第6話 コンビニ

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月曜の夜、

玄関のドアを開けると家の中にタバコの匂いが充満していた。


私は瞬時にママの機嫌が悪いということを悟る。


閉じそうになっていた玄関のドアをもう一度開け、

凍えそうなくらい冷え込んでいる外へ出た。


とりあえず散歩しよ。


にしても寒い。


コート着てくればよかった。


すれ違う人たちに私のような薄着をしている人は1人もいない。


肌を刺すような冷たい風が吹いている。


寒すぎて急に心臓止まったりしちゃわないかな。


またいつものように死について考えながら歩く。


家の最寄り駅から二駅ほど歩いたところで少し歩き疲れ、コンビニに立ち寄ることにした。


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「いらっしゃいませ〜」


店員が無機質に声を出す。


レジ横を通り過ぎ、温かいミルクティーを手に取った。


コンビニあったかいな、外に出たくない。


「157円になります」


小銭あったっけ。


財布の中を探していると、


「いらっしゃいませ〜」


奥から出てきたもう1人の店員がまた無機質に声を出した。


「21番」


「540円になります」


隣のレジでタバコの番号を言った低い声。


なんとなく聞き覚えがあった。


財布から200円を取り出した後、隣のレジをちらりと見ると


ハルが居た。


彼も私の視線に気づき、こちらを見る。


少し驚き気味の私とは相反し、彼の表情は一切崩れない。


背、高い。


ハルが立っているところを初めて見た私は180を超えているであろう彼の背の高さに少し驚いた。


「ありがとうございました〜」


私から視線を外しタバコを受け取った彼は、

私になんの反応も示さないままコンビニを出て行った。


あ。


やっぱり覚えてないか、私のことなんか。


やっぱり気まぐれだったんだな、あの時。


「43円のお釣りとレシートになります」


自分が彼のことを気になっていた分、

少しだけショックを受けつつ、お釣りとレシートを受け取る。


「ありがとうございました〜」


店員の声とともにコンビニを出る。


自動ドアから三歩ほど進んだところで、これからどこに向かおうか考える。


まだ家には帰れない。


「..なあ」


私に向けられた声かどうかは分からないけど、低い声がした方を振り向いてみる。


私と彼以外には周りには誰もいない。


そしてさっき買った物であろうタバコを吸っている彼の瞳はしっかり私を捉えている。


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「..なんでいんの、遠いだろ家」


「..散歩してました」


「そんな寒そうな格好で?」


確かに誰が見ても私の格好は夜の散歩には似合わない。


寒さで赤らんだ顔を隠すように少し俯く。


「...はい。」


ミルクティーを持つ両手に力が入る。


「ふーん、まあいいけど」


「....」


「..これやる」


そう言ってハルは着ていたジャケットを私に差し出した。


「そんな、悪いです」


一歩下がって慌てて拒否する。


「俺の家、すぐそこだし」


そう言ったハルは、半ば無理矢理ジャケットを受け取らせた。


「...いいんですか?」


「うん。じゃーね、子猫」


そう告げて、ハルはタバコ片手に私に背を向けて歩き始めた。


ハルが曲がり角を曲がるまで彼の背中をぼーっと見つめていた。


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腕の中にはハルの香水とタバコの匂いが染み付いたジャケット。


おそるおそるジャケットを羽織ると、その甘い匂いに溺れてしまいそうになった。


こんなことされたら、忘れられなくなってしまいそう。


それからの夜は、コンビニに行くまでに考えていた重い考えが嘘のように、

いつもより少し楽な気持ちでいられた。


朝方、家に着くと、ママは寝ているようだった。


静かに部屋に入り、ハンガーにハルのジャケットをかける。


カーテン越しに朝日が入り込んでくる。


冷えた布団に潜り込み、


着ていた服に移ったハルの甘い匂いに包まれながら自然と眠りについた。



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