第3話 やっぱり異世界

No3

やっぱり異世界




「乗せてもらいありがとうございます」

「いや、別に平気だよ。最初は怪しいと思ったけどな」


「ですよね....俺がもし逆の立場なら最初は疑いますよ」

「...で、なんであんな所を一人で歩いていたんだ?盗賊や魔物にでも襲われて身ぐるみ剥がされたのか?」


「えぇ、ちょっと狂暴な動物に襲われまして、逃げながらしてたらこの様です。一応、撃退はしたんですけど....」

「そりゃ、運が無かったな....いや、命があったんだ。運が良かったと考えるべきか?」

「まぁ、そうですね。前向きに考えるべきだと思いますよ」


 時は数十分前に戻り、俺がなぜ会話をしてるかと言うと、一人でひたすら道を歩いてると後ろから何かが近づいてくる音に気がつき、振り返ると馬を牽いた馬車? っぽい幌がついてない馬車が近づいてくるのを確認して手を振りながら停めた。


 馬車の業者に説明し、敵対行為が無いことを分かってもらいこうして相乗りさせてもらってる所だ。


 そして、話していて分かった事はまず言葉が通じる事。これはかなり重要な事だ。言葉が通じなければ意志疎通が出来ない。仮に日本語じゃなく英語だったとしても、片言なら喋れるから何とかなるが、俺が知らない言語だった場合は致命的だったと思う。


 そして、日本語が通じるなら現在は日本国内だと高い可能性がまだある。


が、それはちょっと早計だと思った。


 会話の端々から聞こえる、単語がちょっと聞きなれない言葉だったからだ。


「いやーしかし、本当に助かりました。何だかんだ言って陽射しもキツかったですからね。まだ、春とはいえ今日は夏みたい陽射しでしたよ」


「んぁっ?ハルって何だ?まぁ、陽射しは強かったがたまたまだな。それに、あと数ヶ月で水風季だからな。今からしっかり蓄えないと暮らせないから、こっちも稼ぎ時だ」


 と、微妙に噛み合わない。これは俺が物知らずなのか、ダッケルさんが話をはぐらかしているのか...

 それに、日本語を話してる人の名前がダッケルってあまりにも外国人風な名前に疑問を抱く。


 俺は頭が悪いが勘はいい方だと自負してる。鈍感系の物語主人公みたいな感じでもないし、細かい事を気にしないオラオラ系でもない。物事は多少なり考えるし、軽率な発言や行動はなるべくとらないように出来る。


 この時点で粗方の考えはついてるが、出来れば違っていて欲しいと願うのはワガママだと思うか?そりゃ、想像上はこういう世界にも行ってみたいとか物語やゲームの主人公には憧れたが、やはり現実となると腰が引けるのは悪いことでは無いはずだ。


 ダッケルさんと微妙で噛み合わない話をしてると道の前方に見えてきたのは、石でできた城壁だった。

 木と金具でできた大きな城門が左右に開き、門の近くには時代を遡った中世文化を想わせるような光景が俺の視界に入った。


 そんな光景を見ながら思いに耽ってると、ダッケルさんが牽く馬車が門に近づき、剣に防具を装備した門番が声をかけてきた。


 俺はこの時点で現実世界ではないと、ほぼ確信した。

 武器を平然と身に付けてる人が現代にいたか?いや、国柄いるにはいるけど、物語に出てくる中世みたいなやつだぜ?



「ダッケルさんか!商売は上手くいったかい?無事に帰ってきて嬉しいよ!」

「あぁ、ワシもだ。無事に帰れた事を嬉しく思うよ」


「だな、今日は上手い酒と飯を食べてゆっくりするといいさ。......で、そっちの人は?」

 門番が目を細目ながら俺を見た。


「あぁ、街に向かう途中で拾ったんだ。なんでも魔物か何かに襲われて街道を一人で歩いていたらしくな...最初は盗賊だと思ったが話を聞いたらどうやら、旅人らしいんだ。だから、街まで乗せてきたんだ」



