第16話 みーつけた


 家に帰るとついつい妹と遊んでしまうので、集中する時は学校の自習室を使っている。

 出来れば18時ぐらいまで使えれば丁度夕飯のタイミングになるので丁度良いんだけど、生憎使用は16時迄となっている。


「うーーん逆に集中しきれない……でも早めに家に帰ってもなあ……」

 なにやら最近妹には仲の良い友達が出来たらしく、またその娘には中学の彼氏だかがいるとかいないとか……マセガキが……おっと口が悪かったな……失礼。


 なのでなんだか家には帰りにくいので俺は時間潰しに本屋に向かった。


「そろそろ大学を絞らないと……」

 純は恐らく国立だろう……出来れば俺も……とは思っているが、浪人はもう出来ない……これ以上周囲から遅れるのは嫌だ……と言うことで本命は私立文系、一応大学野球なんかで有名な某大学を狙ってはいる。


 

 学校から家に帰る途中にある駅の本屋に到着、この辺では一番大きい本屋だ。

 専門書、参考書、児童書に漫画やらのべ、俺も子供の頃から世話になっている。

 

 参考書や赤本なんかをボーッと見てまわる。


 やっぱりこういうのを見ると再度思う……俺はもう遅れる事は、足踏みする事は許されない……今は恋なんて……恋なんて……ううう、詩ちゃん……。


 そうは言っても簡単に忘れる事も出来ない……なので勉強に集中する事も出来ない……かといって城島に負けるわけにはいかない……これ以上純に離されるわけにはいかない……浪人するわけにもいかない。


「いかない事だらけだな……」


 高校生活が息苦しい……人生が息苦しい……生き苦しい……。


 人の人生なんて一瞬で変わってしまう……俺はこの若さで実感した。


『禍福は糾える縄の如し』とは良く言ったもんだ……。


 幸福と不幸は表裏一体という意味だ。つまり……不幸は突然やってくる……そして幸福も突然……………………………は??


 俺は目を疑った……俺の居る参考書ゾーンの先に…………天使がいたからだ。


 眩しいくらいに輝いて見えるその天使は本屋の片隅に立っていた。


 俺は恐る恐るその光に向かって近付く……銀色の髪、白い肌、間違いない俺の天使が……そこにいた。


 天使は猫の本をニコニコしながら眺めている……ど、どうする……どうやって声を掛ければ……。

 

 俺は振られたのかも知れない……からかわれたのかも知れない、今声を掛けたらストーカー扱いされるかも知れない……。

 でも……それならそれでいい……そうしたら諦められるかも知れない。


 俺は最大の勇気を出して、空手の大会で強敵に向かう気持ちで、天使に声を掛けた。


「ね、猫……好きなんだ」


「はい!」

 俺が声を掛けると天使は振り向きながらニッコリ笑ってそう言った。


「…………や」

 俺はどうして良いかわからずとりあえず笑って手をあげる。


「…………」


「えっと……」

 

「……」


「あの……」

 天使は俺を見て沈黙する……俺もどうして良いかわからずじっと天使を見続けた……。

 そして……数分の沈黙の後、天使の目からボロボロと大粒の涙がこぼれだす。


「は……はううわああああああああああん」


「え? いや、ちょっちょっと」

 や、ヤバい、こんな所で美少女が泣くと……俺が何か変質者扱いに見られれる……と思ったその時、その天使が俺に抱きついて来た。


「はうううううわああああああああん、たっくん、たっくん、ごべん、ごべんなざあああああああいい」


「あ、あわあわあああ」

 俺にしがみつき泣き始める天使……とりあえず周りの目は変質者扱いの目からバカップルを見る目に変わる……。


「ちょっと外に行こう、すみませんすみません」

 俺は何事も無いふりをして天使の手を引っ張り店の外に出た。


 そのまま駅近くの小さな公園に天使を誘う。

出会った時と同じ様に夕方の公園のベンチ揃って座った。

 

 詩ちゃんは俺にしがみつきながら暫く泣いた後に訥々とつとつと今までの事を話し始めた。


「……だから……ごめんなさいです……」


「ううん、良いよ……嫌われてたわけじゃないってわかっただけで」

 詩ちゃんが悪いわけじゃない……俺が嫌われてたわけでもないって事に俺はホッとしていた。


「嫌いになんてならないです……むしろ私が嫌われたかもって……」


「俺が詩ちゃんの事を嫌いになんてなるわけない」


「……嬉しいです」

 真っ赤な顔でニッコリと笑う詩ちゃん……ああ、可愛い、ようやく、ようやく会えた……俺の天使、運命の人……。


「……そうだ……これを渡そうって」

 俺は1枚の封筒を渡した。


「何ですか?」

 詩ちゃんはそれを受けとると不思議そうに眺める……俺は少し照れ臭そうに言った。


「俺のスマホの番号とメールアドレス……そして……ラブレターです」


「ふええ!?」


「嫌われていないなら渡そうって、ずっと用意してた」


「……あ、ああ、ありがとうです」


「うん、照れ臭いから家で読んで」


「……はいです…………家…………はうわあああああ、い、いま何時ですかああ?」


「え? いま6時ちょっと前」


「ああああ、お、お母さんに怒られます! 帰らないと」

 詩ちゃんは途端に慌て出す……いや、今時6時門限て……とは思ったが、そういえばスマホも駄目だし、かなり厳しい家なのかも? まあこれだけの美少女だから夜は危険だとは思うけど……。


「あ、うん、良いよ、俺は大丈夫」


「でもでも、せっかく会えたのに」


「連絡くれれば良いよ……待ってるから」


「はいですう、必ずするです!」

 詩ちゃんはそう言うと元気良く、まるで小学生の様に元気良くベンチからと立ち上がり、ニッコリ笑ってから走り始めた……途中途中で何度も振り返り手を振る……俺もその度に手を手を振り返したってこれこの間と同じシチュエーションじゃないか! 止めてくれ……また死亡フラグに見える……。

 


 でも大丈夫、今度は…………今度こそは……大丈夫だよねええ?


 

 






 





 

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