第18話

 そんなこんなと話している内にクラスメートの大半が登校して来ている。

 ざわつく教室内だが昨日と違うのは俺の席にトップカーストの3人が揃っていると言う事だろう。そんな状況に皆が戸惑っているのか、春翔に声をかけてくるクラスメートもいない……まぁ当人は別段気にもしていないのか、なに食わぬ顔だが。

 そう言えば……と、ふと思い出したことを聞いてみることにした。


「なぁ、そう言えば今日って始業式だよな……一年は何するんだ? まさか一緒に式に出るとかってわけじゃない……よな?」


「夏希、昨日の話聞いてなかったのかい? 式には出ないけど、その間にクラスの委員とかを決めるんだよ。その後に先輩方が部活紹介とか学校案内してくれるって流れかな」


 春翔が言うには、始業式自体はさほど時間がかからないらしい……校長や生徒会からの連絡などがある程度だとか。一年生はその間の時間も使ってクラスの役員や委員会の代表者を決めると言う事だ。

 委員会か……俺は部活をやるつもりもないし何かに所属するのも悪くはないかもしれないな、モブと言えば定番の図書委員とかどうだろうか……。

 委員会は状況次第にしておくとして、それより気になったのは、学校案内……。 


「先輩が学校案内? 珍しいな……」


「そうかもね。2、3年生からの有志みたいだけれど何人かのグループごとに案内してくれる先輩が付いてくれるのさ。夏希はまだ学校自体にも慣れていないだろうし、良かったら4人でどうだい?」


「確かに……まだ教室までの道順くらいしか知らないな。皆瀬さんと渡來さんは俺よりは知ってるだろうけど、一緒に回ってみないか?」


「いいんですか!? はいっ、是非ご一緒したいです!」


「私も今日は部活がないしオッケーだよ」


 すんなりと二人の同意を得て学校案内は4人で回ることになった。丁度そのタイミングでチャイムが鳴り戸渡先生が入ってくる……タイミングばっちりだなこの先生……。


「席に付けー、それじゃあ昨日話した通りクラス委員長から決めていくぞ。早く決まれば教室から出たり騒ぎすぎなければ自由だからな? どんどん立候補してくれ」


 立候補が居ないようなら……図書委員やってみるか。



――――



 その後滞りなく全ての役職が決まった。やはり既に誰がやるのか、やっていたのかという認識が中学から続いているのが強いのだろう……意外だったのは図書委員には俺以外に誰も立候補しなかったことだが……楽だろうと思ったのが実はものすごくハードだったりしないよな? 不安になってきた……。


「はい、それではこれで役員決めは終わりです。後は戸渡先生がおっしゃいました通りの自習時間となりますが、教室から出たり他のクラスの迷惑になるほど騒がないようにして下さい」


 そう締め括ったのは委員長になった中条 結花里(なかじょう ゆかり)だ。肩までのセミロングに赤縁の眼鏡、同じ色のヘアピンで前髪を止めているのが良く似合っている、そしてその立ち姿は中学でも委員長として余程頑張っていたんだろうと思えるほど堂に入ったものだった。


 さて、時間まで音楽でも聴いて過ごすか……とも思ったが、この後の事を春翔や皆瀬さん達とも話しておいた方が良いか。何か見たいところや部活なんかもあるかも知れないしな。

 皆瀬の方に目をやると渡來と一緒にこちらへ向かってきているのが目に入る。春翔も気が付いているらしく、横向きに座りなおして話始められる体勢をとった。


「さて、この後の学校案内だけど、皆は何か見ておきたいところはあるのかな?」


「んー、私は学食とか? 中学の時は行かなかったけれど、今後使う事があるかも知れないしねー」


 と言うのは渡來だ、学食なんてあるのか……知らなかった……。


「私も見ておきたいかな……普段はお弁当だけれどメニューも気になるし、他には自習室とか見ておきたいかも。今までは家で勉強していたんだけれどね」

 

 皆瀬は自習室か……テスト前なんかはお世話になりそうだな、成績を維持するためにも手は抜けない……のだが、まぁそう頑張らなくても良いだろう、程々でいいしな。


「俺は図書室かな……委員にもなったし早めに確認しておきたい」


「図書室ね、まぁ早めに知っておくのはいい事だと思うよ」


 春翔がにこにこと笑いながら言ってくる……なんか含みがある言い方だな?


「図書室に何かあるのか? 誰も立候補しなかったから気になってるんだが」


「うん、本があるよ……たくさんね」


 何言ってんだ、春翔……図書室なんだからたくさんの蔵書があるのは当然だろう?


「私も図書委員やってみたかったんだけど、妹の世話があるから……。あのね相馬君、この高校の図書室は県下随一の蔵書数なのよ。それこそわざわざ司書さんが居るくらいに……」


「えっ、そんなに!? だから立候補する人が居なかったのか……」


 これは失敗だったか? でも本は好きだしな……司書さんもいるなら何とかなるだろ。

 詳しく聞くと……どうやら学食、自習室、図書室は全て校舎とは違う別棟だとか。二階が学食、一階に自習室と読書スペース……蔵書の大半は地下になるらしい、どんだけデカいんだよ……。学食を使えるのは高校生になってからだが、放課後や長期休暇中などには中学生にも自由に使えるスペースとして開放されているらしい。当然、図書室も使えるってわけだ。

 

「なるほど、じゃあ待ち合わせにも使えそうだな」


 美央が一緒に帰りたい時でも図書室で待っていてもらえば良さそうだ……時間も潰せるだろうし、俺と同じで本も好きだしな。


「おや、夏希には待ち合わせをするような相手でもいるのかい?」


「ん? あぁ、妹が居る。委員で遅くなる時はどうするか話しておかなきゃな……もしかしたら皆瀬さんに一緒に帰れないか頼むかもしれないけど、いいか?」


「私!? も、もちろん、美央ちゃんとなら大歓迎だよっ! 連絡先も交換してあるし、相馬君が委員の時は誘ってみるね」


「ありがとう。二人の方が安心できるしな、その時は頼むよ」


 早い時間であれば然程さほど心配はいらないだろうが、それでも一人よりは良いだろう。


「明莉いいなー、私も美央ちゃんと一緒に帰りたーい」


「孔美は部活じゃない……でも、部活が休みの日とか皆で帰れたら良いわね」


 すっかり美央の事を気に入ってくれたらしい二人を眺めていると終鈴が鳴る。さてこの後は学校案内だ、どんな先輩が来てくれるのだろう……。 

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