純白の魔法少女はその身を紅く染め直す
細木あすか
宣伝〜こんなお話です〜
魔法少女は忙しない
「こうちゃあああああああああああンンンン!!!」
この世界に住まう人間は、2種類に分かれている。
それは、魔力を宿す者と宿さぬ者。
「な、なんじゃ!また扉を壊しおって!」
ここ、レンジュ大国は他国と比べて魔力を宿す人間が多く住まう国だった。
魔法使いの多いレンジュでは、人々が魔法を使って暮らしている。国から発行される任務を遂行し生計を立てる人もいれば、魔法を使って自営業を営む人も。
故に、この国に住まう人々は、幼い頃から「魔法アカデミー」に通い魔力コントロールを身に付けることが義務となっていた。
「えへへ。今日は綺麗に割れたよ」
また、他国との貿易が盛んなのも特徴で、常に新しい文化を取り入れようとするためか今も著しい発展を遂げている。周辺国の中では、国土面積も人口も一番だ。
これは、そんなレンジュ大国に住まうある1人の魔法少女のお話である。
「……わしとしては、扉を壊さず綺麗に入ってきて欲しいがな」
「ちょっと!そんな平凡な登場の仕方で私が満足するはずないでしょうに!」
「お主の満足度よりも、扉の修繕費の高さを気にして欲しいのう……」
執務室だろうか。
壁際にびっしりと並べられた本棚、中央に堂々と置かれた机と椅子が部屋を訪れる人を出迎えてくれる。
しかし、その机に座る人物は少々扉前からは見えにくい。なぜなら……。
「それよりも!こうちゃん、また執務溜め込んだでしょう。なんでそんなに書類積みが好きなの!?」
「好きなわけあるか!これでも一生懸命やっとんじゃ!!」
「嘘!だって、午前中ドラマ見てたの知ってるもん!」
「……さてと、仕事でも片付けようかの」
見事に破壊された分厚そうな扉の上に、白髪に白いキャミソールワンピース姿の少女が立っていた。その瞳は、黄色く輝いている。
この物語の主人公、名を「天野ユキ」と言う。
12歳という年齢にしては成熟した体つきである彼女は、腰に手を当てながらズイズイと部屋の中に入ってくる。
その分厚い扉を壊したとは思えない体型ではあるが、彼女も魔法使い。その身体には、秘めた力を隠しているのだ。
「もう、こうちゃんったら〜。後で今宮さんに言いつけちゃう」
と、ユキが先ほどから話しているこの人物。実は、この国のトップ「皇帝」その人である。
ユキに向かって渋い表情で言い返すも、全て返り討ちにされてしまう始末。世界の中でも権力を持つ国の皇帝も、ユキを前にすればただの「こうちゃん」になるらしい。目の前に山のように積まれた書類を捌きつつも、ため息は止まらない。
「だったら、わしも黙っとらん!また扉壊したことを宮に言い付けるぞ!」
「どうぞ〜。どうせ、修繕手配するの今宮さんだし〜」
「ちょっとは反省したらどうかの……」
「してるしてる〜。次は、もう少しまっすぐド真ん中で割るようにするよ」
「……話、聞いていたかの」
国民がこの姿を見たら、嘆くに違いない。
「聞いてた聞いてた」
「じゃあ、今の話を要約せい」
「いいよー。まとめると、私が可愛くて羨ましいってことでしょ?」
「……もう一度、部屋へ入ってくるところからやり直してはどうじゃ」
「えー、いいよ。美人は過去を振り返らない!」
「ちょっとは振り返れ!今日で扉破壊何回目じゃ!」
「えっとねー、今週に入って告白された回数が〜」
「はあ……」
「お父様、いる?追加で見て欲しい書類が……」
そんな皇帝との会話を
破壊された扉の向こうから、女性の声が聞こえてくる。ユキは、その声が聞こえるか聞こえないかのタイミングで自身に魔法を施した。
それは、パチパチと音を立てて光を発し彼女の全身を変化させる。その光が消えた頃、タイミングよく扉が開いた。
「あら、ユキもいたのね」
「姫!聞いてよ、こうちゃんがね」
「ちょっと、お父様。ユキのこといじめないでもらって良いかしら?」
「彩華、逆じゃ。逆!」
今まで少女が居た場所には、すらっとした青年が立っていた。
先ほどとはうって変わって、黒髪黒目、バランスの整った顔立ちに身体つき、シンプルなシャツにジーンズ姿を披露している。この姿も、ユキである。
「それよりも!どうしたの、この扉。物騒ねえ」
「そうなんだよ、今その話をしてて」
「どうせ、またお父様が暴れたんでしょう。今宮さんを困らせないでよね」
「す、すまんかった……?」
この女性は、皇帝の1人娘である彩華姫。この国の皇帝代理を務める人物だ。いつも赤い民族衣装に身を包み、ニコニコ笑顔で周囲の人間を癒してくれる。
分厚い書類を抱えてきた彼女は、そのまままっすぐ部屋に入り机の上にそれを置いた。追加書類に、皇帝の顔が大きく歪んだのは言うまでもない。
「それより、姫。今日は天気が良いよ?中庭でお茶しない?」
「いいわね!お父様、今日の仕事は終わったから良いかしら」
「……たまにはわしの手伝いを」
「だあめ。少し手伝うと調子乗ってどこかへ消えてしまうんですもの。お父様のために、心を鬼にしてユキと遊んでくるわ!」
とは言うものの、要するに遊びたいのだ。
彼女は、18歳。遊び盛りな年齢である。隣にいるユキの腕を引っ張り、今にでも執務室を出て行きそうな勢いを見せつけてくる。
「……稽古までには帰ってくるように」
「はあい。ね、ユキ。行きましょう」
「行こうか、俺の可愛い姫」
と、キザったらしく手の甲に唇を落とすユキ。
ポーッと顔を赤くする彩華と共に、すぐさま消えてしまった。すると、執務室には再び静寂が訪れる。
「……いつまでもこんな日が続くと良いのう」
執務室奥にある大きな窓からは、太陽の光が優しく差し込んでくる。
皇帝は、その光に微笑みながら書類へサインを書いていった。そろそろ、付き人である今宮も帰ってくるだろう。
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初めまして、または、いつも作品をお読みくださりありがとうございます。
細木(さざき)あすかと申します。
この度、以下の改稿をするため一旦全てのお話を下書きに戻させていただきました。
【タイトル変更】
・『魔法使いは約束を忘れない』→『純白の魔法少女はその身を紅く染め直す』
【全話改稿】
・全話改稿(流れは特に変更されません)
・章最後にエピローグ追加
【番外編強化】
・本編と関わりのあるものは本編へ場所を移動
・番外編の小見出しを見やすく修正
・内容の見直し
上記を考えております。
なお、本編は6月1日よりスタートさせていただきます。お付き合いいただけると幸いです。
引き続き、ユキたちをどうぞよろしくお願いいたします。
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追記
本編の準備が整いましたので、明日29日より順次公開して参ります。
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