第3話 ホストクラブ

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金曜日、夜11時。


ヒカルくんに指定された場所に向かうと、

もう既にヒカルくんとユズコが立っていた。


小走りで2人に近づく。


「ごめんなさい、待たせちゃいました?」


「気にしないで!時間ぴったりだよ、じゃ、

入ろっか?」


ヒカルくんにエスコートされて煌びやかな店の中に入る。


ホストクラブに来るのが初めてという事もあって落ち着かないし、気分も勿論乗らない。


が、必死に楽しんでいるかのように演じた。


ヒカルくんが私にふってくれた会話に、私の答えをほとんど遮って答えるユズコ。


ヒカルくんと話すのは普通に楽しいのに..、

これじゃ全く楽しくないや。


ユズコのマシンガントークを笑顔で聞くフリをしながら、頭の中で全く違うことを考える。


あー解散した後、どうしようかな。


ママ寝てるといいな。


..お酒飲も。


目の前に出された何か良く分からないお酒を手に取った。


会話に適当に相槌を打ちながら、お酒を進める。


楽しくないけど、気分は良くなってきた。


最近お酒飲んでなかったけど、やっぱり嫌なこと忘れられて、いいな。


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ぼーっと遠くの席を見ていると、

1人のホストが目に入った。


整った中性的な顔立ちで、シャツの襟のあたりからタトゥーが覗くのその男は、仕方なくホストをやってる、そんな風に見えた。


他のホストとは少し違い、女に対してニコニコしておらず、クールというか、少しけだるそうにも見える。


しかしその整った顔立ちが全てをカバーし、たとえ適当に扱われていたとしても女達はその男に夢中といった様子。


今何考えてるんだろあの人。


ここにいるけど心ここに在らずなその男が、なんだか自分と同じように思えて少し気になった。


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「ユリアちゃん、どこ見てんのー?」


ヒカルくんに聞かれ、ハッと我にかえる。


ユズコは酔って他のホストに絡んでいるようだ。


「あー、ハルか。カッコいいもんね。」


あの男ハルって言うんだ。


「ハル呼ぶ?」


「いえ、いいです」


「まあでもハルは誰に対しても塩対応だから、ユリアちゃんと並んだら多分2人無言になっちゃうと思うよ!」


面白そうにヒカルくんが話す。


「そうなんですね」


「そうそう、でもあの顔のおかげか人気なんだよね!」


やっぱりそうなんだ。


「ユリアちゃんってさ、いつもニコニコなのにいい意味で媚びてる感じないよね、俺そういうところ惹かれる」


「え、ありがとうございます」


褒められることは少なくないけど全く真に受けられない。


他愛も無い話をヒカルくんとしていると、

かなり酔っ払った様子のユズコがそんな私たちに気づいた。


「おまえさ〜あ、なんでユズコのヒカルさんとってるのお」


かなりやばそう。


ちゃんと帰れるのかなこの人。


そんな事を考えた次の瞬間、事が起きた。


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ガシャーン!


「(.....ぃたッ)」


ユズコが手を滑らせ、持っていたグラスを床に落としたのだ。


「....あっ、」


ユズコが慌てて声を出す。


「!ユリアちゃん平気?!」


ヒカルくんも慌てて私に声をかける。


多分破片で足切ったと思う。


でもグラスが割れた音が響いたせいか、

私たちの席に他の客とホストからの視線が集まっている。


その注目をこれ以上浴びたくなかった私は


「ううん、平気。ありがとうヒカルくん。」


と笑って答えた。



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