第7話 ルーク君がおバカなのは、グレていたようです

 トイレから自室に戻ると来訪者が居た。


 この二人は母と妹だね。


 唯一この屋敷でルーク君を慕ってくれているのがこの可愛い妹だ。

 他の兄姉もルーク君を可愛がってくれているが、みんな城を出ているので、この城で俺を構ってくれるのはこの子と義母しかいない。


 ちなみに目の前の母親は実母の方で、ルーク君的にあまり関わり合いたくない人だ。


「お母様……申し訳ありませんでした」

「あなたという人は! どこまで皆に迷惑を掛けたら気が済むのですか!」


 今にも『キーッ!』と言いそうな感じだ。ルーク君はこの母親のことを少し嫌っていた。今も俺はめっちゃ緊張してしまっている。過去のルーク君の記憶がそうさせているのだが……成程。



 ヴォルグ王家の家族構成だが―――


 正妻に子供が3人(長男・次男・長女)、側妻に子供が2人(三男の俺と末っ子の妹)一夫二妻、三男二女の8人家族だ。城の離れに前王夫妻が隠居している。


 王家の男児は幼少時にドレイクの卵を与え孵化させて、16歳になる年に竜騎士学校に通う習わしがある。


 第一王子は19歳、去年首席で竜騎士学校を卒業し、現在は竜騎士隊の見習いだ。騎士の宿舎で暮らしている。


 第二王子は17歳、現在竜騎士学校の2年生で成績は常にトップ。全寮制なので竜騎士学校の寮住まいだ。


 第一王女は16歳、学年でいえば俺と同じだが、現在魔法学校に通っている。姉様も寮暮らしだ。



 兄妹の仲は凄く良い。こんなバカな弟にも優しく接してくれるし、尊敬できる兄姉たちだ。

 でも、実の母親と父親は悪戯ばかりするバカなルーク君に辛く当たるのだ。


 7歳ぐらいまではルーク君も普通の男の子だった。

 どうしてバカ王子と言われるようになったのか。俺の主観だが、7割ぐらいはこの母親に原因がありそうだ。


 彼女は正妻の子供の兄たちとルーク君を比べて、ことあるごとに愚痴をこぼしたのだ。

 兄たちは何歳で歩いた、喋った、何日で九九を覚えた、竜に何歳で乗れたとか……ルーク君のスペックは高いのに優秀な兄たちと毎回比べられ、歳を重ねるごとにどんどんやる気をなくし捻くれていってしまったのだ。


 兄姉たちは天才肌の感覚派、一方ルーク君は理論派なので、理解するまで感覚派の者より習得に時間が掛かるのだ。一度理解して習得した事柄は兄たちよりミスなく完璧にこなすのが理論派の特徴なのだが、母はそのことは理解してくれない。


 反抗期も重なってすっかり捻くれてしまい、10歳になる頃には一切勉強しなくなり、悪戯ばかりするバカ王子が爆誕したわけだ。ストレスでバカ食いするようになって、今では誰もが知る『オークプリンス(豚王子)』様だ。


 父親も長男への依怙贔屓があからさまで、ルーク君は日毎に不満を募らせていった。


 俺が客観的にみると、両親はルーク君を嫌っているのではないようだけど、接し方が悪かったみたいだね。


 第三者として判断するなら、ルーク君が幼かっただけで、この母親はむしろ過剰なくらいにルーク君を愛している。愛している故に口煩く言ってしまうのだ。


 でも幼かったルーク君的には褒めてもらいたくて頑張って結果を出しても、兄や姉と比べてそれほど評価してもらえない。

 どんなに上手くできても、この母にとってそれは当たり前のことで、決して褒めることはなかった。やがて努力することがなくなり、一切勉強もしなくなったが、幼いルーク君からすれば褒められたかっただけなので、褒められないのであれば勉強ができようができまいがどうでもよかったのだ。




「お兄様、お怪我はもう良いのですか?」

「うん。チルルにも心配かけたね。もう平気だよ」


 そう言って俺の胸元に飛び込んできたのが、今年7歳になった歳の離れた可愛い妹だ。

 ちょっとお腹で跳ね返りそうになっていた……早急に痩せよう!


 トイレ開発よりダイエットが先だな。


 侍女や従者たちもこの子の前ではあからさまな態度はとらないので、俺が『豚王子』とか『オークプリンス』と言われて皆に蔑まれてるのを知らないのだ。もう少し成長して周りが良く見えるような年齢になれば俺を蔑んでくるかもしれない。


 まぁ、そうなる前に改善するつもりだ。

 俺はルーク君ほどガキじゃないので、腹いせに悪戯したりはしないからね。



「ルーク、今晩にもあなたの処遇が決まるそうです。それまでくれぐれも大人しくしているのですよ?」


 ん? 処遇? 騎竜を死なせたら法的な罰があるのか?


「お母様、処遇とはどういうことでしょう?」

「何を言ってるの! パートナーの騎竜をあなたは死なせてしまったのですよ! 騎竜を失った者が、竜なくして竜騎士学校に通えると思っているのですか!」


 どうやら処遇とは、俺の今後のことらしい。

 ごもっともな話だ。竜騎士学校への入学の際に、自分の騎竜を手に入れていることが最低条件になっているのに、竜を失って通える道理はない。


 父様と兄様が王家の竜として飼っている騎竜が2匹ずつ居るが、あくまで父様と兄様が孵化させたドレイクなので、次男ならまだしもアホなダメ三男に貸しだすことはないだろう。


 いつも以上の母の金切り声にチルルは怯えてしまっている。優しく抱っこして頭を撫でてあげるとしがみついてきた。


 可愛い妹だ。


 微かにこの子から花の良い香りがする。花壇の手入れでもしていたのかな?



 俺はどうやら入学2カ月足らずで退学のようだ。母が怒るのも無理はない。


 俺はこの後どうなるんだろう……。


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