第弐拾参話―ガロンと内ケ島椛葉の決闘―

数日かけて内ケ島とガロンは最初に出会った場所へとたどり着く。内ケ島がスライム一匹さえ倒せず悪戦苦闘して、ガロンは助けた相手がアンノーンオーブ使い手とは、つゆも知らずに行動した。

転生してアンノーンオーブを持つ内ケ島と戦う。


二人は今度こそ決着をつけるため最初の地を選んだ。


「前と同じく特製の篭手こてを使い戦う。それでいいか」


「は、はい!」


ガロンは毒矢を撃つ事ができる篭手を内ケ島に投げ渡す。上手くキャッチ出来ず内ケ島は篭手を地面に落とし拾う。緊迫した空気でも緩くさせる天賦てんぶの才を持つ。


「今だからこそ言えますけど、わたしスライムにボコボコされていたけど、ガロンさんに助けられて

ヒーローみたいって思いました」


「ヒーロー?俺がか」


「はい、ガロンさんはわたしの中でヒーローでした。けど今は少し違います」


「そうだろうな。俺はヒーローと呼べるような善行など行っていない」


「わたしは、信じませんけどね」


内ケ島がガロンの自己評価の低さから出た言葉を彼女は否定した。

ガロンの在り方を彼女は否定しないため汚すようなことは否定するのだ。


「・・・調子が狂うなぁおまえは。面白くて」


「えっ?ガロンさんもう一度だけ言っても」


「何でもねぇ、それよりも」


小さな呟きを聞き返そうとする彼女をガロンは背中の槍を取り出して戦闘の構えをした。再びの緊迫した空気。空気が重たくなる緊張感。勝利の渇望かつぼうする威圧感を醸し出す。


「俺も昨日の旅路で答えを決めた。この戦い、全力で目的のために行く」


「・・・はい。ここに来たときから覚悟はしていました。行きます」


杖を取り出して構えると、それが合図となった。ガロンは地面を蹴り駆け出す。


「行くぞ転生者!」


「はい!」


内ケ島は、拝借した左用の篭手をガロンに向け、レバーを右手で引き放つ。前回よりも動きが速く、

まるで自分の体の一部のように使いこなしていた。


「速い!?はあぁ!」


動作が速くなっても矢は真っ直ぐよく知る速度などは変わりはない。ガロンは右の槍で振り払う。

そのまま進撃する。


「やあぁぁ!」


装填する――と見せかけ、左手に握っていた杖を下の右から左ななめに動かして投擲とうてき。まさかの杖を投げた事にガロンは予想外に対処を出来ず命中する。


「なっ・・・しまった!」


「や、やった」


大腿部だいたいぶに当たり軽い痛みで大したことはなかった。後ろによろめき転倒。

尻餅をつくことになったのは、大きく内ケ島は装填が終わり矢を放つ。一度でも受ければ毒が回り敗北を喫する。


「まだ、だぁぁー!」


ただの右の篭手で放った矢をガロンは受け止める。


「まだです!」


杖を投擲し奇襲をかけた隙を矢を放つほど策謀を巡らせた戦い方にガロンは我が目を疑うほどに内ケ島は成長していた。そして距離を取ろうと矢を放つと思いきや、その逆の行動、前へ走って装填する。


(ここまで、やれるようになっていたとは・・・トレーニングもなしで前の戦いでこれほどに)


杖が手放したせいで奇襲はできない。仮に同じことしても通じないだろうが。内ケ島椛葉は、大胆にも前へ出て矢の命中率を上げる選択した。もちろん槍で反撃される。

そんな思い切った行動を取れるなど賭場とばのよう賭けに出た。武器を持った戦いで、そんな選択するなど豪胆な者でもいない事だ。


「つくづく、驚かせる奴だおまえは!」


ガロンは装填中なら攻撃がないとすぐに立ち上がろうとする。


「貰い・・・ました!」


起き上がるガロン同時に内ケ島の左の篭手の装填音が鳴る。

そして、ガロンの懐に入り内ケ島はゼロ距離での矢を放とうとする。


「くっ!」


(間に合うか!)


ガロンは毒矢を放つ前よりも早く横蹴りでの物理方向に飛ぶのを狙う。


「ぐっ!!」


「ぁっ!」


攻撃は、寸瞬の差でガロンの方が早かった。衝撃を受けて毒矢を放った。しかし、内ケ島の毒矢が狙いをあらぬ方向へ飛ぶ前にガロンの左腹部に命中させた。


「く、クソッ。動け・・・ない」


身体の全身を硬直になったような感覚になりつつ抗おうと前へ足を踏む前に転倒する。


「きゃあぁ!!」


華奢きゃしゃな内ケ島は横で何度も回転してようやく動きが止まると、ゆっくり立ち上がる。


「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ。

も、もしかして勝ちました?」


倒れ上手く動けないガロンに内ケ島は信じられず瞬く。警戒しながら内ケ島は装填して構えて近づく。


(わなじゃなく本当に動けないんだけどなぁ)


内ケ島は、近づき何も起きないと理解したのか突然、屈んで頭をポンポンとしてきた。


(一体、何をしているんだ?)


