第10話 猛吹雪の停電 その2
窓から見える景色は荒れ狂う白色だった。
雪乃からすればまさに別世界の光景であった。
家全体がガタガタと揺れ、台風が直撃した時のようであった。
「音、凄いね。冬はいつもこうなるの?」
「いや、普通はならねぇ。せいぜい数年に一度って感じかな。前は俺が小学生の時だっけか、それくらい前だ。」
「あの時は怖かったなぁ……。私、まだその時は十歳にもなってなかったもん。」
「お前、めちゃくちゃ泣いてたもんな(笑)。お兄ちゃん怖いよーって。」
「もう昔のことでしょ!?人の黒歴史勝手に言わないで!」
「穂海ちゃん、昔から仲が良かったんだね。羨ましいよ」
「ちがうんだってばー!」
「にしても、冬だから多少の備蓄はあるとはいえ大丈夫か?これ」
「んー、一応お母さんに聞いてくるね。」
「どうしたの?」
「あぁ、こっちではこういう天気が数日続くことがあるんだよ。危なくて外に出られないしな」
悠誠はこの地域が過去に雪や雪崩などで孤立した事があることを教えてくれた。
その時は復旧までにかなりの時間がかかり、自分たちが生きる為に家畜を食べなくてはいけなかったそう。残った家畜も痩せ細り、売りに出すことも出来なかったという。
それ以来は、毎年冬には食料の備蓄は欠かさない。
つまり、その時と同じようになってしまったらその後の生活自体も厳しくなる。
この村にとって一大事なのである。
「じゃあ、今回も……?」
「それはわかんねぇ。前の時は二、三日くらいだったからな。今回も大丈夫だろ。」
「なら、大丈夫?だね。」
「そうだ、今日はもう勉強も終わったし体力トレーニングでもしてみるか?」
「できる……かな?」
「大丈夫、最初は軽くやって、慣れてきたらだんだんときつくする。体調崩したら元もこうもないしな。」
「はい。じゃあ、お願いします。」
この日の午後は体力トレーニングをすることになった。スクワット七回、腕立て三回、腹筋五回、背筋六回という結果になった。膝は力入らなくなり、腕はぷるぷる、お腹の力が入らなくなって、背筋は体が持ち上がらなくなって終了。
正直、もう何もしたくなくなっていた。
明日、筋肉痛になっているか不安になった。筋肉痛なんてもう何年もなっていない。
結果としては、筋肉痛にはならなかった。多少違和感はあるけど、痛くはない程度ですんだ。さすが悠誠様々である。
猛吹雪で家から出れなくなくなってからは午前勉強、午後体力トレーニング&自由時間というスケジュールになっていた。
体力トレーニング終わりには悠誠からザパスのプロテインダブルショコラ味をもらって飲んでいたら、穂海がきて「ゆき姉がムキムキになったらどうするの!」と怒鳴っていたが、この程度の運動とプロテインだけではそんなに筋肉はつかないから大丈夫だと諭されていた。むしろある程度の筋肉があると太りにくい身体が作れるらしい。それを聞いた穂海ちゃんが目の色を変えて、一緒にトレーニングをすることになった。みんなと一緒のことが出来るのはやっばり嬉しい。
吹雪に襲われて二日目の夜。
突如、家中の電気が消えた。
突然のことに驚いた雪乃は悲鳴を上げてしまったが特に怪我などはなかった。直ぐにお母さんや悠誠が懐中電灯やランタンを持って来てくれた。
何度もブレーカーを上げたりしたが電力が戻ることがなかったことから、電柱や電線自体に何かが起こったと予想出来た。
ここで一番の問題が暖房である。全ての暖房設備は電力で動いているため使えない。
発電機は一台あるのだが、家の外にある倉庫にしまったままで取りに行かなくてはいけない。
子供に危ない真似はさせられないと、親たちは倉庫まで発電機を取りに行くことになった。
当然、雪風が強く寒い。
しかも、雪も積もっているのでこれをどうにかしなければならない。
結局、三十分ほどかかり発電機を家に持ち込むことができた。
発電機といえど一台しかないので、一階にある客間でみんなで寝ることになった。
みんな精神的にも酷く疲れていたのかすぐに寝てしまった。
吹雪が収まったのは、次の日の昼過ぎだった。
昨夜、親たちが必死になって家から倉庫までの道の除雪作業をしていたおかげで何とか外に出ることが出来た。
家の周りを囲む雪の壁は雪乃の背丈ほどありこれからみんなでこの雪をどうにかしなければならない。
雪乃は基本的に、みんなのご飯を作ったりと肉体労働からは外れている。
まだ電力が届いていない状況なので、邪魔な雪で大きなかまくらを作り、その中で過ごしている。
幸い、ガスはプロパンガスなので使える状況ではあるが、かまくらの中で持ち運び式のガスコンロを使っている。
こうすることによってかまくらの中は暖かく、簡単な料理も作ることが出来る。
余っている食材の中から、痛みやすいものを優先的に味噌汁に入れてるだけである。
冷凍庫の食材は袋にまとめて雪の中に埋めているので暫くは大丈夫だろう。寒いとこういう時に食材が無駄になりにくいのはいい点だと思える。
除雪作業を初めて一時間経った頃であろうか。自衛隊のヘリコプターが上空を旋回し始めた。
「あれは自衛隊の災害派遣か?」
「被害の度合を確認しに来たんだろう。動けなかったのは数日だったし、除雪作業と炊き出しくらいで終わるだろ。」
大変な除雪作業が少しでも楽になると悠誠と悠誠のお父さんが話し合っていた。早く豚たちの様子も見に行きたいだろうし、一日でも早く元の生活に戻れるに越したことはない。
自衛隊災害派遣部隊が作業開始し、十日後には粗方の作業を終え各駐屯地に帰って行った。あとの作業は、村民の仕事である。
「なんとか豚たちも無事だったみたいで良かった。今日はいっぱい飯食わせてやるからな。」
吹雪が止んだ日にはなんとか様子を見に行くことができ、豚たちの無事を確認していた。
寒さや空腹に対してストレスがあったり、霜焼けしてしまってはいたが、何より無事だったことが一番。
吹雪が止み、一連の作業が終わって元の生活に戻った頃、雪乃は熱を出して数日間寝込んだ。きっと、緊張の糸が切れてしまったのだろう。
雪乃の体がここまで持ったのは、幸いと言えるだろう。
普段の生活ならば、体調を崩して倒れることもかなり少なくなってきた。
病状はゆっくりと、しかし確実に。
雪乃の身体は順調に回復傾向にある。
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