第2話 デートの約束

「はい、これ。ちゃんと使い方教えてもらうんだよ。」


誕生日の日。仕事に行く前のお母さんが、私にスマホをプレゼントしてくれた。

今までは、特に必要無かったので欲しいとも思ったことはなかった。


「これ、どうしたらいいんだろう?」


シンプルなデザインの箱を開けると綺麗に収められているスマホにハテナマークを浮かべていた。


「後で穂海ちゃんに聞いてみよ。こんなこと聞いたら飽きられちゃうかな……?」


しかし、養豚場を経営してるこの家にはこの時間誰もいない。

お昼頃に勇気をだして恐る恐る部屋の外を探索したが人の気配すらないことに、何故か安堵している雪乃がいた。

まだ慣れない家の中をキョロキョロしながら部屋に戻っていると、穂海の兄の悠誠が帰ってきた。幸か不幸か玄関に入ってきた悠誠と新しいスマホの箱を抱き抱えた雪乃と目が合ってしまった。


「ただい……ま……」

「お、おかえりなひゃいっ!」

「お、おぅ……。雪乃か、部屋から出歩いて体調は大丈夫なのか?」

「は、はい。大丈夫だと思います。最近は体調もいいので。」

「そうか。じゃあ俺は着替えたら親父たちの手伝いに行ってくるから先にお昼食べておいてくれ。多分冷蔵庫に入ってると思うから。」


雪で濡れたコートを脱ぎ、そのまま階段を上がっていく。


「そうだ、それ。使い方わかんねぇなら後で教えてやろっか?」


雪乃が大切そうに抱えている箱を指さしながら顔はどこか別の方向を向いている。一瞬なんのことが理解できなかった雪乃は首を傾げたが、すぐに理解することが出来た。


「じゃ、飯食ったら部屋で大人しく待っとけな。」


悠誠は強引に話を切り部屋に入っていった。初めてあった時からあんな感じで、気を使ってくれるのだけど、どこか不器用さが抜けない。

優しいことは間違いないんだけど、見た目が野球部のまんまなのもあって少し話しずらいのが本音である。体大きいし、ガタイもいいし、少し怖い。


スマホの箱を一旦部屋に戻してお昼ご飯を食べにキッチンへ。悠誠に教えて貰った通り冷蔵庫の中にラップに名前が書いてあるオムライスが置いてあった。


「……いただきます。」


お昼ご飯に食べたこのオムライスは、どこか薄味に感じた。



その日の夕食後、雪乃の部屋に悠誠が来ていた。


「本当に来ると思わなかったです。」

「嫌だったか?嫌だったら出ていくけど……?その前に、その敬語辞めてくれないか?」

「でも……わたし……」

「まぁ、無理には言わないけど、出来れば敬語は辞めてくれ。従兄妹だし、年も大して変わらないんだ。それに、距離を感じるし……。」

「頑張ります……。」

「よし、気を取り直して始めるか。」


空気はとても気まずかったが、悠誠は丁寧に優しくスマホの基本的な使い方を教えてくれた。


「まぁ、細かい事とかは穂海の方が知ってるだろうし、また今度聞いてみな。俺からも言っといてやるし。」


自分のスマホと雪乃のスマホを同時に触りながら話すってとても器用だなぁ。と雪乃はただ感心していた。


「ほい、これ俺の連絡先な。この緑色のアプリで簡単に連絡できるから。」


ポンっ、と音に驚いて自分のスマホを見ると、親指を上げた可愛い猫のスタンプが送られてきた。


人は見かけによらないなぁ……


悠誠の可愛い一面が見れて、部屋を出て自室に戻っていく悠誠を眺めながら、少し笑ってしまった。


「ぁ……聞こえちゃったかな?」


「あーーー!!お兄ちゃん、なんでゆき姉の部屋から出てきてんの!?」

「べ、べつにいいだろ!?」

「よくない!私のお姉ちゃん取らないでよね!」

「取らねーし、お前のものでもないだろ!」

ドア越しに聞こえる兄妹の会話に少し胸がきゅっとした。


(わたしも、あんな風に仲良く話せるようになれるかな?)



「ガチャッ!」と勢いよく部屋に入ってきた穂海にとてもびっくりしてしまう。


「きゃっ!?」

「ゆき姉〜、お兄ちゃんがいじめてくるよぉ……穂海を慰めてぇ……」


座ったままの雪乃は、抱きついてくる妹分に驚きながらも、そっと頭を撫でてみた。


いつもはテンションが高くて話についていけないけど、こうやって大人しくなってると懐いてくる動物みたいで可愛い。


開けっ放しのドアの外でバツが悪そうな顔をした悠誠が部屋に戻っていくのを雪乃は見ていた。


「そうだ、穂海ちゃん。LiNe交換しない?」


兄妹の会話を聞いて羨ましく思った雪乃の精一杯の言葉。きっと、断られたら泣いてしまうのだろう。


「あれ?ゆき姉スマホ持ってたっけ?」


きっとさっきのは嘘泣きだったのだろうか、ガバッとあげた顔はケロッとしていた。


「うん、お母さんが買ってくれたの。だめ…かな?」

「ううん!今スマホとって来るから待っててね!」


せめて、ドアは閉めて言って欲しかったな……笑


この日の晩、雪乃は無事二人目の連絡先を交換することが出来た。


朝起きると穂海からのLiNeが数十件溜まっていた。


同じ家にいるんだから直接話せばいいのに


そう思いつつも、文面の方が饒舌になる雪乃であった。


週末は穂海ちゃんと買い物デート決まった。

女の子同士なのに何故デートというのかは分からないが、穂海ちゃん曰く、デートらしい。


最近、体調も良くなってきてるしお母さんも許してくれるよね?


説得の結果、天気がいい事と体調良いこと。悠誠が付き添いで来てくれることが条件となった。

勿論近くの街までは車で送り迎えである。

雪乃の説得はまだまだ続きそうであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る