第49話 エピローグ

 ジョージの乗った貨物船が埠頭を離れて10日が経とうとしている。航行が順調ならばすでにアメリカ本土に到着していることになる。

 今度の月曜日から2学期最後期末テストがはじまる。

 土曜日の朝から自分の部屋に閉じこもった金太は、これまでおろそかになった分を取り返そうと勉強机に向かったものの、やはりジョージのその後が気になって仕方がない。しかし貨物船が出航したいまとなっては彼の安否を知る手立てはない。そう自分に言い聞かせるのだが、水面に油が浮き上がって来るように、忘れた頃に思い出されるのだ。

 あれ以来これまで気にしたこともない新聞記事、それも三面記事に目を通したり、小まめにネットニュースを開いたりしてジョージに関するニュースを探す。しかし喜んでいいのか、期待する記事はまったくなかった。

 ここ数日同じクラスの金太とデーモンは、毎日のように放課後や昼休みの時間になるとジョージの話をするのだが、ほかの連中が近づいたりすることもあるので、あまり込み入った話をすることができない。その内に誰もが訝しげな視線を投げるようになった。

 昨日の夜のことだった。勉強机を離れて窓際に立ち、コバルトの空を見ながらジョージの無事を願っていたとき、メールの着信音が聞こえた。

 早速メールソフトを開くと、ノッポからだった。

  《 ノッポです

    きょう学校で金太とデーモンの姿を見かけたんやけど、

 進学のことで職員室に呼ばれとったけん、話しばできんかった。

 ところでジョージのことが気になって仕方なかけん、なんかニュースばなか?

    このままやと、まともにテスト勉強に集中できん。 》

 金太はメールを読んだものの、自分自身も同じ気持だったから、返事のしようがなかった。

 

 カレンダーを見ると、あと2週間もするとクリスマスだ。

 それまでになんとか帰国をして欲しい――いろいろ悩んだ金太は、いま自分ではどうすることもできない、こうなったら少なくとも2、3日は静観するしかないと思った。

 日曜日も朝から部屋にこもったきりの金太を母親は心配した。

「金太、お茶が入ったから降りて来なさい」

 ドア越しの母の優しい声に、一瞬このなすすべがなくて苛立つ気持を話してみようと思った。だが、これまでメンバー内で極秘に進めてきた作戦を、自分ひとりの悩み解消のために話すことはできないと寸前で思い留まった。

「わかった。ちょうど咽喉が渇いたとこだから、すぐに降りてく」

 金太はそう返事をしながら教科書を伏せた。

 リビングに行くと、父親と姉の増美がソファーに座り、すでに暖かい紅茶を飲んでいた。

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