第拾捌話―氷の転生者―

異世界アークブルーの地図から中央部に悪魔族の支配下となる。ゴブリン、ゴースト、ガーゴイル様々な悪魔が魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする地。その暴威は他の種族から恐れられ進行されればことごとく奪われた。しかし、それは昔の話である。現在は神に選ばれし存在、異世界転生した者がいる。


「バ、バカなぁ・・・ホールドラグーン100体を一瞬で凍結させ・・・・・

だと!?」


異世界チートがアークブルーに転生してからは世界情勢はひっくり返されることになった。最強の種族は悪魔族は過去形となり、人類こそが最強で他の種族からも畏怖されるほど変化した。そして、また一人の異世界チート能力または、アンノーンオーブの使い手である黒人の少年はツルツルとなった自分の禿頭とくとうをなでる赤い鎧の騎士。


「はっはは、これは圧巻だ。

黒い土地で不気味だが、美術館でも建ててみようかな?」


六本の氷柱つららを顕現させ自分の周囲に浮遊させている。

男の足元だけは氷になっている。

ホールドラグーンは地で駆ける地竜を荒ぶる氷嵐ひょうらんで氷の芸術品と化した。


「はは、さすがアラン。

面白い事を言う」


「フフ、そうね」


この断末魔の声もなく100体を凍結させた事に大きな驚きはなく称賛するのはバサラとサラシャ。

バサラは赤い瞳と赤みをしたさわやかな美貌を持つ男性。

サラシャはつややかな茶髪のボブヘアーに大きな瞳をした美少女。

ジョブは騎士。しかし二人とも武器を構えず完全に傍観でいる。


「お前もしかして・・・アンノーンオーブの使い手か!!」


170メートル身長ほどあるゴブリンが目を見開いて人差し指を

転生者に向ける。

ゴブリンの残りは40体、相手はたったの三人。ゴブリンの隊長は多勢無勢なのだが勝利するビジョンが見えない。自分達が手も足も出ずに全滅させられるのが容易に想像できる。ゴブリンの隊長に黒人の少年は爽やかに笑う。


「アンノーンオーブねぇ、そういうのは違うぜ」


「違う・・・だと・・・・こんな現実離れをする魔法は無かったはずじゃないのか」


「オレは、アラン・アルバード。この異世界に転生した救世主だ!」


16歳である黒人の少年アランの

アンノーンオーブは[ニヴルヘイム]。北欧神話ほくおうしんわで有名な9つの世界の下層にある氷の国である名前である。


能力であるニヴルヘイムは、無詠唱であり魔力消費も掛からず、

自由自在に操れる究極の氷属性。


大吹雪おおふぶきがゴブリンの部隊を呑み込まんとする。

アランの右手から発生したのをゴブリンの隊長は見て戦慄を通り越して完全に諦念ていねんとなる。


「剣よりも速く出せる超常現象にどうしろと言うんだよ・・・」


ゴブリンの部隊は全員を凍結されて氷像が出来た。40体、それは様々な表情をしていた。恐慌に落ちいて逃げる者や現実逃避する者。果敢に攻めようとする者など。


「また、芸術品を造ってしまった」


憐憫れんびん、悲観なること無くアランは笑みをこぼす。

アラン・アルバードはキューバ生まれでラクビー全国大会の優勝者のチームのエースであった。


将来を嘱望しょくぼうされていたが事故により足が動かなくなる。いつも笑っていた笑みは絶望へと変わり一生、車椅子で生活なのかと不運に嘆いた。そして重なり車に衝突事故により死亡。


そして異世界転生された。転生した事により足は動けるようになっていた。壮絶な人生であった彼はこれからは人を助ける戦いをしようと決意した。そして、ゴブリンなどはそのうちに数に入らない。


「お疲れ、アラン。本当にスゴイよなぁこれは。もはや俺達がやるのは荷物運びぐらいだぜ」


「そうぼやくなよバサラ。

お前がいなかったら、つまらない旅になっていたしよ」


「へっ、年下のくせに生意気な奴だ」


アランとバサラはこぶしと拳を軽くぶつけて友情を表す行動。2つ上のバサラは、サラシャに振り向く。


「ほら、なにか言うことはないのか?」


「アラン、カッコよかったわ。

それに・・・素敵な美しい能力も」


アランと同年齢のサラシャは、嬉しそうに喋る。わずかに赤面するサラシャをアランは特別な想いを抱いていることに気づいている。

サラシャもアランの淡い想いにも。


「ありがとうサラシャ。

褒めてもらえると光栄なんだけど照れるなぁ」


「フフ、子供みたいでかわいい」


「おい、サラシャ茶化ちゃかすなよ」


「はぁー、氷像が溶ける暑さことで」


任務を完遂したアラン達は、北西の奥にある人類の支配下とする首都アイボルクを目指し馬車で移動する一行。帰国すれば凱旋がいせんパレードが待ち受けている。民衆や兵などは聞かずとも帰国すれば騒ぎ出す。アランが帰国すれば、それは勝利以外ないことに。


