第52話 究極機怪獣戦艦
――この空間転移が実用化されれば、緊急搬送される患者の命を救える!
「僕様一人で滅んでたまるか、てめえら全員島ごと消してやる!」
最期の悪足掻きか、チュベロスは舌先に乗せた小箱を前歯で押さんとする。
思惑を阻止せんとデュナイドとデュエンドは光線を放ち、顔を削るも既に押された後だ。
「こいつ、最期の最期で!」
「自爆かよ!」
チュベロスの頭部は無数に枝分かれした亀裂を走らせ隙間より閃光を漏れ出させる。
赤と青の巨人が島轟沈を阻止せんと駆け出さんとした時、黒き巨人が二人を追い抜き、スラスタ推進で空に飛び立っていた。
「エネルゲイヤーΔ!」
「おいおい、大技撃った後は冷却の関係上一旦、動けなくなるんじゃないのか!」
『そ、そうです。確かに動けません。ですけど!』
『か、勝手に動き出したんだよ!』
『あたしたちの操作を全然受け付けないの!』
赤と青の巨人は仲間からの衝撃の発言に顔を見合わせるしかなかった。
「クソ、クソ、クソ、クソ、てめえ最期の最期まで――ありがとさんよ!」
エネルゲイヤーΔに頭部を抱えられたチュベロスはにんまりと笑みを浮かべ、そして肉片残さず大爆発した。
天沼島を揺らす大規模な爆発を誰もがただ眺めているだけであった。
爆煙の中より降り注ぐ無数の落下物が水柱を海面に描く。
ふと一際大きな物体に気づいたデュナイドとデュエンドは居ても立っていられず飛び出した。
その正体は爆発に晒されたことで装甲を失い骨格フレームとコアを剥き出しにしたエネルゲイヤーΔだ。
「無茶して!」
「おいおい、かっこいいとこ持って行くなよな!」
呼びかけに応じぬのは百も承知だが言わずにはいられない。
「勝手に動いたなんて、やっぱり意識はあるんだ」
「さてな、もしかしたら無意識の行動かもしれないぜ?」
疑問を抱くのは後だ。
ここでタイミング良く黒樫から通信が入る。
『私だ。二人はそのまま変身を解かず、エネルゲイヤーΔごと格納庫に移動してくれ』
デュナイドとデュエンドは揃って「オーライ」と返す。
「社長、エネルゲイヤーΔ、修理できる?」
『コアは無事なのだ。エネルギーさえ与えれば修理パーツを形成できる。ちょっと時間はかかるが、安心しなさい!』
頼もしい社長の発言に朱翔はひとまず安堵する。
共に戦った仲間が骨だけでいるのは悲しいし寂しい。
ただ安堵の影より別なる不安が忍び寄り言葉とした。
「これで、終わった、のか……?」
「終わったと思いたいが……」
直にチュベロスと戦った経験から、G並のしぶとさが疑念を抱かせ、拭わせない。
最初は巨大猫であった。次は犬人間だった。その次は黒いモコモコフワフワの黒い生物だった。姿形を変える敵のカラクリを把握できぬ以上、警戒は怠らない。
デュナイドとデュエンドはエネルゲイヤーΔを支えながら潜行を開始し黒樫ナビゲートにより秘密の格納庫にたどり着いた。
デュナイドとデュエンドはけが人を労るように、骨格フレーム丸出しのエネルゲイヤーΔを金属ベッドに優しく置く。
ロフトを見れば白花を筆頭に蒼太やたんぽぽ、黒樫の姿がある。誰も彼も帰投した姿に安堵の表情だ。
二人の巨人は粒子に包まれることで変身を解き、朱翔とみそらの姿に戻る。
「朱翔さん!」
白花が待ちきれず、駆け寄ってきた。
その姿に誰もが笑みを零し、みそらが朱翔の背中を押す。
「ほれほれ、抱きしめてからブチューと行ってこい」
妹の冷やかしを苦笑で流す朱翔は両腕広げて白花を受け止める。
愛しき者の体を抱きしめんと朱翔が腕を動かした時、腹部に熱い衝撃が走った。
「え?」
