第3話「おもちゃ」


「…………」 じぃー


「…………」



 おぉ、見てる見てる……。彼女が涙目の状態で僕をキリキリと睨みつけてくる。


 もはや、これが少し快感になってきた気がするなぁ……。


 さて、僕はキッパリと清水さんのお誘いを断ったわけだが、次は一体どんな罵声を飛ばして僕を罵ってくれるんだろうか?



「……えっと、その……ほ、本当に断るの……?」



 ――って、弱気になるんかい!



「えっと……」



 さて、ここはどう答えたものだろう……?


 学校一の美少女と話せる機会なんてないもんだから、つい魔が差して遊んでしまったけど、別に本の話に付き合うくらい……


むしろ、性格は面倒くさそうだが、見た目は美少女だしラッキーというか――、


 そうだ! 逆にノッてあげたらどんな反応をするんだろう……?



「ど、どうしたのよ……! こ、この私が……貴方みたいなクラスの『ぼっち』に話しかけてあげる機会なんてもう一生ないんだからね!? は、早く答えるのが貴方のためよ……?」


「じゃあ、お言葉に甘えて……話し相手にさせてもらってもいいかな?」


「……ほへ?」



 僕がそう言うと彼女は一瞬だけ『ひょっとこ』みたいなアホっぽい顔を晒した後、その表情をグングンと満面の笑みに変えて喋り始めた。



「――そ、そう! まぁまぁまぁ……! んん~、もう!

 ウフフ♪ 貴方もなかなか素直じゃないわね?

 んんん~? この『学校一の美少女』である私と話たいなら、最初からそう素直に言えばいいのよ!

 まぁ、さしずめ……?

 クラスで『ぼっち』の貴方が、私みたいな空の上のお星様のような存在に話しかけられて、ついつい間逆の態度を取ってしまったってところでしょうね!!

 まったくもう! これだから『ぼっち』は……

 素直じゃないわねぇ~♪」


  

 空の上のお星様のような存在って、それ死んでね……?


 とか、思ったけどいい感じに調子にノリ始めたのでツッコむのは止めておこう……。


 むしろ、煽てるフリして、いろいろ要求したらなんでもOKしてくれそうな気がするなぁ……。


 よし、試してみよう!



「ありがとう、清水さん! いや、清水様! いいや、天使様! または女神様! もはや神様ぁあああ!」


「な、何よ……? そそ、そんなに煽てられても何も無いんだからね……?

 というか、流石にその呼び方は恥かしいから……も、もっと! 普通に呼んでくれてもいいのよ? ウフフ……♪」 ニヤニヤ


「あ、そう? じゃあ『清水』で」


「ちょっと、待ちなさい!」


「え、何……清水?」


「もう呼んでる!? って……いつ、私が貴方に苗字を呼び捨てにして良いって言ったのかしら!?」


「あ、そうだよね……ゴメン」


「ふ、フン! 分かればいいのよ……? 次からはもっと、尊敬の念をこめて――」


「じゃあ『雫』って、呼ぶよ」


「名前で呼べって、意味じゃないわよ!!」



 そう、雫とは彼女の下の名前だ。清水雫。確かそんな名前だった気がする。



「なら、なんて呼べばいいのさ……雫?」


「もう、普通に呼んでるし!? てか、どうして貴方はこの私を相手にタメ口なのよ……。私を尊敬するならもっと――」


「それは僕が雫を一人の人間として尊敬しているからさ!」


「――え? ど、どう言うことかしら……?」



 さて、ここからが大事だな……。なんて誤魔化そう?


 とりあえず、なんかそれっぽいことを言ってみるか。



「だって、考えてみてくれないかな? 本当に相手を尊敬しているなら『苗字』で呼ぶって失礼だと思うんだよね?

 何で尊敬している相手をどこにでもありふれたような『苗字』で呼ばなきゃいけないのさ!

 たとえば『宮本武蔵』や『織田信長』を苗字で呼ぶ? 呼ばないよね!? だって『ヘイ! 宮本~♪』とか『おい、織田!』なんて呼んだら失礼に聞こえるじゃないか?」


「そ、そうね。言われてみれば……そうなのかしら?」


「そうだよ! だから、皆『日本最強と呼ばれた武蔵は~』とか『天下統一を目指した信長は~』って、歴史的な偉人を名前で呼ぶんだよ!

 そして、僕にとって雫はそんな歴史的偉人よりもさらに上の偉人――、

 もとい『変人』なんだよ!

 なら、雫を苗字で呼ぶなんて僕からしたら考えられないよ!

 そう、僕にとって雫を『雫』と呼ぶのは……、

 必然にして当たり前なんだ!」



 ど、どうだ……やったか?



「し――」



 ……し?



「仕方ないわねぇ~♪ そこまで言うのなら、特別に私を名前で呼ぶのも許してあげなくてもないわよ!」



 よっしゃあっ! やっぱり、思った通り、この人チョロい!


 セェ~フ……ッ!



「あ! ちょっと、待ちなさい……それって――」



 あ、ヤバイ……やっぱり、無理があったかな……?


 あと、さりげなく『変人』って言ったのバレてたかな……?



「ねぇ、それだと、私が貴方を呼ぶ時に『苗字』で呼んだらなんだか私の方が貴方より下に見えないかしら……?ねぇ、貴方の名前は?」


「え『歩(あゆむ)』だけど……」


「そう、なら私も貴方を『歩』って名前で呼ぶことにするわ! それなら、不自然じゃないものね!」



 こうして、この日……僕は始めての友達オモチャを手に入れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る