第23話 療養そして日常へ

 球技大会で倒れてから一週間、雪乃は家で休むことになった。

 本人は大丈夫だと言い張るが、周りがそれを止めたのだ。

 雪乃の病気は原因不明、その症状もハッキリと全てわかっている訳では無い。

 雪乃の主治医である緒方先生は、この病気のことを学会で発表したくらい珍しい病である。

 何が起こるかわからない故に、多少過保護になってしまうのは仕方が無いだろう。

 雪乃もそれは理解してはいるのだが、元気なものは元気なのだから不満でしかない。

 雪乃がこうやって元気に毎日を過ごし、笑っているだけでも雪乃の両親は嬉しいのだ。


「ねぇ、もう一週間も学校休んでるよ。お母さんもう学校に行ってもいいでしょ?」

「んー、そうね。流石にもう大丈夫だろうし。雪乃もこれに懲りて無茶はしないようにね?」

「はーい……」


 月曜日


「ゆき姉、学校行けるようになったの?」

「うん!今日からまた一緒に行けるね!」

「もう無茶したらダメだよ?こうやってまた学校行けなくなっちゃうかもしれないんだし。私、寂しいよ……?」

「ごめんね、穂海ちゃん。次からは気をつけるから。」


 教室に着くと、ずっと心配してくれていたのだろう、クラスメイトに囲まれた。


「三好さん、もう大丈夫なの?」

「身体弱いってホントだったんだな。」

「三好さんおかえり」

「はいはいみんな、雪乃が困ってるでしょ。それにやっと学校来れるようになったのに、みんなが詰め寄ったらまた倒れちゃうわよ。」


 見かねた美咲がみんなを止め、やれやれという様子で雪乃を助けてくれた。


「ありがとう美咲ちゃん。」

「いいのよ。それよりもう大丈夫なの?」

「うん、お母さんが念の為休めって。わたしは全然大丈夫だったのに……。」

「それは仕方ないわよ、実際たおれたんだし。」

「そうだぞ、またすぐ倒れないように体力も回復させないといけないんだから適度に休んだ方がいい。」

「怜くんは、ちょっと過保護過ぎると思いまーす。」

「なんとでも言え」


 怜は不機嫌なのだろうか、いつもより距離を感じるというか角があるというか。そんなに心配かけてしまったかなと雪乃が不安になっていると、美咲が小声で教えてくれた。


「雪乃、怜はあんな感じだけど、雪乃が休んでる間すごく心配してたんだからね。」


 なんというか、怜の行動は全て美咲に筒抜けのようだ。


「てか雪乃、私たちまだ連絡先交換してなかったじゃん。心配で連絡しようと思ったけど交換してなかったからどうしていいか分からなかったわよ。はい、これ私のQRコード。」

「そういえば交換してなかったね。これでよしっと。」

「ほら、怜も早く携帯出しなさいよ。」

「お、おう……。」

「何画面を見つめてんのよ、そんなに嬉しかったの?」


 ニヤニヤしながら問い詰める美咲に、困った表情の怜はいつ見ても仲がいい。


「怜くん、何かいい事あったの?」

「雪乃ー、それはねー」

「ばっか、美咲変な事言うんじゃねーよ。なんでもないからな雪乃。」

「えー、気になる……。美咲ちゃん教えて?」

「んー、流石に怜が本気で怒りそうだからやめとく。それに、こうやって見てる方が楽しいしね。」

「うーむ……」

「まぁ、勝手に言われる用はマシか……」


「そういえばさ、雪乃は体育どうするの?さすがにあれの後じゃ先生も止めるだろうけど。」

「私はやりたいけど、また何かあったら家から出て貰えないかもしれないから暫くは見学かなぁ……。」

「それもそうよねぇ。」

「部活には来れるのか?文成先輩も心配してたから、顔だけでも出した方が良さそうだけど。」

「部活は特に何も言われてないし、普通に行くよ?」

「そうなのか?」

「うん。」

「なら、いいか。」


 午前の座学は変わらず受け、午後にあった体育は大人しく見学した。

 途中、様子を見に保健室の先生が覗きに来た時は何事かと思った。

 放課後は掃除当番であったが、クラスのみんなが我先にと手伝ってくれたのでものの数分で終えること後できた。


「お久しぶりです、文成部長。」

「よく戻ってきてくれた雪乃くん。無事で何よりだよ。」

「心配かけてすみません……。」

「いいんだ、俺が勝手に心配してるだけなんだから。それに、君は既にこの家芸部の一員なんだ。俺にとっては大切な身内の一人だよ。」


 予想外の返しに驚いて呆然と立ち尽くす雪乃を見て、文成は自虐気味に笑った。


「まぁ、言ってることが気持ち悪いのは認めるから早く中に入りなさい。ドアが開けっ放しだと落ち着かないからね。」

「あっ……は、はい!」


 こうして雪乃は、新しい日常へと戻ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る