急激に熱を帯びる腹部と床に刻まれる赤き斑紋に誰もが状況を飲み込めずにいる。
「え、え、な、なんで、わたくし、こんなものを!」
白花の手には黒光するナイフ。全く身に覚えのない刃物を握る白花の全身は急激な悪寒に晒されたようにガタガタと振るえ出す。
「知らない、こんな刃物、わたくし、しらな、あああああっ!」
両手で頭を抑え白花は絶叫する。
ありえない。絶対にありえない。愛しき人をこの手で刺すなどありえない。
白花は全身を稲妻に打たれたように激しい痙攣を何度も繰り返し、顔を俯かせて長い髪を垂らす形で立ったまま動かなくなった。
「白花、ちょっとあんたどうしたのよ!」
「おい、しっかりしろ朱翔! 今回復するぞ!」
たんぽぽが白花に駆け寄ったのと、みそらが朱翔の創傷を治療しようとした同時、ベッドに横となったエネルゲイヤーΔの頭部機関砲が突然、火を噴いた。
閉鎖空間内において使用されたビーム兵器は金属の天井を撃ち抜き、瓦礫を降り注がせる。
「ぷぎゃあああああ、はははっ、いいいいひひひひひ、だいだいだい、僕様大成功!」
飛び散る火花と鳴り響くサイレンに負けじと奇声あげる白花は髪を振り上げ身体を大きく剃らす。
軽く腕を振るえば駆け寄っていたたんぽぽを木の葉のように弾き飛ばす。意識を飛ばす衝撃にたんぽぽはありないと絶句する。
「きゃっ!」
「うおおお、キャッチ!」
咄嗟に駆け出した蒼太が、落ちた鉄骨に激突しかけるたんぽぽをヘッドスライディングでキャッチする。
「この声、まさか!」
「そうで、そのまさかですよ、下等生物ども!」
白花の口から出る声音は紛れもなくチュベロスだ。
「そうか、てめえ身体を乗り換えていたな! 何度ぶっ飛ばそうと復活するカラクリはそれか!」
倒れた朱翔を降り注ぐ瓦礫から守らんと拳で弾くみそらは、ハラワタが煮えたぎんばかりに吼えた。
デュナイドのように脳神経に憑依しているのか、それとも寄生生物の如く寄生しているのか、分からずとも許せるはずがない。
許せぬと抱く怒りは炎と瓦礫に呑み込まれて――消えた。
新しい肉体は女だが、細胞が若いだけあってよく馴染み、悪くない。
抵抗する声が煩わしくも、既に声は沈没させた。
もう二度と浮き上がることはない。
「あ~上手く行ってちょ~万々歳!」
袖振り上げた白花はチュベロスの声で歓喜する。
「まあ身体とする生物は誰でもよかったんだよ。ヒーロー気取りのおめーらのことだ。身体を自爆させれば、掴んで島から引き離す行動を絶対に再び起こす! 後はあのポンコツに潜んでおめーらの秘密基地までご案内アンド新しい身体ゲッツ! うっひゃひゃ、最後に笑うのは僕様だ!」
白花は爆発と炎に支配された地下空間で笑い続ける。
かつての仲間は降り注ぐ瓦礫と炎に飲み込まれて消えた。
散々邪魔してきた当然の報いだ。
「さあ~て、待ちに待った地球爆破ショーのスタートだ!」
狂喜乱舞の白花の身体は影も残さず消える。
再び瞼を開けた時、格納庫から人間一人が収まるシートに空間転移していた。
「起動しな、僕様手作りのサイコーサイキョー大傑作!」
潤った唇をぺろりと舐めれば、一対の操縦桿を握りしめた。
チュベロスの持てる限りの技術と叡智、収集したデュナイドたちの交戦データを元に、一人夜なべして建造された無機物一〇〇%の超ド級戦艦型怪獣。
全ての可能性を守るデュナイドと対極なる存在。
全ての可能性に終焉をもたらすアンチデュミナス。
「究極機怪獣戦艦デュナリプス!」
――それは
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