「そうなのか?....すまないが、身分証はあるか?ギルドの登録証でもいいぞ?」

「それが....手荷物は逃げるときに失いまして、今はあるのはこの鞄一つなんです...お金も少ししか無いですし...」


「そうか....なら、事情を聞かせてもらえるか?それから、判断しようと思うが?」

「はい、分かりました。...ダッケルさん、ここまで乗せてもらいありがとうございます。お礼は必ずしますので....」

「気にするな....ワシは街に住んでるから気が向いたら酒でも奢ってくれればいいさ」


「じゃ、ダッケルさんは通ってくれ...そっちは俺と一緒に小屋までいって事情を聞かせてくれ」


 と、俺は門番に連れて歩き小屋へと向かい事情聴取を受けた。


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 結果は無罪方面です。マジで良かった。俺が知ってる物語では街に入れなかったり、その場で捕縛されたり、異端な存在だと言われ斬られたりなど喜ばしくない展開になるものもあったからな。


 で、やはりここは俺の知らない世界だと思って間違いない。一応、日本国内だと想定して会話をしたが日本に存在する固有名詞はどれも知らなかった。


 そして、決定的だったのが取り調べた門番が魔法らしきものを使ったことだ。取り調べ中に門番が葉巻らしい物を取り出して咥えると、人差し指を上に向けると『小火』と呟くと、指の先端に小さな火が現れ葉巻に火をつけたのだ。


 俺はかなりの驚きに手品でも見てる気になり、

「それ、どうやったんですか?」

と、間抜けな問いをした。



「あっ?ただ火を付けただけだぞ?なんだ、煙はダメだったのか?」

「いっ、いえ、.....そうだ、自分も吸ってもいいですか?気分転換に...」

「別にいいぞ。そんな畏まる必要も無いからな」


 と、その場をごまかすように、手持ちの鞄から煙草とオイルライターを取り出して一服すると、

「ほぅ、異国のタバコか?それに着火道具か?珍しいな、どこで仕入れたんだ?」


「えっと、たまたま旅の商人から買いまして.....どうですか1本?一箱しかないので数も少ないですが1本なら譲りますよ?」


「本当か?悪いな....って、そりゃ、ちと職業上マズイな...なら、売ってもらえるか?珍しいし貴重な物だからあまり高いと買えないが....大銅貨1枚でどうだ?一応、この後、何もなければ通行税で銅貨3枚で通せるが....」

「なら、それでいいですよ。別に阿漕な事はしたくないですからね」

言ってるわりに貨幣価値が分からないけどな.....


「そうか、なら手早くやっちまうか!」


 そのあとはトントン拍子に進み問題なく身分は晴れた。そして、仮の身分証を発行してもらい街へと入る事ができるようになった。


 この街の事を知らないと言うと、門番さん、サリムさんと言うんだが、その人が身分証を発行してくれる場所まで案内すると言ってくれた。(タバコ1本で....)で、今は一緒に歩いてる所だ。


「それにしてもたくさんの人がいますね」

「まぁな、ここは貿易の中継地点になる場所だからな、街もそれなりに大きいぞ。ここから、さらに東に行くと海に出るからな。そんでお前さんが歩いてきた方角、西に向かうと王都の一つ手前、ルインマスと王都グランセルに着く」


「そうなんですね、いつか王都にも行きたいですけど今は宿に行くのが先ですかね....」

「まぁ、そうだが先に登録証は発行した方がいい。仮の身分証は7日しか使えないしその期間を過ぎると下手すれば奴隷に落ちるからな、やるべき事は先にした方が身の為だ」


「えぇ、そうですね」

「ほら着いたぞ!....ここが冒険者ギルドだ。ここでいいんだよな?商業ギルドや錬金術ギルドもあるが....」

「はい。今はここで大丈夫です。お金がかからずに身分証を発行出来るのは冒険者ギルドしかありませんから、他のギルドは登録料がかかるんですね?」



「あぁ、そうだ。じゃ、登録して身分証を手に入れたら仮の身分証はギルドに渡してくれ....あとは一人で大丈夫だな?」

「はい、ありがとうございます」


 俺はサリムさんにお礼は言って冒険者ギルドを見た。


 建物は3階建ての作りで外観は大きく石材と木材で頑丈に作られているのが分かる。外に立っていても冒険者ギルドからは喧騒の声が聞こえてくる。


 物語にでてくるような、酒場や食事処が併設されているのだろうか?それに、陽もすでに暮れていて辺りは暗くなり始めている。街路に所々にガス灯のような灯りを照らす物があるが、電気やガスではないだろうと思う。


 ここであれこれ考えていてもしょうがないと思いに足を踏み出した



 いざ、冒険者ギルドへ!

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