第3話 彼女の告白



「やっぱり、後ろの数字は成功率だったみたい……最初の剣は10%の成功率で引き当てたすごい剣らしいや」


「それにしてもあたしの解体した廃品がないと、フィナンシェ君のスキルが発動しないとはね……」


 ラディナさんが素手で俺の身体をペタペタと触っていくのがこそばゆかった。


 やはり、ラディナさんのスキルはなぜだか分らないけど、俺には通じないようだ。


「やっぱり発動しない……あたしのスキルが発動しない人に初めて出会った」


 自分の手が触れ、解体スキルが発動しないのを、信じられないと言いたげにラディナさんがこちらを見ていた。


「人を殺す呪い子と言われたあたしに触れても死なない人がいた……これって、絶対に運命だよね……」


 自分のスキルが、俺に発動しないことを確認したラディナさんの綺麗な漆黒の瞳からポロポロと大粒の涙が流れていた。


「ラディナさんに触れたことで、俺のスキルが初めて発動したのか知りたくて……無茶しちゃったけど、解体はされなかったよ」


 温かい彼女の両手が、俺の頬に当てられる。


 泣いているラディナさんの顔も、とても魅力的で俺の心臓は鼓動を高鳴らせていた。


「ああ、やっぱり本当に解体されない……ついに見つけた運命の人。あたしを幸せにしてくれると神様が言ってくれた人を見つけた」


「あの……ラディナさん?」


「フィナンシェ君!! 君があたしの運命の人よっ! ついに、ついに見つけたわ!」


 え、えっとこれって愛の告白ってやつなのかな……。


 運命の人って言ってるし。


 いやまさかね、こんな綺麗な人が俺なんかに……ね。


 それに解体されないって……。


 された人がいるんだよね……やっぱり……。


 俺はラディナさんの言葉を聞いて少し複雑な気分になっていた。


「あの……俺が解体されないってことは分りましたけど、もしかして今までにラディナさんに解体された人って……います?」


「え、えっと……命までは奪ってないけど、誤って手を解体してしまった人が一人ほど……」


 やっぱり、いるの!?


「スキルが初めて発動した際、父の片手を解体してしまったの……もう、病気で亡くなっているけど父にはずっと悪いことをしたと思ってた」


 ラディナさんは、父親の手を誤って解体してしまったことを隠そうともせずに喋ってくれた。


「それに母もあたしが生まれた時に亡くなっているしね。だから、自分でも呪い子だって思う」


「ご、ごめん! 辛いこと聞いちゃったね。ごめん、俺、馬鹿だから」


「いいえ、フィナンシェ君には聞いてもらいたいの。だって、素手で触れたフィナンシェ君には発動しなかったから……」


 ラディナさんは、俺の頬に手を当てたまま真剣な顔で話を続ける。


 彼女の漆黒の瞳に見つめられ、心臓の鼓動が一段と早くなるのを感じた。


「あたしは父親の片手を解体して以来、村ではずっと手袋をつけて生活してきたの、誤って触れて村の人を解体しないようにね」


「だから、不注意でスキルが発動しないように頑丈な作りの手袋をしていたんですね」


 ラディナさんが外した革製の手袋にチラリと視線を送る。


「そうよ。でもフィナンシェ君はこうやって触れても解体されないわ……やっぱりあたしの運命の人はフィナンシェ君なのよ」


 俺の顔を覗き込んでいるラディナさんの目が再び潤んできた。


 や、やっぱりこれってラディナさんに告白されてるのかな……?


 ラディナさんなら全然大丈夫なんだけど、こういうのって俺からも言うべきか……?


 自分からも告白するか迷っていた俺に、ラディナさんが抱き着いてきていた。


 身長が高い彼女の胸がちょうど俺の顔に当たった。


「あ、あの! ラディナさん!?」


「あ、ごめん。当たっちゃった。わ、わざとじゃないからね」


 自分の胸の谷間に俺の顔が埋まっていたのに気付いたラディナさんの顔が赤く染まっていた。


 そうやって照れられるとこっちも照れてしまう。


 自分より年上で身長も高くて、美人で綺麗だし、それに接触過剰気味だけど、運命の人と言われると悪い気はしない。


「分かってますよ。でも、少なくとも俺のスキルはラディナさんがいないと発動しないスキルだと考えれば、これは運命なのかもしれないですね」


「運命よ! 運命! フィナンシェ君はあたしの運命の人! そうに違いないわ」


 そう言ったラディナさんが再び抱き着いてくると、俺の顔が胸に埋まった。


 今まで反動なのか、解体スキルが発動しない俺に対しなんだかとっても接触過剰な気がする。


 が、これはこれで悪い気はしない……。

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