「んっ?」


「どうかしたのアラン?」


馬車の後部にある装飾された箱型の中にサラシャはアランの反応に一抹の不安を抱きながら訊ねる。

窓から山岳地帯を向いていたアランは苦笑する。


「いやぁ、心配させてすまない。気配と言うのか不快なオーラを

感じたんだ」


「オーラ?もしかして、それも異世界チートによる秘められし力だから?」


サラシャは窓を見るが、分からなかった。なら、この推測に自信を持つ。


「違う。オレの勘違いだったかもしれないから気にしないでくれ」


「そう。戦闘、続きで疲れているでしょうね、きっと。少し休むべきと勧めるわ」


ちなみに御者台に座るバサラは手綱を引いていて二人の会話は聞こえているが、内容までは聞き取れない。向かいに座るサラシャはおもむろに立ち上がりアランの隣に座る。


「えっ、サラシャ?」


急に隣に座ったサラシャにアランは首を傾げる。サラシャは顔をうつむいていたのを決心すると上げた。白磁はくじな肌は赤く変化していき、大きな瞳には潤っていていた。


「まるで、少女みたいな反応をするんだ・・・あっ、少女だった!」


「かなり失礼な反応だけど、まぁ見逃してあげる。特別に私の

膝枕で休ませてあげるわ」


(なるほど、なるほど。だから恥ずかしそうにしていたわけか。

分かればスッキリしたが・・・んっ!?い、今の言葉は本当だろうか?)


「ああー、そのアメリカンジョックとかじゃなくて?」


「あなたの故郷こきょうのジョックてかじゃなくよ。もし、嫌ならいいのですけど」


サラシャが立ち上がろうとする。


「ま、待ってくれ!信じられなくて確認とかしていたんだ」


「・・・・・で、どうするわけ?」


静止の声にサラシャは座り直し、

呆れた表情でアランを微笑を浮かべ見続ける。


「ああー、その・・・本当にいいんだな」


「・・・そ、そうよ!」


真っ向うから確認され、サラシャは羞恥に悶そうになるのを荒事が生業とするギルドのクエストをこなしてきた精神で堪える。


「解った。嫌ならいつでも

言ってくれ」


何度も確認したアランは思春期の夢である膝枕を出来ることに少踊りするほど喜んでいた。顔には出ていないと思っていたが。


(フッフフ、かわいいわねぇ)


広角が、上がって緊張していたアランは頭を膝の上にして寝ようとする。


「・・・ゴツゴツしている。

冷静になれば、青の鎧」


「ごめん、続きは帰ってからで・・・」


顔を上げたアランは結局、悩み話し合った結果サラシャの肩でもたれ寝ることにした。


無事に帰国し、凱旋パレードが終わりアラン一行は王城おうじょうの別館に休んでいた。国王が住むお城の周囲には高い塔が連なる城壁。王城の敷地は広大でその中に別館が複数ある。その中でしばらく泊まることになった。


夜が明け朝日が昇ると来訪者がドアを3回ほど叩く。バサラが開けると来訪者の二人をエントランスホールから談話室へと案内する。

案内した後、バサラはアランとサラシャを呼び談話室に入る。


「お待たせした。オレがアランなんだが何か急ぎの用事が?」


来訪者がアランの歓迎の言葉に立ち上がり会釈する。

アラン達も会釈して返す。


「陽が眩しい時間に訪れ、失礼。わたしはエレナ・フォース」


「私はガイア・ガストロフィンと申します」


エルフの証とも言える整った顔立ちの女子中学生ほどの女の子エレナと金髪碧眼の目鼻の整った顔立ちした美丈夫びじょうふガイアがアラン達に訪ねに来たのだ。


「まさか、騎士として名高いガストロフィン殿でありますか?」


おそるおそると尋ねるのは戦士バサラ。ガイアは優れた剣術などにより異世界チート能力者と同行を選ばれる実力者。


「いかにも私がガストロフィン家のガイアです」


「おぉー、これはスゴイ!」


「バサラ少し静かにしなさい。

すまないわね、ちょっと礼儀がなっていないの。悪くしないでね」


サラシャは、素早くバサラの頭を叩く。バサラは「叩くなぁ!」と少し不機嫌となる。バサラとサラシャは正規にアンノーンオーブと旅を選ばれたわけではない。二人はアランに声を掛けられ仲間となった。アランは自由自在なところがあり仲間は自分で選ぶと宣言したのだ。


「まぁ、とりあえず座ってくれ。大事な話があるのだろ」


アランに促しに従い座る二人。

アランとサラシャとバサラは向かいに座る。全員が座るタイミングを図りエレナが説明をした。


「実はわたし達、アリマソウガのパーティになんです。わたし達はある鬼との戦いで・・・・・

ソウガを・・・・・うぅっ、」


「事情を察したよ。ソウガが亡くなった事はオレ達も知っているよ。ソウガとは友人でもあるからね・・・今でも死んだことに信じられないぐらいだ」


煉獄の焔を扱う異世界転生した有馬颯牙の友人であったアランは悲痛の思いでエレナを優しく笑う。

エレナとガイアの表情を見れば、嫌でも実感させられる。


「アラン・・・」


優しくアランの手の甲を触れるのはサラシャ。彼女はアランのやるせない気持ちに少しでもやしてほしいと考えている。


「だからこそ、お願いします!」


エレナは勢いよく立ち上がり、

嗚咽が少し収まり涙が頬で流れていく。エレナはアウローラ家に頼ってもガロンダーラに勝ってなかった。こうも、あっさりと負けるとは思ってもいなかった。


敗北した屈辱くつじょくと命を奪わなかった矜持きょうじを蔑ろにした事。そしてソウガのかたきを取ることに

執念を燃やすエレナは、アランを頼ることにした。


「お願いします。わたしたちに手を貸してください!」


深く頭を下げる。ガイアも粛々しゅくしゅくと頭を下げて懇願する。


「もちろんだ。喜んでエレナとガイアを協力させてもらうよ」


アランは承諾した。その応答にサラシャとバサラは異論はない。

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