第4話 相談員直す

「この呪いは解けませんか?」


私は力不足にて、と寂しく笑いながらスパイルはルイスに聞いた。

ルイスもそれなりの魔力を有していたが、さすがに大賢者と称されるタイロスの呪いを解くほどの力は無かった。


ルイスが首を横に振ると、スパイルは「そう、ですよね」と力なく笑った。


「あ、でも王宮の宮廷魔術師ならあるいは。王宮に繋がる魔法扉ポータルはどうなっています?」


ルイスは帰りも吹雪の中を歩きたくなく、また馬も死んでしまったので是が非でも魔法扉ポータルで帰りたかった。


「ああ、タイロス様が王宮には行きたくないと急に申されまして、魔方陣をぐちゃぐちゃに」


と、シャカシャカと八本の脚を動かしながらスパイルは応接間に戻ると、呪文を唱えた。

応接間がみるみる広くなり、二階への階段があるエントランスに景色が変わった。

二階へ案内されると、扉のひとつが魔方陣の間になっていた。


魔方陣はところどころが消され、機能しない状態になっていた。


「あー、これは酷いですね。でも……これを書き直せば機能するはずです。魔法液インク魔法筆ペン借りれますか?」


魔法技士の経験もあるルイスは、魔方陣ポータルを直す場所を特定して直しにかかった。


その間、スパイルは不安そうに、「タイロス様は、その、呪われてしまったんでしょうか?」と口にした。


ルイスはしばらく悩んだあと、「違いますね」と答えた。


治療師ドクターの見立てがないとはっきりとは言えませんが、療養所から私が派遣されてきたのは、タイロス殿は忘却病オブビリオンだと思われるからです」


忘却病オブビリオン!なんと、そんな!?タイロス様ほどのお方が?」


スパイルの反応はルイスには予測がついていた。

今までも、英雄と呼ばれる程の者が衣類に気を使わなくなったり、食事をしなくなったり、奇声をあげたり、他人に危害を与えるようになっても、その周りの者はそれが忘却病オブビリオンによるものだとは考えていないのを何度も見てきた。


「ええ、忘却病オブビリオンはどんな人でもなりうる病気です。王立療養所には、かつて英雄と呼ばれた方もおられます。ただ、治療師ドクターがはっきり見立てをしないとそれとは言えませんが、ここ数ヶ月音信不通であったことなどを踏まえ、マールベルグ王は私に様子を伺って来るように命ぜられました」


「なんと、タイロス様が忘却病オブビリオンなど。まさか……いや、でも」


スパイルは動揺を隠せなかったが、どこか納得もしているような複雑な感情を抱いているようにも見えた。

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