

 思えば、ここ最近、エミリーと外出なんて、ほぼできていなかった。

 エミリーが、先ほどから上機嫌なのは、俺と外出できるからなのか。

 そう思うと、にやけが止まらなくなる。

 今日もエミリーはかわいい。

 俺は、幸せを感じながら玄関の扉を開けた。




 駅前のレストランを出て、二人並んで家へ向かって歩く。

 途中、コンビニでアイスを買った。

 現在時刻は午後9時。

 どちらからともなく手をつないだ。

 エミリーの手はひんやりとしている。

 ただ、手をつないでいるだけで、こんなにも幸せなんだ。

 エミリーのほうを見ると、耳を少し赤くしていた。

 こんな日常を、俺は感じ続けていたい。




 今年の夏は、始まったばかりだ。

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