「あ、あれ?これ本当に・・・ガロンさん動けませんか」


「・・・・・け・・・な・・・・・」


「うん、舌も上手く出来ないほどですか」


(動けないから、トドメをさせ。

落ちている槍を拾って)


「ちょっと、待ってください。

すぐに回復させます」


アンノーンオーブ[絶対なる聖域]を発動して地面に数秒で出現する翡翠色ひすいいろの魔法陣により毒により硬直したガロンの身体は自由に動かせるように成る。絶対なる聖域により状態異常を治癒し無効させる能力。


「・・・トドメをさせ。おまえにはその権利はある」


「えっ?トドメを」


キョトンとなる内ケ島。ガロンは指を落ちている得物の槍をさす。


「この戦いはどちらかが、命を奪う決闘だ。だから、その槍で――」


「いえ恐いので無理です」


「はっ?」


呆気に取られるガロンを勝った、わたしが従うのはおかしいと思った。


「えーと・・・だって、わたし勝ちましたしガロンさんの言うことを聞くのは違うと思うんです」


「そうだな。なら、何か望みだ?」


ガロンの問いに内ケ島は、「うーん」と腕を組んで悩み唸る。

ガロンは思った。勝つとは思ってもいなかったのか。だからあんな大胆な事を出来たわけなのか?


「それじゃあ、わたしがお願いするのはガロンさんは、もう異世界転生したわたし達などを復讐をしないこと」


それは、ガロンの信念と執念、唯一の目標を否定することだった。

ガロンの返事は――


「断る」.


ガロンが諦めることはない。記憶に刻まれている地獄を繰り返さないため、それだけは約束出来ない。出来たとしても破ると本人はそう思った。


「そ、そんな諦めてくれないんですか」


「今さら捨てるなど出来ない。

復讐が間違っていることは重々と知っている。何もならない、火種が増えるだけなのも。だが、絶対なる力で蹂躙じゅうりんさせたくないんだ」


「ガロンさん・・・」


心配をかけたことにガロンは反省をする。


「悪かった。閑話休題だが、おまえはそれ以外なら何がある?」


再びの問いに内ケ島椛葉は少し考察し口を開く。


「なら、せめて力だけを・・・奪うだけにしてください。命を奪うなんて、悲しいだけです!」


ガロンの切実な決意に悲喜交々ひきこもごもに至る内ケ島は悩んだ末に出した答えはアンノーンオーブという力だけを狙うことが条件だった。


「そんな事ができるのか?俺は聞いたこともないぞ。アンノーンオーブを奪うなんて」


「え、えーと・・・きっとありますよ!」


「具体案がないのに、どうして自信ありげなんだ。ハァー」


「そ、そうですけど・・・この異世界で探せばきっとありますよ」


異世界という内ケ島の言葉に疑問を覚える。ガロンにとって、この世界は異世界の認識ではない。異世界と思うのは、にほん。

それよりも、行き当たりばつたりの案に呆れため息が出る。


「無い」


「で、でも!」


「そもそも研究する人がいないから謎のままだ。よく調べれば分かることはあるはずだ」


「研究している人いないんですね」


「ああ、アンノーンオーブを失う方法があれば。おまえの言った無闇にアンノーンオーブ使い手を奪わないようにする。だが、危険と俺が判断すれば前回のように討つ。それで構わないか?」


「はい。その条件がいいです」


ガロンが、討つ以外の道を暗中模索しようとする事に内ケ島は嬉しくなった。もしかしたらガロンが研究すれば今まで分からなかった事が分かるかもしれないと信じて思う。


「解った。その条件で従う。

これからは、無闇にアンノーンオーブを討たないことにする」


「うん!」


喜色満面の表情で答える。


「それで、怪我は平気か?」


「えーと、蹴られた所なら少し痛いですね」


「わるい、これはお詫びだ」


ガロンが取り出すはポーション。

ゲームやマンガなどで馴染みのありすぎる有名の回復する液体ポーション。


「あ、ありがとうございます。ガロンさんありがたくいただきます」


受け取り内ケ島は、ゴクッ、ゴクッと一息で飲みほす。痛みを感じていた腹部は次第に弱く痛みが消えていく。からになったポーションをウエストポーチに入れて後で捨てようと考える。


(あれ?何か忘れている・・・・・ハッ!勝利の立役者でした)


「あのガロンさん拝借した篭手をかえします」


「ああ。・・・いや、やはりこれはおまえが持っておけ」


「で、でもガロンさんので、どうせ、わたしなんかが持っていても」


「おまえなら、これを俺よりも使いこなせる。色は黒で申し訳ないが」


「い、いえ!いただけるだけで

嬉しいですよ」


顔を横にブンブンと振る。


(この篭手カッコいいから、いただいて嬉しい)


「えへへ」


内ケ島はガロンからもらった事に少踊りする気持ちになるのだった。


それから二人は最も近い場所へ泊まることにした。ウール村へ。

村に足を入れると、村人が気づき村長や子供なとが歓迎してくれた。二人は挨拶そこそこにヴォールの鍛冶屋に入る。


「まったく、戻るの早くねぇか?」


「色々とあったからなぁ」


「まぁ、あの子が帰ってくれたおかげでヴァレストが喜んでいるから別にいいが。また刀じゃない仕事しろと言うのか?」


「ああ、矢が尽きそうになっている。篭手とストックを頼む」


「あいよ」


ヴォールが、暑苦しくなるサムズアップをしてガロンは「任せたぞ」とスルーして、外に視線を向けるとヴォールの子供3人と内ケ島が遊ぶ姿を眩しそうに見る。


「っ――!?なんだ!この刺されるような鋭い冷気は・・・」


ガロンは突然の冷気の原因を何が起きたか確認しようと外に出ると

足が氷で凍結して動けなくなる。


「ガ、ガロンさん!」


駆け寄る内ケ島は、絶対なる聖域を発動して凍った足を溶けていく。


(どうやら、これも状態異常として扱うのか)


「だ、大丈夫ですか?」


「おかげで平気だ」


「まさか、自慢の氷属性をあっけなく溶けるとは。どんな魔法だこれは?」


ガロンと内ケ島は振り返る先にいるのは複数の氷柱つららを浮游させる男だった。

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