第3話

 朝になって金太は元気よく家を出た。模型を包んだ紫色の風呂敷を大事に持ち、いつもより早足で学校に向かった。まだ朝の陽はこれまでと同じ夏のままだった。

「おはよう」「おはよう」

 みんな久しぶりに見る顔だった。最後に会ったときよりさらに真っ黒に陽焼けしている。

「おう、金太、ウオッス」

 クラスではよく喋る浅井俊也あさいしゅんやが金太に近づきながら声をかけて来た。

「おはよう」

 金太はそう返事をしたのだが、声の感じが夏休み前とは違っているのに気づいた。だが、それがどこから来ているのかその時点ではわからなかった。

「なに、その風呂敷包み?」

「これ? これは夏休みの宿題の工作」

 金太は風呂敷包みの結び目を大切なもののように優しく触りながらいった。

「へーえ、金太が夏休みの宿題? 地球はどうなっちゃうのかなァ」俊也は拱手しながら金太を見下ろしながらいった。「だってそうだろ、これまで先生に注意されるまで宿題を提出したことないじゃん。その金太が始業式に宿題を抱えて来るなんてとても考えられない。そうじゃないか、みんな」教室中に聞えるくらいの大きな声だった。

 金太は俊也の言葉に反論はしなかった。俊也のいうとおり新学期がはじまるときはいつもそうだった。でも今回ばかりは違っていた。

「シュンのいうとおりだよ。確かにいままでのオレはそうだった。でも、これからは違うんだ」

 金太は椅子に座ったままで集まって来たクラスメートに大きく目を見開いていった。

 その場にいたクラスメートは、天地が逆転したように顔を見合わせるのだった。

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